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ラベンダー・キャンベルの『悪役令嬢』に挑んだ後、婚約破棄される公爵令嬢は、先に婚約破棄を申し出ます  作者: ましろゆきな


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第八話:理性の剣と愛の鎖

「私は、クロエ嬢の『愛の契約者』だ。君が純粋な献身などと戯言を言っている間に、彼女の心と身体を支配した者、と言えば理解できるかね、騎士殿?」


 ゼノスの声は低く、その言葉には露骨なまでの勝利の自慢と、ユーリへの見下しが滲んでいた。彼の腕はクロエの腰を締め付け、その魔力が彼女の身体にまとわりつく。


 ユーリは、ゼノスの圧倒的な魔力と、クロエの首筋に刻まれた隠しきれない赤い痕跡に、激しい怒りと動揺で顔を青ざめさせていた。


「貴様……! クロエ嬢を誘拐し、何という真似を……! 私は貴様を、地の底までも追い詰める!」


 ユーリが剣に手をかけた瞬間、クロエは、自分の怒りがゼノスへの反抗心を凌駕していることを自覚した。彼女は自分の目的を思い出し、冷静さを取り戻そうと努めた。羞恥心はまだ残っているが、それを押し殺す怒りのエネルギーが、彼女を動かした。


「ゼノス!」


 クロエは、低い声で叱責するようにゼノスの名を呼んだ。そして、彼の支配的な腕を力任せに振りほどいた。完全に振りほどけなかったが、一歩、ユーリの方へ踏み出したことで、物理的な距離を作った。


「ユーリ、落ち着いて。私は誘拐されたわけではありません。これは……運命の筋書きを破るための、やむを得ない協力関係です」


 クロエは、顔を真っ赤にしながらも、冷たい理性を保ち続けた。


(この男に、私の身体を弄んだ代償を払わせるには、今は協力を継続するしかない)


 怒りによる打算が彼女を支えていた。


「ユーリ、話すべきことは山ほどあるけれど、今は時間がない。貴方に頼みたいのは、一つだけ。王都の現状、そしてカサンドラがどのように動いているかを教えてほしいのです」


 クロエの真剣な表情と、彼女の口から出た「運命の筋書き」という異常な言葉に、ユーリは剣を抜きかける手を止めた。彼は、クロエが自分自身の危険よりも、より大きな危機を追っていることを察した。しかし、彼の視線は、まだ完全にゼノスを敵視していた。


「クロエ嬢……貴方が、何を言っているのか理解できません。しかし、その男の存在と、貴方の身に起きたことが、尋常ではないことは分かりました」


 ユーリは、歯を食いしばりながら、クロエの質問に答えた。


「王都は今、混乱しています。王太子殿下との婚約破棄は、クロエ嬢の自発的なものとして処理されましたが、公爵家は面目を潰され、貴女は『裏切りの貴婦人』として社交界から徹底的に孤立させられています。そして、カサンドラ嬢は……」


 ユーリは、怒りから一転、苦渋の表情を浮かべた。


「カサンドラ嬢は、婚約破棄の後に、『真の聖女』としての権威を急速に高めています。彼女は、『クロエ嬢に憑りついていた邪悪な魔力を浄化した』と宣言し、魔力を持つ者たちに対する『魔力浄化法』の制定を、王家を通じて進めています」


 ユーリの言葉を聞き、ゼノスは知的な興奮を抑えきれずに、鼻で笑った。


「システムが動いたな。『魔力を持つ者やバグの排除』という、続編の筋書き通りだ。彼女の真の目的は、この世界の『異常性』を全て排除し、物語を完結させることにある」


 ゼノスは、ユーリの情報を分析しながら、再びクロエの背後に回り込み、腰を抱きしめた。


「騎士殿。感謝する。君の『純粋な献身』が、我々に貴重な情報をもたらした。これで、彼女の次の手は読めた。我々が、この『最終システム』の完結を阻止する手段は……」


 ゼノスは、耳元で熱い息を吹きかけ、ユーリに聞こえるように、クロエに囁いた。


「君が、私への愛と快楽に溺れ、誰の目にも『正気の人間ではない』と映ることだ。 そして、君の魔力が、私によって制御されていることを、システムに示す必要がある」


 ユーリは、その言葉とゼノスの行動、そしてクロエが抵抗できない状況に、激しく拳を握りしめた。彼はクロエの安否を尋ねようとしたが、ゼノスの金色の瞳は、「これ以上、彼女に近づけば、君の命はない」と明確に語っていた。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

第九話は【12/23(火)21:00】更新しますので、引き続きよろしくお願いします!

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