第二十一話:そして、二人は去っていく
最終コードを掌握し、カサンドラとユーリを安定した世界に残したゼノスとクロエは、光の束となって世界から消滅した。
――道路を行き交う自動車。天高くそびえる無機質な建物に極彩色の映像が映し出されている。
夕暮れ時の大都市の雑踏。オフィス街を抜ける大通りには、多くの人がスマホを見ながら忙しなく行き交っている。
ここは、夕暮れ時の大都市の喧騒から少し離れた、静かなカフェテラス。光の粒が舞う中で、一組のカップルが向かい合って座っていた。
銀の髪を持つ青年――ゼノスは、相変わらず金色の瞳で目の前の女性を論理的に分析している。漆黒の髪とエメラルドグリーンの瞳を持つクロエは、慣れた様子で彼に言い返す。
「ですから、ゼノス。どうしていつも、私の行きたい店を『論理的根拠がない』と却下するの? 私の自由意志を尊重する契約はどうなったの?」
「フン。君の『自由意志』が、いつも『無秩序な欲望』に傾いているからだろう、クロエ。君が行きたいと言ったあのカフェのレビューの平均点は3.5だ。それは我々の共同生活の効率を下げる」
クロエは、ため息をつきながらも、その言葉に潜む「君を不幸にさせたくない」という彼の本質的な献身を理解していた。
「もういいわよ、ゼノス」
クロエは、テーブル越しに身を乗り出すと、ふと真面目な顔になった。
「ねえ、一つだけ、聞かせて。どうして、貴方は『私』が『バグ』だと、最初から理解していたの?」
ゼノスは、優雅にカップを傾け、金色の瞳を細めた。そして、まるで何百回もの人生の重みを背負っているかのように、静かに笑った。
「ふふ。それは、君が『私』という存在を、物語を周回する異物だと理解していたのと同じ理由だよ、クロエ」
ゼノスは、カップを置くと、クロエの手にそっと自分の手を重ねた。
「私もまた、君と同じ現代の人間が、この魔術師の体に転生した存在だ。私は、君が来る何十年も前から、この世界の『ループという名の呪縛』に気づいていた。そして、何度も、何度も、君がシステムに断罪され、私の手の届かない場所で消えていくのを見てきた」
彼の声には、深い疲労と、ようやく終焉を迎えた絶望的な孤独の影が滲んでいた。
「私の『支配的な愛』は、『君を完全に閉じ込めなければ、この世界に再び奪われる』という、何百回もの絶望から生まれた、病的な恐怖だったのだ。君という存在こそが、私を孤独から救う、唯一の真実だった」
クロエは、彼の狂気の根源が、自分へのあまりにも一途な愛と、繰り返された喪失の痛みであったことを悟った。彼女のエメラルドグリーンの瞳に、深い愛情と憐憫が宿る。
「馬鹿ね……。そんな孤独な旅を、一人で」
「ああ。だが、もう終わった。君が、君自身の意志で、私の隣を選んでくれた。そして、今、私たちはこの物語の外にいる」
「ああ、またその口調。もういいわよ、ゼノス!」
クロエは意趣返しとばかりにゼノスの襟をぐいと引っ張り、周囲の目を気にせず、その頬に軽くキスをした。
「私だって、いつまでもやられっぱなしじゃありませんからね!」
二人はハッと笑いあって、お互いの額を軽く合わせた。ふふふとどちらからともなく笑みを漏らすと、テーブルの下で、お互いの指を絡めあった。
かつての支配的な関係は消え去り、今、そこにあるのは、「孤独を知る者同士の、対等な魂の絆」だけだった。
二人は、「仲睦まじい喧嘩」という形で、過去の歪んだ共同生活の面影を愛しく残しながら、ネオンの光が滲む雑踏の中へと、完全に自由なカップルとして去っていく。
彼らの姿は、もう誰も知らない、二人だけの新しい物語の中へと消えていった。
【Happy End】
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
情に厚いクロエとモラルぶっ壊れ魔術師ゼノスの恋物語いかがでしたでしょうか?
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次回の連載は【1月5日(月)21:00】開始です。
タイトル【悪役令嬢が救世したら魔王に見初められました】です。
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悪役令嬢ヴィオラが魔王をはじめ五人の異種族たちに見初められる異種族逆ハーレム・ロマンティックコメディです。
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