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名前のない家  作者: ねけば
side B ~構築~
19/19

ep10/side B: 新しい地図

区役所の窓口で手続きを終えた帰り道。  二人はそのまま、完成間近の分譲地へと向かった。    調布の駅から少し離れた、静かな住宅街。そこにはまだ木材の匂いが漂う、建築途中の「家」があった。  骨組みが立ち上がり、部屋の形が見え始めている。   「ここが玄関で。……ここで、靴を脱いで」  陽翔が、まだ床板も張られていない空間を指差して、嬉しそうに説明する。 図面を見るだけで、そこで営まれる未来の生活を鮮明に描き出せるようだった。


「リビングの窓からは、公園の緑が見える。……子供が大きくなったら、あそこで遊ばせよう」 「いいわね。……私は、キッチンからその様子が見たいな」


 二人は、何もない空間に、これから積み上げていく幸福の幻影を重ねていた。 彼らの結婚は、未来を植えるための「耕作」だった。


 帰り際、二人はまだ名前の書かれていないポストをそっと撫でた。  数ヶ月後、ここには「藤原」という表札が掲げられる。   「……帰ろうか、陽翔。」 「うん。……あそこも、もうすぐ卒業だね」


 夕暮れの街を、二人は歩幅を合わせて歩く。  澪の隣を歩く陽翔の背中は、かつて彼女に縋っていた少年の面影を残しながらも、今は隣にいる女性と、まだ見ぬ小さな命を守るための厚みを備えていた。


「なあなあ」で始まった関係。  けれど、彼らがたどり着いたのは、強固で、健康的で、そして切実な「家」だった。


「……ねえ、陽翔。今日のご飯、何にする?」 「お祝いで、ちょっといいお肉買って帰ろうか。……あ、でも澪は生もの控えてるんだっけ」 「そうだった。じゃあ、ステーキにしよ。……お父さん」


 澪が悪戯っぽく言うと、陽翔は耳まで赤くして、けれど誇らしげに彼女の手を握り返した。


 空には一番星が輝き始めている。  二人の長い「姉弟ごっこ」は終わり、今日、世界で一番新しい、そして誰よりも家族に飢えていた二人の「本当の家族」が始まった。

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