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【完結】ラベンダー・キャンベルの『悪役令嬢』に挑んだ後、婚約破棄される公爵令嬢は、先に婚約破棄を申し出ます  作者: ましろゆきな


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第十七話:愛の謝罪と対等な絆

 システムとの激戦が終わり、カサンドラを安定化させた後、ゼノスはクロエを寝室ではなく、研究室の落ち着いたソファへと運び、そっと横たわらせた。クロエは疲労から深く眠り込んでいたが、やがて、その瞼がゆっくりと開いた。


 彼女の瞳には、狂気の演技や、魔力の同調による虚ろな光は消え、かつての鋭い知性と反抗心が宿っていた。


「ゼノス……」


 クロエが静かに彼の名を呼ぶと、ゼノスは彼女の隣に膝をついた。彼は、世界の法則を打ち破った魔術師の威厳をすべて捨て、ただ愛する人の安否を気遣う一人の男の顔をしていた。


「目を覚ましたか、クロエ嬢。君の『狂気の脚本』は、完璧だった。いや、完璧すぎて、私の心臓を凍らせた」


 彼の声は低く、そして微かに震えていた。


「君の魔力の同調を解除した。もう、私への強制的な依存は消えている。……君は、私に怒っているだろう?」


 クロエは、怒るべきだった。身体を弄ばれ、精神を支配されかけたのだ。しかし、彼女の視線は、自分の支配欲のせいで、愛する者を失いかけたという現実に直面し、苦悶しているゼノスを捉えていた。


「ええ、怒っています。……貴方が私の自我を軽視したことに、心底腹を立てています」


 クロエは正直に言った。しかし、言葉に強い激情はなかった。


 その言葉を聞いたゼノスは、深く頭を垂れた。彼のこの行動は、魔塔の主として、創造主を除く何者にも頭を下げたことのない彼にとって、最大の屈辱であり、最大の愛の表現だった。


「許せ、クロエ」


 ゼノスは、「クロエ嬢」ではなく、ただ「クロエ」と呼び、その呼び名にすべての感情を込めた。


「私は……孤独への恐怖から、君の魂を支配下に置けば、永遠に君が私から離れないと信じていた。君の知性と、君の怒りこそが、この世界で唯一、私を孤独から引き上げてくれる真実なのに、それを破壊しようとした。君が、君でなくなっては、私にとって意味がない。……夜の行為も、ユーリへの嫉妬も、すべて私の制御できない恐怖の産物だ」


 ゼノスは、クロエの手の平に、贖罪のように、そっと自分の唇を押し付け、そっと頬擦りした。


「私は、支配を捨てる。君の意志と、君の自由を、私の一部として受け入れよう。だから、もう一度、私と対等な立場で、この脱出計画を完遂させてくれないか?」


 クロエは、彼の謝罪と、「支配」を捨てるという「魔術師としての生き方」の放棄に、彼の愛の真剣さを感じ取った。


「馬鹿な男……」


 彼女はそう呟くと、彼の頭を優しく撫でた。


「貴方の支配欲は許せないけれど、貴方が、私を、システムでも駒でもなく、一人の人間として、愛の対象として選んでくれたことは、理解しているわ。私が、貴方を一人にしないために、協力しましょう」


 クロエは、彼の額に軽くキスをした。それは、和解の証であり、対等なパートナーシップの始まりを意味していた。


 ゼノスが頭を下げて謝罪し、クロエは、心身の疲労と自己嫌悪で肩を震わせている銀髪の魔術師を見つめた。


「ゼノス。顔を上げて」


 クロエは、彼の顔を両手で包み込み、強制的にエメラルドグリーンの瞳を合わせた。


「貴方は、私に謝罪した。支配を捨て、私の自由を尊重すると言った。でも、貴方の瞳の奥には、まだ『私を失う恐怖』と、『自分自身への嫌悪』が渦巻いている」


 ゼノスは、反論の言葉を失い、その金色の瞳に孤独と絶望を映した。


「私は、支配的な貴方が嫌いだった。私の身体を、道具のように扱う貴方が許せなかった」


 クロエは、そう言いながらも、自らゼノスの胸へと身を寄せた。


「でも、私がこの世界で、私の存在を、そして私の魂を、ただ一人に全てを賭して求められたのは、貴方だけよ」


 彼女は、彼のプラチナブロンドの髪を撫でながら、静かに、そして真摯に続けた。


「貴方の孤独は、私の孤独だった。私は、もう貴方の支配を恐れない。貴方が私の自由を尊重するなら、私は、貴方の愛を、その狂気ごと受け入れます」


 クロエは、彼の首に腕を回し、逃避行のパートナーとして、そして、愛する一人の男として、強く抱きしめた。


「もう、一人にしないわ。だから、私を、この世界の外へ連れ出して、ゼノス」


 その言葉は、ゼノスにとって、世界のコードが崩壊するよりも遥かに衝撃的で、決定的な「赦し」だった。彼は、クロエの背中にすがりつくように腕を回し、まるで溺れる者が浮き輪を掴むように、強く彼女を抱きしめ返した。


「……ああ、クロエ。君は、私を孤独という地獄から救い出した、私の唯一の女神だ」


 二人の間に、もはや支配と被支配の関係は存在しなかった。あるのは、魂の深い場所で求め合う、対等な愛だけだった。


 その夜、魔塔の研究室の静寂の中で、二人は愛と自由の誓いを交わした。


 互いの掌を合わせ指を絡め合うと、互いの熱を伝えあうように唇を深く重ね合った。ゼノスは静かにクロエの肩に手を滑らし、白く滑らかな肌の感触を優しく確かめていく。


 ゼノスがクロエの首筋、鎖骨、胸元へと柔らかな口付けを落とすとその感触にクロエは身じろぐ。


「どうか逃げないでくれ……」


 懇願する声に頷いてクロエは両手をゼノスの首筋に回した。


「クロエ、愛している」


 上気したクロエの頬に顔を寄せ、誓うように囁くと、彼女の最も敏感な部分に触れる。支配するためでなく、共に快楽の高みへ上り詰めるために。


(……ゼノス……気持ち、いいっ……)


「なんて君は綺麗なんだろう。この瞬間を絶対に忘れない。ずっと君とともにいる……」


 ゼノスはうっとりと呟くと快楽の波に漂い、浅い息を繰り返すクロエに口付け、深く繋がるために自らの身体を進めた。


「……んっ……!」


 眉根を潜めるクロエに宥めるような小さいキスが繰り返される。これまでとは違いゼノスの心と身体が常に寄り添っているように感じた。


 かつては屈辱と強制に満ちていた行為は、深い安堵と、互いへの切実な献身へと変わっていた。クロエは、独占欲から解放されたゼノスの愛情の温かさを全身で受け止め、ゼノスは、反抗心を失わず、自らの意志で彼を選んだクロエの愛に、初めて真の救済を見出した。


「愛の支配」は、「魂の共存」へと変化し、二人は「パートナー」として、ユーリとの協定という次の段階へ進む覚悟を固めたのだった。

次回予告:

1/1 21:00更新

『第十八話:ユーリとの屈辱的な協定』

2025年ありがとうございました。2026年もよろしくお願いします!

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