第十話:歪んだ共同生活と狂気の調律
1. 狂気の調律:戦略と依存
魔塔へと帰還した二人を待っていたのは、世界の法則を欺くための頭脳戦と、愛と支配の歪んだ共同生活だった。
ゼノスは、ユーリへの嫉妬を爆発させた後の後ろめたさから、一見すると冷静で理性的な「研究者」に戻っていた。彼は「狂気の支配」という戦略を実行するため、クロエに細かく演技指導を始めた。
「君は、私の魔力の制御下にある狂人として振る舞う。常に怯え、しかし、私にだけは異常なほどの愛と依存を示す。この支配の証拠として、君の魔力を私と完全に同調させる必要がある」
ゼノスはそう言いながら、クロエの魔力の流れを調整する高度な魔法陣を刻んだ。その作業は緻密で、科学的ですらあったが、彼の瞳の奥には、クロエへの強い依存が映し出されていた。
(君の魔力も、心も、すべて私と一つになっていなければ、私は再び孤独に陥ってしまう)
彼の魔力とクロエの魔力が結合するたび、クロエの心臓は激しく高鳴った。拒絶したいのに、彼の絶望的な孤独を垣間見てしまったせいで、彼女の拒絶の力は鈍る。
(理不尽だ。私の自由を奪うくせに、どうしてこんなにも切実なの……? 貴方を突き放すべきなのに、この求められる安心感を、どうして私は拒否できないの?)
クロエの心には、ゼノスの狂気的な愛に触れている間だけ、「一人ではない」という、憑依者としての孤独が埋められる錯覚が生まれていた。それは、彼女の理性とは裏腹の、危険な依存心だった。
2. 日常の支配とマーキング
魔塔内での共同生活は、ゼノスの支配的な愛情によって、日常的に歪められていた。
食事の時、 ゼノスはクロエを自分の隣に座らせ、自らの手で食事を与える。これは「君は私がいなければ何もできない」という支配の表れであり、クロエの「自由な意思」を徐々に削る。
昨夜のような暴走はなかったものの、ゼノスは毎夜、クロエの寝室に入り込み、身体に残るマーキングを「手入れ」するように、愛撫とキスを繰り返した。
「これは、君が私に愛を誓った証だ。毎日、私だけがその愛を再確認しなければ、私の心が耐えられない」
クロエが本筋(ループ脱出)の議論中に、「ユーリなら、もっと冷静に分析できる」などと口を滑らせるたび、ゼノスの顔は瞬時に冷え切る。
「君の頭の中を、私以外の男の残像が通り過ぎることは許されない」
ゼノスは冷たくそう言うと、言葉の代わりに、服の上からクロエの身体を強く抱き締め、再び愛の言葉とキスで、彼女の意識を支配しようとした。
3. 次の戦略:カサンドラへの接触
ゼノスは、クロエの魔力と心が自分に深く同調したと確信すると、次の行動計画を打ち出した。
「システム(カサンドラ)は、君が『魔力暴走による狂人』として魔塔に隔離されることを望んでいる。だが、我々はそれを逆手に取る」
ゼノスの瞳が鋭く光る。
「我々は、カサンドラに接触する。君の『狂気』は、彼女の『浄化』を必要とするという名目で。これは、続編の筋書きにない、最大のバグだ。彼女が魔塔に入れば、彼女の持つ『浄化システム』の核心が、この魔塔に晒されることになる。その瞬間こそが、我々の脱出の好機となる」
次回予告:
12/25 21:00更新
『第十一話:執着の最終調律とシステムへの挑戦』




