ご褒美デート 1
「……イヤです」
ノアとミラどちらからともなく、そんな声が上がった。
「大丈夫だよ。BLゲームにしか登場しないから、イベントはわかりやすいし……」
「ミラが出会わなければいいよ」
リオンの言葉に被せるようそう言うと、ノアはとてもきれいに笑う。
なんとも凄みがある笑顔だ。
ご主人様と彼の関係を考えれば、頷くしかない。
(アルヴィン殿下とは絶対に関わらないようにしよう)
「会わなければイベント発生しないしな。各攻略対象のイベント内容すらわからないんだろ?」
ノアがやれやれと肩をすくめ、リオンへ意味深な視線を送る。
「そもそも転生者の俺達自体がイレギュラーなんだからさ……」
「……そうだね。また色々思い出したら教えるね!」
視線を受けたリオンは、しばらくして、取り繕うように笑顔で言った。
「あんまり遅くなるとミラちゃん危ないし、早く帰ろ!」
「そうだな。ミラ、行こうか」
ミラを促すように女子寮へ足先を向けたリオンとノア。
謎のアイコンタクトと間が気がかりだが、もう違う話題の会話をし始めた2人は、これ以上話す気はないようだ。
それにノアの言う通りなのだ。
この世界はゲームではなく、暮らす人達もゲームのキャラクターじゃない。
この世界に生きている人間。
⸺『強制力』さえ働かなければだが。
その件の『強制力』もいつ発動するのか不明。
ならばイベント回避、目立たないように毎日過ごしていればよし! とミラも自己完結することにした。
◇◇◇◇
翌日、ミラは身支度を済ませエルンストとの待ち合わせ場所へ向かう。
すると女子寮の門前にはすでにエルンストが到着していた。
気になっていた昨日の頬の痣も無くなり、ミラはほっとして声をかける。
「おはよう。ごめん。遅かった?」
「いや……今来たところだ……」
「……そうなんだ」
気もそぞろに挨拶を返したエルンストは、ミラのことを上から下まで視線を滑らすと、ぷいと顔を逸らした。
ミラはエルンストのおかしな様子に首を傾げる。
下ろした髪を髪留めで留め、いつもの制服がほんの少しフリルが付いたワンピースに変わっただけの、普段となんらかわりない姿だ。
むしろいっぱい歩けるように、小ぶりのショルダーバックと低いヒールの編み上げ靴だ。
もしや、もう少しおしゃれしたほうが良かったのか。
(それとも子供ぽかったかな。このバックもリボンとかついてるし……)
今日のエルンストは貴族令息の普段着を着て、いつもより大人っぽい。
襟付きの白いシャツとシンプルなジャケットに黒いパンツをバランスよく着こなしている。
長身のエルンストが着ると彼の手足の長さが映える。
チグハグな自分達が並んで歩いたら、親子もしくはパパ活だ。
恐ろしい事実にミラはショルダーバックの肩紐をぎゅっと握る。
「あー、えっと……こんな服装じゃ……」
「いいと思う!」
勢い良く振り向くエルンストの必死な様子に、嘘ではないことがわかりほっとする。
「……ありがとう」
「ほら……もういくぞ!」
近づいたエルンストが大きな手をずいっと差し出した。
(え? 手……繋ぐの? )
もうあの頃とは違い、お互いに大きくなったのだ。おかしくないか。
パパ活感もより増すだろう。
差し出された手をしばし見つめ、ミラは両手を小さく振る。
「もう迷子になるような年じゃないから……いいよ」
エルンストが目を伏せると、つぶやいた。
「……勝手に王都へ消えただろ?」
過去を引き合いに出され、罪悪感でしゅんとしてしまう。
彼に別れの挨拶もせずに王都へきたのは、紛れもない事実だ。
フール伯爵夫人の事件はここまでエルンストを不安にさせるほど、傷つけてしまったのか。
「っ……ごめん」
「いい。ほら……手」
謝罪より、手を繋げということか。
剣だこが増えごつごつした手のひらにミラは小さな手を重ねる。
エルンストはほっとしたように表情を緩め、壊れものを包むようにそっと握りしめた。




