第十一話:執着の最終調律とシステムへの挑戦
1. 最終演技指導:狂気の脚本
カサンドラへ接触する直前の夜、魔塔の研究室。
ゼノスは、クロエが纏う黒いローブをゆっくりと剥ぎ取り、彼女を魔法陣の光が差す台座の上に立たせた。彼の顔は、決行前の張り詰めた緊張と、クロエが他の誰かに見られることへの激しい恐怖で歪んでいた。
「最終確認だ、クロエ嬢。君の『狂気の脚本』は、私への排他的な愛でなければならない」
ゼノスは、クロエの顔に手を添え、強制的に彼の金色の瞳を見つめさせた。
「いいかね、カサンドラの前では、君は魔力暴走によって理性を失った、哀れな貴族令嬢を演じる。ただし、その『狂気』は、他の何にも関心を持たず、ただ私、ゼノス・アルカディアという存在にのみ、異常なまでの執着と依存を示す形で発現しなければならない」
彼は、クロエの首筋に、ユーリとの再会前に刻んだ愛の痕跡をなぞった。
「私の魔力の痕跡を、他人の目に晒すのは、私にとって耐え難い屈辱だ。だが、これが君が私の完全に支配下にあることの証拠となる。君は、私から離れることを死ぬよりも恐れる哀れな獣だ。カサンドラが何を言おうと、何を示そうと、君の口から出るのは『ゼノス様』という愛の呼称と、『私から離れないで』という絶望的な懇願だけだ」
ゼノスは、指導という名の愛撫を始めた。彼の指は、クロエの全身に残る愛の痕跡を執拗に追い、確認していく。
「……んっ……」
「君の身体は、私の愛で満たされている。その快楽を、一瞬でもあの騎士の献身と比べたことを、私はまだ許していない」
彼の愛撫は、再び支配的かつ切実なものへと変貌した。彼は、クロエの心と身体を自分のものだと世界に刻みつけるように、肌にキスと痕跡を重ねていく。
(誰にも渡さない。君は、この孤独な魔術師の、唯一の真実なんだ)
クロエは、彼の激しい愛欲に息が詰まる。その行為は、狂った独占欲以外の何物でもない。しかし、その行為の裏側に見える、世界のすべてを敵に回しても彼女を求め続けるゼノスの孤独が、彼女の心を罪悪感と安堵で満たしていく。
(これが……彼の本質。全てを支配しなければ、彼は再び孤独な暗闇に落ちていく。そして、私もまた……彼の隣にいなければ、この恐ろしいループに一人で立ち向かうことになる)
彼の歪んだ愛が、今やクロエにとっての「安全地帯」になりつつある。彼女は、この不条理な現実に涙を流しながらも、ゼノスの支配を受け入れた。
「……ゼノス、様……」
クロエが、演技指導通りに彼の名を口にした瞬間、ゼノスの瞳の狂気が一瞬和らぎ、深い安心感に満たされた。
「ああ、それでいい、クロエ嬢。君は、私の最高傑作だ」
2. カサンドラへの接触
ゼノスは、魔力の同調と身体的な再確認を終えると、すぐさまカサンドラへの接触を開始した。
彼は、魔法で加工したクロエの「魔力暴走の残滓」を添えた緊急の嘆願書を、王都のカサンドラへ送った。
件名:【緊急】魔力暴走による狂人化の令嬢の隔離について
本文: 「クロエ・アルジェント嬢は、婚約破棄後、強力な魔力暴走により理性を失い、現在、私の魔塔に隔離しています。彼女の狂気は、私の魔力による排他的な依存によって辛うじて抑制されていますが、このままでは王都への汚染は必至です。『真の聖女』である貴女の『浄化の力』をもって、彼女の魔力の源を調査していただきたい。これは、世界の法則を守るための、協力要請です。彼女は貴女の救いを求めている」
この文書は、ゼノスの独占欲と、クロエの「狂気の支配」の演技を公式な事実として世界に打ち出すためのものであり、同時にカサンドラが持つ「浄化システム」の核心を魔塔内に引き込むための巧妙な罠だった。
システムへの挑戦状は放たれたのだった。
次回予告:
12/26 21:00更新
『 第十二話:聖女の来訪と狂気の饗宴』




