第一話:断罪阻止
(私がラベンダー・キャンベルの書いた謎に挑んだ結果、こうなることはわかっていた。 わかっていたからといって、そのまま受け入れるつもりなんて、これっぽっちもない)
派手なシャンデリアの下、王太子アシュトン殿下の口から紡がれるであろう言葉を、私は冷静な目で見つめていた。
殿下は、舞台のヒロイン然とした公爵令嬢カサンドラの手を取り、私——公爵令嬢クロエ・アルジェントを指差している。その背後には、悪役令嬢と名指しされることになった私の『罪状』を読み上げる従者が控えている。
(ああ、この流れ、原作通り。私が『悪役令嬢』の破滅ルートを回避しようと、むしろカサンドラの真の悪意に挑んだ時点で、この破滅は避けられない運命だったのだ)
殿下の口が、今まさに開こうとする。
「クロエ・アルジェント、貴様との婚約を————」
「結構ですわ、殿下」
私は、漆黒の髪を掻き上げ、エメラルドグリーンの瞳で正面を見つめ、殿下の言葉を、誰にも聞こえるように、優雅に遮った。
宝石よりも冷たい私の声に、舞踏会のざわめきが完全に止まる。アシュトン殿下は、驚きと屈辱で顔を歪ませた。
「驚かせてしまいましたわね。ですが、婚約破棄は、この私から申し出させていただきます」
宝石よりも冷たい私の声に、舞踏会のざわめきが完全に止まる。アシュトン殿下は、驚きと屈辱で顔を歪ませた。
誰もがこの公爵令嬢の行動に息を呑む中、部屋の隅でひときわ輝く金色の瞳があった。
ゼノス・アルカナ。魔塔の主と呼ばれるその男は、プラチナブロンドに近い銀の髪を揺らし、軽薄な笑みを浮かべながら、私に近づいてきた。その装いは、この王宮の誰とも異なる、太古の神が纏うような威圧感を秘めている。
「拍手喝采だ、クロエ嬢。見事な初手だった」
私の耳元で、甘く囁く声がする。
「だが、残念ながら、すべてが変わった訳では無いが、まだ終わったわけでもないから、絶望しなくて良い。――さあ、君の命が尽きる前に、私の研究に付き合ってもらおうか?」




