第十五話:支配の終焉と愛のパラドックス
1. 勝利の後の虚無
ゼノスは、意識を失ったカサンドラと、手に入れた情報に満足していた。しかし、彼の腕の中で、狂気の演技と激しい魔力同調で憔悴しきっているクロエの姿を見た瞬間、彼の勝利の喜びは一瞬で冷え込んだ。
クロエは、彼の指示通り、そして彼の支配のままに振る舞い、システムを破るための完璧な道具として機能した。だが、その結果、彼女の瞳には、彼の支配によって理性を失いかけたような、虚ろな光が宿っていた。
「勝ったぞ、クロエ嬢。システムの核心は崩壊した。君はもう、誰の支配も受けず、君自身の意志で……」
ゼノスは、そう言いかけて言葉を詰まらせた。
(君自身の意志で……?)
彼が勝利のために彼女に課した「狂気の支配」は、クロエの聡明さ、反抗心、そして怒りという、彼が最も愛した「クロエ・アルジェント」の本質を、危うく破壊するところだった。
彼は、自分が求めていたのは、自我のない服従ではないことに気づいた。
自分が欲しいのは、自分の理不尽な愛に怒り、反抗し、そしてそれでも彼を必要とする、生きたクロエだったのだ。もし彼女が完全に自我を失い、ただ彼の支配に従うだけの「人形」になれば、彼の孤独は埋まらず、彼が抱きしめているのは、意味のない愛の抜け殻になってしまう。
2. ヤンデレの新たな葛藤
ゼノスは、クロエの顔を優しく覆い、彼女の体温を確認した。彼の金色の瞳に、初めて、制御しきれない動揺と恐怖が浮かんだ。
「馬鹿な……。私は、君を支配することで、君を失うところだったのか?」
彼のこれまでの支配的な行為は、「君を完全に私のものにして、永遠に孤独から逃れる」ための手段だったが、その手段が、「永遠の孤独」という結果を招きかねなかった。
彼は、支配の快感よりも、彼女を失う恐怖が勝ったことを悟った。
3. ゼノスの決定的な行動
ゼノスは、カサンドラを一顧だにせず、クロエを強く、しかし今度は支配ではなく、守護の意図をもって抱きしめた。
彼は、魔力で強制的にクロエに刻んでいた「狂気の支配の痕跡」を、一瞬で中和する魔法を発動させた。これは、彼の「支配こそが愛」という長年の信念を、自ら否定する行為だった。
「もういい。演技は終わりだ、クロエ嬢」
ゼノスは、荒い息を吐きながら、懺悔のように言った。
「君の魔力と私の結合は、システムの論理を破るために必要だった。だが、君の自我をこれ以上、私の狂気に晒す必要はない」
彼は、支配の代わりに、より本質的な依存へと舵を切る。
「だが、覚えておけ。君の知性と、君の反抗心こそが、私たちがこの世界から脱出するための鍵だ。君は私にとって、道具ではない。君は、私の運命を共にする、唯一の真実だ」
ゼノスは、クロエの額に誓いのキスを落とした。
「完全な支配は求めない。だが、君の選択は、常に私を必要とすることでなければならない。君の真の自由は、私と共に、この物語の外に出た時に初めて手に入る。さあ、立て。次の段階だ」
次回予告:
12/30 21:00更新
『 第十六話:愛の進化と新たな共闘 』




