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ラベンダー・キャンベルの『悪役令嬢』に挑んだ後、婚約破棄される公爵令嬢は、先に婚約破棄を申し出ます  作者: ましろゆきな


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第三話:頭脳戦と愛の支配

 1. 作品概要の語り


 ゼノスに促され、クロエは息を整え、記憶の中の物語を語り始めた。


「私が知る小説のタイトルは、『愛と聖女の学園生活』。舞台は王立学園です。主人公は王太子アシュトン殿下、悪役令嬢が私、そしてヒロインがカサンドラでした」


「ベタな物語だね」


 ゼノスは魔塔の古びた机に腰かけ、肘をついて退屈そうに評した。


「しかし、ベタな物語ほど、世界の筋書きとしては強固だ。その単純な枠組みから外れるのは、並大抵の力ではないぞ」


 その言葉に、クロエは背筋が冷たくなるのを感じた。


 2. 断罪に至る流れとクロエの介入


「原作では、私はカサンドラに日常的に嫉妬し、茶会で侮辱し、終いには王太子の手前でカサンドラのドレスを破るなど、陰湿な嫌がらせを重ねたことになっています。最終的に、学園卒業の舞踏会で、私が断罪されるのが『プロローグ』の結末でした」


「その嫌がらせの動機は何だ? 嫉妬か? それとも、君を破滅させるための『誰かの意図』か?」


 ゼノスの問いは鋭かった。


「最初は嫉妬だと、私もそう思ってしまいました。ですが、物語を読み進めるうちに、カサンドラこそが、実は魔力を持つ者を排除する真の悪意を持った偽りの聖女だと気づいたんです。だから私は、婚約破棄を避けるために、カサンドラの悪事を暴こうと、あえて原作とは違う行動に挑みました」


 ゼノスはゆっくりと微笑んだ。


「その『挑んだ』行動こそが、君の今の状況を生んだバグだ。だが、君の先手での婚約破棄は、運命を破ったのではなく、運命が君のために用意した『別の破滅ルート』ではないか?」


 ゼノスの指摘は、クロエの心に新たな不安を投げかけた。自分が手に入れたと思っていた自由が、実は次の檻に過ぎないのかもしれない。


 3. ユーリの話題とヤンデレの暴発


 そして、クロエは最も気がかりな人物の役割について言及した。


「そして、ユーリ……私の幼馴染で護衛騎士だった彼は、原作では私に忠実でしたが、断罪後は私から離反し、カサンドラの純粋な献身者として彼女を支える役割を担いました。私の行動で、彼の立ち位置が最も不確定になっているはずです」


 ユーリの真面目さと献身性を語るクロエの声音に、微かな優しさが滲んだ瞬間だった。


 その瞬間、ゼノスの顔から笑みが完全に消えた。


「フン……純粋な献身者、ね」


 ゼノスは不機嫌さを隠そうともしない。そして、その不機嫌さはすぐに支配的な行動へと変わった。


 彼はすっと立ち上がると、書架の壁際に立っていたクロエを、その身体で完全に封じ込めた。クロエの身体が壁に密着し、逃げ場は一切ない。


「君は、私以外の男のことを語るべきではない」


 低い声が、警告のように響く。ゼノスの右手はクロエの腰を強く引き寄せ、左手は彼女の肩甲骨の下あたりに滑り込ませ、身体の奥まで密着させた。クロエが反論しようと見上げたとき、ゼノスは顔を近づけ、彼女の耳たぶに熱い吐息を吹きかけた。


(な、なんで、こんなこと……?!)


 ゼノスの熱っぽい視線を受けながら、クロエは混乱していた。自らの所有を示すような、意図的に愛撫する白い長い指に、意識が向いてしまう。


「君の肌の感触も、匂いも、この愛の衝動も、すべて私だけが知っていれば良いものなんだよ? 悪い子はそのことを身体で思い知らないと行けないみたいだね。純粋な騎士の愛など、私の前では、泡のように消える戯言に過ぎない」


 ゼノスはそう言い切ると、クロエの胸元、そして腰へと指を滑らせ、彼女の意識を完全に自分の身体に集中させるように愛撫した。それは、頭脳戦の最中での、嫉妬と独占欲に満ちた、許されないセクハラまがいの支配だった。


 4. カサンドラの真の悪役性(創造神の仕掛け)


 ゼノスの支配的な愛撫と独占欲に満ちた言葉の後、クロエは絶望的な状況下で、無理やり理性を取り戻した。


 ゼノスの愛撫と支配的な言葉に、クロエの身体は火照り、心は激しく動揺していた。自らの所有物のように扱われる屈辱と、彼の激情に触れた恐怖で、瞳の縁には悔しさと羞恥の涙が溜まっている。


 しかし、このまま彼に支配され、この魔塔という名の檻に閉じ込められてはならない。クロエは強く歯を食いしばった。


「っ……わ、分かりました」


 震える声でそう言うと、クロエは残った力を振り絞り、ゼノスの胸を押し返して、壁から距離を取った。彼の熱に触れられた場所が熱く、視界は涙で滲んでいたが、彼女の知的な瞳だけは、必死にゼノスの顔を捉えていた。


「続きを、話します……! カサンドラの裏の顔こそが、創造神ラベンダー・キャンベルの真の仕掛けだと、私は睨んでいます」


 ゼノスは、クロエが涙目ながらも、理性と知性で抵抗し、戦いを継続しようとしている様子を見て、恍惚とした満足感を覚えた。彼の口元には、再び満足げな、そして少し狂気を孕んだ笑みが浮かんでいた。


「ほう。続けなさい。その『仕掛け』を」


「小説でのカサンドラは、魔力を持たぬが心優しき聖女とされていました。しかし、裏設定では、彼女の優しさは偽装で、真の目的は魔力を持つ者や、物語の『バグ』となる存在を排除することだったんです」


 クロエは、喉の奥から絞り出すように語った。


「彼女は、創造神が物語を『浄化』し、常に『プロローグ』へと巻き戻すための『システム』として存在している……私はそう推測しています。彼女の悪事の陰謀に私が気づき、『悪役令嬢』として彼女に挑んだことで、私はシステムにとって排除すべき最大の『バグ』になったんです」


 ゼノスは、その言葉を聞くと、机の上にあった書類を払いのけ、その上に身を乗り出した。彼の瞳は、今、知的な興奮で金色に輝いていた。


「面白い! システム! そうだ、周回は単なるループではない。『矯正』だ! 君の存在が、この物語の『プロローグへの回帰』を阻害するウィルスになった、というわけだ」


 ゼノスは弾かれたように立ち上がると、クロエの顔のすぐ近くにまで詰め寄った。その距離は、先ほどの愛撫よりも近く、息遣いすら絡み合うほどだ。


「ならば、クロエ嬢。君が先手を打って婚約破棄をしたことによって、君は次の破滅ルートへと入った。その『続編』の筋書きも、君は知っているのかい? その続編こそが、君を完全に排除するための『最終システム』だろう!」


 ゼノスの問いかけは、クロエが持つ情報と、ゼノスが持つ世界の真実ループを完全に結びつけるものだった。

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