第五話:夜の寝室侵入
魔塔での頭脳戦が終わり、翌日には外部への情報収集のため、ユーリとの接触という危険な行動を控えていた。その夜、クロエの心は、ゼノスの甘い言葉と支配的なキス、そしてユーリへの心配との間で揺れ動いていた。
クロエがようやく寝台に入り、眠りにつこうとした、深夜のことだった。
パチリ、と部屋の明かりが灯った。
「まだ寝なくていいよ、クロエ嬢」
驚いて跳ね起きたクロエの目の前には、白と金の刺繍が施された寝衣姿のゼノスが、優雅に立っていた。彼は、昼間の軽薄な笑みではなく、獲物を追い詰めた獣のような、切実で熱を帯びた視線をクロエに送っていた。
「ゼノス……? なぜ、ここに……」
「なぜ、だと?」
ゼノスはゆっくりと寝台に近づき、冷たい手をクロエの頬に触れさせた。
「君は明日、私以外の男に会うのだろう? 君の心が、再びあの純粋な騎士の『過去の愛』に傾く可能性を、私の理性は受け入れることができない」
彼の瞳は、もはや研究者の知的な光ではなく、孤独への恐怖と独占欲に支配されていた。
「だから、君の身体に、その愚かな可能性を忘れさせるための『印』を刻んでおかなくてはいけない」
抵抗する間もなく、ゼノスの身体が覆いかぶさってきた。彼は容赦なくクロエの寝間着を剥ぎ取り、その白い肌を露出させた。昼間とは違う、剥き出しの欲と支配が、部屋を満たす。
「私のものだ。私のものだ。 私は君を愛し、君を支配する。君の身体は、この孤独な世界の創造主に仕える私にこそ、愛欲の証を刻まれるべきだ」
ゼノスは、呪文のようにその言葉を繰り返しながら、クロエの全身にくまなく、熱いキスマークを刻み始めた。首筋、鎖骨、胸元、そして腹部へと、その痕跡はまるで魔力の刻印のように肌に残っていく。それは、ユーリを含む、いかなる人間の目にも、クロエがゼノスの所有物であることを見せつけるための、最終的なマーキングだった。
クロエは羞恥と恐怖で抵抗しようとしたが、ゼノスの指先が触れるたびに、彼女の身体は抗いがたい熱と快楽に襲われた。
「身体が、私を求めているだろう? 嘘はつけないよ、クロエ嬢」
ゼノスはそう囁くと、彼の愛欲に満ちた手が、クロエの身体の最も敏感な場所に滑り込んだ。彼の巧みで、魔術的な指の動きは、クロエの貞節な心を打ち破り、激しい快楽の波で上書きしていく。
(ユーリ……ユーリのことなんて、考えられない……!)
クロエは抵抗を試みたが、口から漏れるのは、ゼノスの名と、抗い難い快楽の吐息だけだった。ゼノスは、クロエが肉体的な快楽に溺れ、自分に完全に意識を向けたのを確認すると、満足げに笑った。
「いいね。その愛欲に満ちた表情と、私の支配に屈した身体こそが、君の真の姿だ。これを覚えておけば、あの騎士の顔など、すぐに忘れてしまうだろうさ」
夜が明けるまで、ゼノスの支配的な愛撫と、クロエの全身へのマーキングは続いた。それは、愛の行為でありながら、孤独な支配者による、哀れな獲物への精神的な鎖でもあった。




