第十二話:聖女の来訪と狂気の饗宴
1. 聖女の魔塔侵入
ゼノスからの嘆願書は、カサンドラの『真の聖女』としての使命感を強く刺激した。彼女にとって、クロエは物語の進行を妨害した「厄介なバグ」であり、ゼノスはそれに寄生した「異常な魔力」の象徴だ。
「魔力の狂人を浄化する。そして、世界を歪める魔術師の影響を排除する。これは、私に与えられた聖なる義務です」
カサンドラは、王宮騎士団から数名の護衛を引き連れ、光の結界を纏いながら、ゼノスの魔塔の前に降り立った。
ゼノスは、塔の最上階のテラスで、最も支配的で優雅な態度を装って彼女を出迎えた。彼は黒いローブではなく、豪華な刺繍の施された魔術師の衣装を纏い、狂気の芸術家の風格を漂わせている。
「ようこそ、『真の聖女』殿。君の魔力の光が、この暗い塔を照らすとは、光栄の至りだ」
ゼノスは、慇懃無礼な笑みを浮かべた。その金色の瞳は、カサンドラを一瞬も逃さず分析している。
「魔術師ゼノス。あなたの協力に感謝します。ですが、あなたの魔力が、クロエ様を異常な状態に保っていることも見逃せません。私は、クロエ様の魂を、あなたと魔力の狂気から解放するために来ました」
カサンドラの声は冷たく、完全にゼノスを敵と見なしていた。
2. 狂気の脚本の実行
ゼノスは、カサンドラをクロエが待つ部屋へと案内した。部屋の中心には、魔力を抑制する細い鎖に繋がれたクロエの姿があった。
クロエの顔は青白く、過剰なまでの羞恥心と疲労で憔悴しきっている。その身体には、ゼノスが施した愛の痕跡が、隠しきれない芸術のように散っていた。
彼女は、ローブの下に、ゼノスの肌着のような薄い服しか着ておらず、その従属的な立場を視覚的に示していた。
カサンドラが入室すると、クロエは怯えた獣のように鎖を引いた。しかし、カサンドラの清浄な魔力の光が彼女に触れると、彼女は激しい嫌悪を露わにした。
「こ、来ないで……! 汚い……! その光、触れないで!」
クロエは目を強く閉じ、体を丸めて震え上がった。そして、その視線が、部屋の隅に立つゼノスを捉えた瞬間、彼女の狂気的な演技が炸裂した。
「ゼノス様……! 私を、一人にしないで! この女は……この女は、私とゼノス様を引き離そうとしている! 私の愛を奪おうとしている!」
クロエは、鎖を振り切らんばかりに身悶え、ゼノスだけに伸ばそうとする切実な腕と、狂気的な懇願の瞳を見せた。
ゼノスは、この見事なまでの執着と依存の演技に、内なる満足を覚えた。しかし、その演技が彼の支配の事実を外部に示すためだと理解しつつも、クロエの演技が現実となることを、彼は心から望んでいた。
「見ての通りだ、聖女殿。彼女の理性は崩壊し、その魔力は私という『媒介』を通さなければ、暴走して周囲を破壊する。彼女の狂気は、私への排他的な愛という形でのみ、均衡を保っている」
ゼノスは一歩進み出て、クロエの鎖を繋ぐ台座に手を置いた。
「もし、君が彼女から私の魔力を引き剥がせば、彼女は即座に完全な狂人となり、この魔塔は崩壊するだろう。君の『浄化』は、彼女の魔力の源を破壊する危険を冒すか、あるいは、私との『結合』を公的に認めるかの二択だ」
3. カサンドラの核心
カサンドラは、クロエの狂気的な様子と、ゼノスの露骨な支配の証拠を見て、一瞬の動揺を見せた。
(クロエの魔力は、私が出会った時よりもさらに歪み、あの魔術師に深く結びついている……!しかし、これはシステムの論理に反する。バグはただ排除されるべきだわ!)
カサンドラの瞳の奥、聖なる光の輪郭がわずかに揺らぐ。それは、彼女が世界から与えられた「浄化の役割」が、この予測不能な状況下で、起動準備に入ったことを示していた。
「強がりは無用です、ゼノス。あなたの魔力による支配など、『真の聖女』の浄化の力の前では、一瞬で崩れ去ります。私は、この世界の秩序を乱す、全ての異常な魔力を排除します」
カサンドラは、自信に満ちた表情で右手を前に突き出した。その掌から、強力な浄化の魔力が発せられ、魔塔全体を包み込み始める。
「ゼノス様! 嫌! 離れないで!」
クロエは、演技として、そして本能的な魔力の拒絶として、激しくゼノスを求めた。
ゼノスは冷静な瞳で、カサンドラの浄化の魔力が、自分たちの魔力の結合、そして魔塔の防御機構のどこに干渉しようとしているのかを解析し始めた。
「さあ、始めるといい、聖女殿。君の『浄化』が、我々の『脱出の道』となるか、それとも君の『システムの崩壊』となるか、試してみるがいい!」
システムの核心が魔塔内に晒され、ゼノスの脱出の瞬間が迫っていた。
次回予告:
12/27 21:00更新
『 第十三話:浄化の光と魔力の逆流 』




