鶯
山頂に車が停まった
だれかが入った
タクシーは動き出した
「お客さん、今日はいい天気ですね」
「そうですね」
「ほら、鶯も鳴いてる」
「そうですね」
「もう春ですよ」
「そうですね」
タクシーは動いていた
黒い獣のように
ぼくを丸め込む獣のように
「お客さん、今日、死ぬんですか?」
「えっ…」
「いや、今日、死ぬのかなと思いまして」
「それは…」
「そうですか」
雲はそろそろと動いていた
ぼくの雲行きを心配していた
迷子になってしまったぼくを
「お客さん、まだ人生は始まったばかりですよ」
「そうですか」
「何があったか知りませんが」
「はい」
「あなたは元気があるようで元気が無い」
太陽は堂々としていた
君なら辿り着けると
心配いらずだと
「何か良いことでもありましたか?」
「はい」
「だから、心配してしまう」
「そうです」
「あなたは心配性なんですね」
月は見守っていた
遠くから見守っていた
君なら大丈夫だと
「ぼくは幸せになったんです」
「そうですか」
「だから、もう十分なんです」
「そうですか」
「もう目的は達成しましたから」
「安心したんですね」
「はい」
「幸せになれて」
「はい」
「そうですか」
キューーーーー
タクシーは停まった
突然のブレーキだ
「お客さん、ちょっと外出ませんか?」
運転手は外に出た
ぼくも続けて外に出た
ホーホケキョッ
そこに誰かいた
「お客さん、これが誰か分かりますか?」
「これは鶯ですか?」
「いえ、違います」
「でも、見た目は鶯ですけど」
「でも、違うんですよね」
運転手は小鳥を両手で包んだ
そして、ぼくの肩に乗せた
「大事にしてください」
「はい」
「いずれ、あなたにとって大切な人になります」
「分かりました」
「まだまだ旅は始まったばかり」
「そうですね」
「本当の幸せはこれからですよ」
「はい」
「頑張ってください」
「ありがとうございます」
「応援しています」
「はい」
「雲の上から」
タクシーは動き出した
無人のタクシーだった
あれ?運転手は?
そう思った人もいるでしょう
運転手なんていませんでした
最初からいませんでした
ホーホケキョッ
でも、大丈夫
鶯はいます
あなたの肩の上に
だから、大丈夫です
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