ご褒美デート 2
王立学院女子寮は、王都の目抜き通りにほど近く、歩いて15分ほどで商店が立ち並ぶエリアへ到着した。
王都は貴族御用達店と庶民も買える店が、中央の時計台広場を隔て、それぞれ区画割りされている。
ミラたちは、休日で賑わう庶民御用達の大通りを歩く。
食べ物の屋台や吊られた看板だけでは何が売られているのか分からない店など、雑多な雰囲気だ。
すれ違う人々が、大人びたエルンストと、幼いミラの組み合わせを、興味深そうにちらちらと見ている気がする。
しかし、気づいているのか不明なエルンストはご機嫌に繋いだ手を揺らし歩く。
「今日は誕生日プレゼントの目星はいくのか決めてあるのか?」
「うん! まずはあそこで見てみたい!」
ミラが指差した看板には2本の剣が交差する絵が彫られていた。
「武器屋? あんなところでプレゼント?」
「うん。カシウスとレオンが剣術を頑張っているからさ。訓練でいるものをあげたいなぁって……」
「……なるほどな。ここは良い店だからおすすめだ」
「え? 来たことあるの?!」
「ん。この店の職人は有名だぞ……」
エルンストはそう言うと、翼を広げたドラゴンの浮き彫りが見事な扉を開いた。
ミラは一瞬、扉の前で気後れし、足を止めてしまう。
武器屋なんて普通に暮らしていたら馴染みがない。
だが、マイペースなはとこに手を引かれ、恐る恐る店内に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ!」
すぐに頬に大きな傷のあるガタイの良い店主が笑顔で迎えてくれた。
大きな声に身を竦ませたミラの前に、エルンストが立ち対応する。
「久しぶりですね! 新作もありますよーっ」
「少し……見せてくれ」
「どうぞー!」
厳つい見た目からは想像できない軽い口調と態度だ。
エルンストの背中越しに、会釈をすると、にこーっと人好きする笑顔を店主に返された。
ほっと息を吐いたミラは、エルンストに促され店内を見て回ることにした。
天井が高く広い店内には、エルンストの背丈を越す槍が無造作に樽に突っ込まれていたり。
額縁に入った見るからに禍々しいオーラを纏う剣や、形違いのナイフが壁にかけられていた。
所狭しと並ぶ武器や防具の数々にミラは瞳を輝かせる。
(ファンタジーの世界の武器屋って感じだぁ……)
エルンストがふっと柔らかく笑みを零し、棚に並ぶある商品を手に取った。
「カシウスとレオンなら、これはどうだ?」
「……ドラゴン?」
エルンストが持つのは、大口開いたドラゴンの刺繍がホルダーに施されたど派手な剣帯だ。
黒革に銀糸の刺繍はシックな色合いで、弟達が大きくなっても使えそうだ。
プレゼントとして求めていたものの条件にも合っている。
「でも、さ……ドラゴンは派手じゃない?」
言葉を濁したが、厨二病っぽい。
「そうか? 男なら普通だろう。な?」
エルンストは不思議そうに首を傾げ、店主に同意を求めた。
「そうですね! 男ならドラゴン1択! 新作で剣を持つドラゴンもいますよっ!」
「本当か?!」
「これですよ! カッコイイでしょう!」
「剣とドラゴン最高の組み合わせだなっ!! これに決定だろ!」
置いてけぼりで弾むドラゴン談義。
エルンストは興奮するあまり、繋いでいる手に、ぎゅっと力が入っている。
でも、気づいていない。
彼がこれほどまでに興奮する新作のデザインは、躍動感煽るるドラゴンが太刀に巻き付いている。
この世界でもドラゴンは架空の生物で、冒険譚などで度々登場する。
だが、剣帯にど派手な生き物と剣を刺繍。
(パンツにパンツ履いた豚を刺繍したみたいなことじゃない? )
念のためもう一度、剣帯ドラゴンと見つめ合う。
見事な牙と鋭利な鉤爪を持つドラゴンが稲妻を背負っている。
……やはりナシだな。
剣帯を腰にあて、少年のようにはしゃぐエルンストの裾を引く。
「えっとでもさ……大人になっても使ってほしいから……」
「大人でも使うだろっ! ドラゴンだぞっ!」
「…………そう」
ミラは繰り返される応酬の既視感に、もうドラゴン剣帯の購入を決めた。
(弟が裁縫セット選んだ時と同じだ。ドラゴン熱に罹るともう覆らないんだよ)
諦めにも似た気持ちで告げる。
帯刀したらほんの少しだけ隠れるのがせめてもの救い。
「ちゃんと大きくなっても使ってね……」
「おうっ!」
エルンストはニカッと弾けんばかりの笑顔を浮かべた。
少年達がドラゴンに夢中になるのは世界線を越えるらしい。
早速いそいそとドラゴン剣帯を包むよう店主に指示するエルンストだ。
普通に3つ頼んでいたから、自分用も購入したらしい。
ちょうど彼にご褒美を贈ろうと思っていたのでこれで良かったのかも。
(ふふ、そんなにドラゴン好きなのか……可愛いな)
ミラは手を折り曲げ、エルンストを呼ぶ。
上背を屈めたエルンストの耳元へ、目一杯背伸びをして唇を寄せる。
「エル兄が可愛いから特別だよ」
エルンストが瞬時に硬直する。
気づかないミラは、珍しく近い頭も撫でる。
「お会計は纏めて……」
カウンターでほくほく顔で包む店主を待ちながら、財布をバックから取り出す。
値札をちらりと横目で探していると、エルンストがしゃがんで、腕に伏せている。
「エル兄?! どうしたの?」
首まで真っ赤なエルンストが視界に飛び込み、つい声をかけた。
顔を顰め、口元を手で覆ったエルンストが苦く唸る。
「可愛いのはお前だろ……」
「ん?なにか言った?」
「……もういい」
はぁーと深いため息をつくと、エルンストは立ち上がり、ミラの頭をくしゃりと撫でた。




