いざ、乙女ゲーイベントへ!
秋晴れの空の美しい日、ついに剣術大会が開催された。
先日ミラがシエラたちと訪れた鍛錬場が大会会場だ。
しかし、本日は円型の広い鍛錬場を囲むように、華やかに飾り付けされた座席が多く配置されていた。
学院生の家族である高位貴族や王族が観覧に来ることもあるので2階にボックス型の貴賓席もあり、立派な柵の外には数列の椅子席まである。
ちなみに本日は、ぎっしりと大勢の生徒たちで溢れていた。
幸い、ミラは最前列の椅子に座れた。
というのも、普段色んな意味で注目を集めていたのが役に立った。
シエラとアナと座席を探していると、皆がこっち空いてますよというように、目線で最前列の座席を示したから。
周囲がぽっかり空いた座席には、プラチナブロンドと真紅の髪、ピンクの髪が一際眩しい貴公子が腰掛けていた。
「ノア様っ! なんでここに?」
驚きの声を上げたミラに見慣れた3人が振り返った。
「ん? 貴賓席だとエルくんの勇姿が遠いからさ。こっちにしたよ」
「そう! エルくん気合入ってたからさ! 胸キュンイべはやっぱり間近で楽しみたいよね!」
「ここどうぞ。お嬢様がた」
立ち上がった3人に、どうぞと手を差し出されれば、ミラたちは座るしかない。
皆、出場者より、こちらのカラフル貴公子に熱い視線を送っているからだ。
シエラとアナはミラを裏切り、さっさと隙間をあけ、端の座席に座ってしまった。
ということは、必然的にこの3人の隣に座るのは自分なのだろう。
ノア、リオン、ロイドの順に座っており、ノアとロイドどちらか2人の隣に座らなければならない。
じっと3人が見つめる中、ミラはゆっくりと腰をおろした。
「……失礼します。ノア様」
「へへ。……どうぞ」
ほぼ反射で主人のとなりに座ったミラ。
そんな彼女にノアはにっこりとご機嫌な笑顔を向け、ロイドはぷいっと顔を背け、長い足を組んだ。
途端、会場に戸惑うようなざわめきが広がった。
つんつん、と肩を叩かれ、振り向くと、にんまーりと笑ったリオンがいた。
「ミラちゃんはノアくんの隣を選ぶんだねー」
「あ、はい。できるだけノア様のおそばにいたいですね」
専属メイドとして当然のことを言ったつもりだ。
しかし、先程の騒がしさが一瞬で消え去った。
何事かと座席を見渡すと、会場の生徒たちが一様に口を開けたまま固まっていた。
しかも皆の視線の先には自分たちが。
「え? 今のって……ラスフィ公子が本命ってこと……?」
「カルセニル令息とアルドワ令息は……当て馬?」
どこからか、囁き声が聞こえてくるが詳細な内容までは聞き取れない。
(え? この席に座ったらいけなかった? 爵位順とか……)
考えつく理由はそれしかない。自分の粗相でノアに迷惑をかけてしまう。
「あの……私やっぱり……」
そっと腰を浮かしかけたミラだがそれどころではなくなった。
「ちょっとオレもそこ座らせてねー」
両肩をロイドに押さえつけられた。
「はっ?! ちょっ! ロイドさん?!」
「仲間はずれは寂しいから、はんぶんこしてよー」
さらに彼は強引にミラの椅子に腰を押しすすめ、座面を仲良く半分こにした。
バランスをくずし、ふらついたミラの腰をノアがぐっと腕を回し、支える。
心配そうに顔を傾げた麗しい主人の顔がいきなり至近距離にあり、その近さにミラは顔を赤くする。
「すみません、ノア様! ロイドさんが……」
「ロイドだけが全面的に悪いから、ミラは気にしないでいいよ」
「えー? そういうノアは、その手、はずしたら?」
ロイドとノアが頭上でにっこり微笑みあう。
なんだか周囲の温度が数℃下がったような微笑みの応酬だ。
自然とミラは腰をよじって距離を取ろうとしたが、さらにノアの手にぐっと力がこもる。
(え? もしかして席もこの手もそのままなの? )
嫌な予感が一瞬過ぎる。
その時、丁度学院長が剣術大会開催の挨拶を始めた。
「あ、ほらミラ。学院長の挨拶が始まったよ。しっかり座って!」
「そうだねー。もう身動き禁止だよー。ちゃんと聞かないとダメー」
ノアロイドは口々にそう言うと、口を閉じ、学院長の声に耳を傾ける。
立ち上がる機会を逃したミラは諦め、主人の言いつけ通りにしっかりと椅子に座り直した。




