悪役過ぎる!
「だから、『子供扱いしくさり、俺様に勝ったくせに準優勝なんて許せん!』って……アルヴィン殿下に殴られた」
「…………………えぇ」
ミラは言葉を失う。
⸺圧倒的に理不尽過ぎる
優勝偽装、側近への暴力。
極めつけはエルンストへの八つ当たり。
子供扱いの件は情状酌量の余地ありだが。
それでも、幼稚で自分本位すぎる所業の数々だ。
(いやいやいやいや! 悪役過ぎる! )
理解できない所業に憤れない。
困惑した静寂の中、エルンストの自嘲する呟きが落ちる。
「……不甲斐ないよな。負かした相手にまでそう言われて……」
エルンストは組んだ両手を暗い瞳で見つめていた。
「不甲斐なくない!」
その瞬間、ミラはエルンストの手を上から握っていた。
「準優勝って、一回しか負けてないんだよっ! しかも初出場でさ。なんでそんなこと言うの?」
「でも……負けたし……」
ぼそぼそと反論するエルンストに、ミラは譲れない。
「負けてもいいんだよ! 剣術頑張ったエル兄がねちっこい剣筋でノア様やロイドさんが引くぐらいでも!」
「おいミラ、待て……」
「あとは、お世話焼きで細かいことばかり小言を言うし、いつも不機嫌そうな顔しているし……」
「それは……お前が原因……」
「字も汚くて誕生日にもらったメッセージも半分しか読めなかったけどさ……」
「今それ言うなよ……」
今、正に不機嫌な顔になったエルンストとうんと幼い頃からともに育ったのだ。
口は悪い。
けれど、彼はひたむきに目の前のことに向き合えるひと。しつこいくらいに。
誠実に、真っ直ぐに、誰かの物差しを使わない。
彼のような正しい心の強さを持ちたい、といつも思っていた。
「一直線で不器用だけどエル兄は私の自慢のはとこだもん!」
ふん、と鼻息荒くミラは言い切る。
エルンストは漆黒の瞳をゆっくりと大きく見開いた。
「……自慢なのか? 俺が……」
半信半疑な問いかけはミラに問うた訳ではないのだろう。
けれど、強い光を取り戻しつつある瞳を見つめ、大きく頷く。
「うん! 小さい頃から自慢のお兄さんです!」
エルンストが眩しいものを見たかのように、くしゃりと顔を歪めた。
「そうか。お前がそういうなら……」
ミラの両手を上から握り直したエルンストが、ミラの肩に額をぽす、と埋める。
「……よかったぁ」
エルンストからは想像できない幼い呟きに、ミラは胸がくすぐったい。
「うん。……エル兄お疲れさま」
「ん。お前も応援⸺ありがとな」
甘えるようにごそごそと頬を肩に擦り付けられる。
エルンストの短い髪が首筋をくすぐり、そのこそばゆさにミラは声を上げた。
「っもう! エル兄くすぐったいんだけど? 重いし……」
「ノアにもさせてたんだからいいだろ……」
不機嫌なエルンストは、体を屈め、さらに頭を押し付ける。
「え?! 見てたの?!」
「あんなに堂々と抱き合ってたら、嫌でも目に入る……」
まさかあの光景を見られていたとは。
ミラは、その時のノアの香りや吐息の熱を思い出し、顔に熱が集まる。
しかもエルンストが咎めるような目で見上げてくる。
「いや……あれは……ノア様を助けるためにしたから……」
そろりと横に顔を傾げ、その視線を見ないように、小声で答えた。
小さな舌打ちが体に響く。
それでも離れようとしないエルンストは、押さえつけるミラの手の甲を親指で撫でる。
ぴく、と肩を揺らしたミラに、エルンストは満足げにふっと笑う。
首元へ吐息を吹きかけられたミラは、思わずぎゅと目を瞑る。
(なんだか、おかしな空気じゃない?! )
乙女ゲームイベント中の『強制力』のせいなのか、空気がおかしい。エルンストも。
切にこのピンク色空気を払拭したい。
話題転換のため、ミラは今日のために考えていた『ご褒美』をエルンストへ提案した。
「っあのさ! ご褒美に付き合ってよ!」




