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LOG.7 ― エスコート / ESCORT ―

——実話。


こんな人生で、マトモは無理だった。


これは、

現実にあったかもしれないし、

無かったかもしれない。


もう一つの結末。

————







港を出て、2人は夕方の海へ向かう。




ハンドルを切るたび、

ミカは少しずつ静かになっていった。




でも、

助手席の足の“パタパタ”だけは速くなる。



ミカの足は、感情を隠せない。


楽しいとき、

不安なとき、

期待しているとき。



犬のしっぽみたいに、ふいに動く。








ーーー







海に着いた瞬間、

ミカは背伸びして、深く息を吸った。







ミカ

「……海の匂いってさ、落ち着くよね。」







さっきの無邪気な声じゃない。


どこか、

ふわりと力が抜けた声だった。


そのままミカは、

ふっと砂浜に駆けていく。



両手を広げ、少女のように走った。







シン

「おいおい、はや」




ミカ

「つめたっ!」

「でも……気持ちい〜」




波が寄せるたびに

裾をつまんで逃げる。



光に揺れる生足がちらついて、

美しくて、危うい。



シンはその姿に釘付けだった。








ーーー








しばらくしてミカは振り返った。


夕日を背にしたその姿は、

もはや神聖にさえ見えた。





ミカ

「ねぇシン、あっち歩こ?」







シンの袖をちょん、と引く。




人気のない端のほうへ歩くと、

海の音だけが響いた。





ミカ

「今日ね、」

「ずっと楽しみにしてたんだ〜」




少しだけ、声の奥に影があった。





ミカ

「美味しい牡蠣も食べれたし…。」

「海も来れたし…。」

「何も考えないで済むから、楽しかった。」

「シンとも会えたし。」








シンは返答を飲んだ。


というより、

選ぶ言葉が分からなかったのだ。






ミカは返答を待たず、



ぽつりと、

ひとつだけ重い言葉を落とした。








ミカ

「こういうの、あんまり無いからさ~…」








その横顔は、

不自然なほど静かだった。




ミカ自身が

自分の言葉の重さに気づいてなかった。







ーーー






ふいに、

ミカがシンの手を取った。


ためらいのない指。






ミカ

「……あったかい。」

「ねぇ、エスコートして?」

「歩いて?」






シン

「う、うん……」








数歩歩いたところで、

ミカは急に立ち止まり、

シンの胸にガバッと顔を埋めた。







ミカ

「今日、ありがとね。」








その声は笑っているのに、

どこか哀しかった。




少女みたいな無邪気さと、

壊れかけた大人の不安が、

ぐちゃぐちゃに混ざっている。







ミカ

「ねぇシン……」

「ミカのこと、どう思ってる?」








問いただすためじゃなくて、

“確かめるための声”だった。



返事を待たずに、

強くシンの胸を掴む。








ミカ

「ミカのこと嫌い?」








甘えでも誘惑でもない。

支配でもない。



これは、

“私は愛されていい?”

を確認する声だった。



美しくて、痛くて、脆い声。







シンは困惑していた。


どうしよう、と。





ミカは

”自分がどれだけ愛されてるか”

確かめたいだけ。



それが、

不安から来ていることくらいは、

シンにも、なんとなく分かっていた。









シン

「……嫌いじゃないよ。」









シンの、

少ない経験値の中で

彼なりに一所懸命 ひねりだした、


傷つけないオブラートの言葉。



その瞬間、

ミカはふっと息を吐いた。


短く、呆れたように。








ミカ

「アンタ…」

「しぶといのね…」








なんだかミカは悔しそうだった。





きっと、

他の男は

あっという間にデレたんだろう。




しかし、

彼は他人に興味が無い。



そういう意味で、

彼は“簡単には転ばない男”だった。






ミカは胸から離れて、


海風で揺れる髪を

耳にかけながら振り返る。




さっきまでの無邪気なミカじゃない。


“魔性のミカ”の目。






夕日が沈む海を背に、ミカは歩き出す。


その横顔は、

ほんの少しだけ笑っていて、

ほんの少しだけ寂しそうだった。







ミカ

「よし。帰ろっか。」







壊れそうなくらい繊細で、

触れたら崩れそうなのに、

世界で一番強い顔をして。


どこまでも

気高く美しいミカだった。

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