LOG.10 ― 名は、メイ / THE MEI ―
——実話。
こんな人生で、マトモは無理だった。
これは、
現実にあったかもしれないし、
無かったかもしれない。
もう一つの結末。
————
撮影の日になった。
ミカから
シンにLINEがきた。
ミカ
『今日、よろしくね!』
『実は、喜ぶかと思ってさ、』
『プロの 撮影班呼んでみた!』
シン
『えっ!?』
『ありがとう!助かる!』
ミカ
『もちろん お金はいらないよ!』
『モデル料だけでいいよー!』
シン
(…うーん)
(嫌な予感がする…)
ミカが
"見返り無し"に優しくするわけない。
それを知っていた。
ミカ
『その代わり、映画いこ』
『すずめのドア、付き合って!』
『アレ見たいの!』
『撮影終わったら行こ♡』
シン
『いや、もう2人で会うのは…』
『ちょっとさ…』
ミカ
『プロの撮影班いるのに?』
『それとも…』
『マスターにホテルの事言う?』
シン
(ほらね…)
シン
『わかったよ、行こう』
ミカ
『ふーんだ!』
『それでいいのよ!』
『モデルとデートできるんだから、
ちょっとは喜びなさいよ!』
『じゃ、また撮影でー!』
自分の都合で
どんどん逃げ場を埋めていく。
ミカの必勝パターンだった。
ーーー
時間ぴったりに、
店の前へ白いワンボックスが
滑るように止まった。
スライドドアが開く。
ミカが降りてきた。
その後ろから、
・カメラマン
・証明
・メイク
・レフ板を持ったアシスタント
・機材持ち
“プロの現場そのもの”
みたいな集団が
次々と降りてきた。
金属の三脚が広がる音が、
店の空気を一瞬で“現場”に変えた。
シン
「おぉ……!」
ミカ
「今1度、確認ですが」
「請求の料金は
変わりませんのでご安心ください。」
ミカが、
ヒールの音を響かせて、
シンの横を素通りする。
シンは
ミカがLINEと別人すぎることに
驚きを隠せずにいた。
それは
ミカからメイに
切り替わった合図でもあった。
クルーたちが一斉に会釈してくる。
その瞬間、シンの店は
完全に“メイの現場”になった。
シンは
ただの備品みたいに横に立っていた。
主役はミカでもなく…… メイ だった。
ーーー
ミカはクルーに囲まれ、
メイクされ、
ライトを当てられた。
その一瞬で、
目の奥の温度が“ゼロ”になった。
表情は綺麗。
動きは優雅。
声も柔らかい。
なのに、人間味が全部消えている。
まるで、
“違う生き物”みたいだった。
クルー
「じゃあ来店シーンからー!」
「メイちゃん、次はこっちねー!」
「はい可愛い、メイちゃんそのままー!」
撮影は容赦ないテンポで進む。
ミカ
「ここ使っていいですか。」
「背景はこちらの壁、借ります。」
「施術シーンは照明 どうしますか?」
声は丁寧なのに、温度がまったくない。
当たり前だが、
どの世界もプロというのは
メリハリがあるものだ。
ミカは特に、
激しいタイプなのかもしれない。
ーーー
撮影が終わった。
クルー
「もし他にもお仕事あれば、」
「今後ともよろしくお願いいたします!」
と、クルーはシンに
ぺこりと頭を下げた。
クルーが車に荷物をまとめ始める頃。
ミカ
「シン。」
こっそりミカが話しかける。
シン
「ん?」
「どうしたの?」
「皆、車に行ったよ?」
ミカ
「うん」
「約束覚えてる?」
「アンタ、約束守んなさいよ?」
「このあと3時に、」
クルー
「メイちゃーん、荷物積みますねー!」
「もう出ますよー!」
車のほうからクルーが呼びかける。
ミカ
「ちっ…」
「はーい!♡」
顔だけ、
こちらに向けてシンを見るミカ。
ミカ
「もっと嬉しそうにしなさいよ」
「モデルとデートなのにさ!」
「じゃ、LINEするね!」
「バカ童貞!」
シンは
小さくため息をついた。
ミカがクルーの車へ向かい、
"ミカの香り"が薄くなった。
ミカは車に乗ってすぐ、
シンにLINEを送ってきた。
ポン、と通知が鳴いた。
⸻
ミカ
『フォレスト来て。』
『そこで待ち合わせね。』
⸻
前と同じホテル。
シンは心から思った。
シン
(なんでホテルなんだよ…。)
(映画何時からなんだよ…。)
とはいえ、
行かなきゃならなかった。
しかし…
大ピンチである。
今日の彼は、
"逃げれない日"なのだ。
男性ホルモン満タン状態の
シンの運命や、いかに。




