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ラベンダー・キャンベルの『悪役令嬢』に挑んだ後、婚約破棄される公爵令嬢は、先に婚約破棄を申し出ます  作者: ましろゆきな


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第四話:続編の筋書きと最終システム

 ゼノスの問いかけは、クロエの持つ情報と、ゼノスが持つ世界の真実ループを完全に結びつけるものだった。


「その『続編』の筋書きも、君は知っているのかい? その続編こそが、君を完全に排除するための『最終システム』だろう!」


 クロエは、ゼノスの熱に当てられそうになりながらも、懸命に首を横に振った。


「いいえ……完全には知りません。私が読んだのは、その続編の『予告』と、『断片的な設定』だけです。物語の作者であるラベンダー・キャンベルは、続編の執筆中に休筆してしまったため……」


 その瞬間、ゼノスの瞳から、興奮の色が一瞬にして消えた。


「休筆、だと?」


 彼の顔に浮かんだのは、冷たい絶望だった。


「つまり、君が知っているのは、世界のシステムの『入り口』までで、その先にある『出口』は、誰も知らぬということか」


 ゼノスは、まるで愛しい玩具を取り上げられた子どものように不機嫌になり、クロエから一歩引いた。その態度が、彼が抱える「孤独なループへの回帰」の恐怖を、クロエに痛いほど伝えた。


「ですが、続編の『設定』から、最終システムの目的は推測できます。それは、『クロエ・アルジェントという存在の完全な抹消』です」


 クロエは、ゼノスの絶望的な表情に負けず、畳みかけるように続けた。


「続編の予告では、婚約破棄されたクロエは、『裏切りの貴婦人』として社会的に抹殺され、財産はカサンドラに奪われます。そして、最終的に『魔力暴走』によって狂人と見なされ、魔塔の地下牢に閉じ込められることになっていました」


 クロエは、意図的にゼノスをまっすぐ見つめた。


「つまり、続編の結末は『クロエ・アルジェントという人間が、世間から忘れられ、二度と物語の表舞台に立てないよう、この魔塔に封じられること』です。その物語が完結すれば、システムは再び『プロローグ』へと回帰する……」


 ゼノスは、クロエの言葉に黙って耳を傾け、再び歓喜の笑みを浮かべた。しかし、その笑みは先ほどよりもずっと狂気に満ちていた。


「魔塔の地下牢、か。それは面白い。ならば、我々がすべきことは明白だ」


 ゼノスは再びクロエに顔を近づけ、その唇の腫れを優しく、しかし執拗になぞった。


「君は、その『続編』の筋書きを知っている。私は、そのシステムが持つ『力』を知っている。そして、私は、君をこの魔塔から二度と出さないという『欲望』を持っている」


 彼の金色の瞳が、クロエの瞳を逃がさない。


「我々は運命を破るための『協力者』であり、私の孤独を埋めるための『契約者』だ。さあ、クロエ嬢。君の知識と、私の力で、この創造神の悪趣味な小説に、誰も予想できない『最終章』を刻んでやろうではないか」


 ゼノスの問いかけとクロエの告白により、二人の協力関係の目標は「物語の完結阻止」で一致した。しかし、魔塔にいるだけでは、システムは確実に二人を追い詰める。


「ならば、クロエ嬢。君が先手を打って婚約破棄をしたことによって、君は次の破滅ルートへと入った。その『続編』の筋書きも、君は知っているのかい? その続編こそが、君を完全に排除するための『最終システム』だろう!」


 ゼノスの問いかけに、クロエは懸命に頷いた。


「この魔塔で、続編の筋書きを避けるための分析はできます。ですが、外の状況が分かりません。システム――カサンドラがどのように動いているのか、誰を次の標的にしているのか。情報が必要です」


 クロエはゼノスの熱から逃れるように、一歩後ずさった。


「そのためには、私たちが動くか、あるいは外部に信頼できる協力者を見つけるしかありません。そして、私たちが表に出れば、すぐにシステムに捕捉されるでしょう」


 ゼノスは顎に手を当て、再び研究者の顔に戻った。だが、その瞳の奥には、先ほどの愛欲の残滓が揺らめいている。


「協力者、か。君の言う通りだ。システムが仕掛けた罠の全体像を知るには、外の動向を掴む必要がある。そして、君が信頼できる人間など、この私以外には……フン」


 ゼノスはわざとらしく鼻を鳴らした。クロエが頭の中で「ユーリ」という名前を思い浮かべていることを、彼は表情の変化で読み取っていた。


「分かっているさ。君の頭の中にいる、あの純粋な騎士のことだろう?」


 ゼノスは歩み寄り、クロエの肩に手を置いた。その手は優しかったが、その圧力はクロエの動きを完全に封じた。


「君の幼馴染は、私が愛の衝動で君を犯している間にも、君の身を案じて正義を振りかざしているかもしれない。その無駄な献身こそ、続編の筋書きにない予測不能な力だ」


 彼は一瞬、嫉妬に顔を歪ませたが、すぐにそれを理性で塗りつぶした。


「いいだろう。魔塔にいるだけでは、システムの術中だ。ユーリに接触し、彼から情報を引き出せばいい。だが、いいかね、クロエ嬢」


 ゼノスはクロエの耳元に囁き、その声は甘く、そして決定的に支配的だった。


「君が、彼の無事を喜ぶたびに、君の心と身体は、私への愛と独占欲で塗り替えられる。彼の接触は、私の君への『お仕置き』を誘発するトリガーとなるだろう。それが、この協力関係のロマンスにおける唯一の契約だ。君の自由と、私の愛欲は表裏一体なんだよ」


 ゼノスはクロエの返事を待たずに、満足げな笑顔を浮かべた。


「計画開始だ。まずは、あの純粋な騎士が、今、物語のどこに配置されているかを特定しよう」

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