真実はいつもひとつですよ
真実はいつもひとつ! とでも言いたげなミラの表情に、3人は呆気に取られた。
「と、とりあえずストーカーじゃないってことなんだね……」
ノアの声が震え、口元が微妙に歪んでいる。
ミラは再び自信を込め頷いた。
するとノアは、すっと顔を背け、肩も震わせる。
「ただのっ、字の汚い親戚なんだもんねー、あははっ」
ロイドは地面に膝を付き腹を抱えた。
「お前は間違いなくミラだな……」
エルンストは地を這うような低い声だ。
久しぶりに聞く不機嫌な声に、反射でミラはぎくりと身を竦ませる。
しかし、すぐに反論した。
「エル兄の無罪をちゃんと主張したのになんで怒るの?」
「あ゛あ? あれで怒らない理由がないだろう?」
エルンストは眉間のシワをさらに深くした。
「じゃあ、エル兄はちゃんと自分だけで証明できたの? 私なりに頑張ったよ」
エルンストをじっと見上げ、ミラは伺うようにこてりと首を傾げてみせた。
エルンストは僅かに目を見開いた。
「くっ」と呻くと、視線を逸らし、唸りながら頭を掻きむしる。
耳元が赤く染まっている。
(久しぶりに会ったはとこに煽られたら、それはいらつくよね……)
謝ろうとエルンストに近づこうと、一歩踏み出した。けれど、なぜか進まない。
振り向くと、ノアに手首をそっと掴まれていた。
「ミラは優しいね。字の汚い親戚のアルドワ令息に、詳しくこれから話を聞こうかな」
ノアは見惚れてしまうような美麗な笑みを向けた。
まさしく『氷血の貴公子ノア・ラスフィ』だ。
「ああ、わかった。婚約者がストーカーにあったんだからな」
笑顔が怖い主人に口に出す間も与えられず。
ミラは手首を掴まれたままついていくことしかできなかった。
「んー。みんなでのお話楽しみだなー」
ミラの意思とは全く関係なく、話し合いが決定された。
頭の後ろで両腕を組んだロイドを先頭に、4人で特別棟へ続く回廊へ向うことに。
これから始まる話し合いを想像し、胃がキリキリと痛んだ。
◇◇◇◇
4人で特別棟を歩いていると、廊下の先に重厚な扉が見えてきた。
純白の大理石で、複雑で精緻な植物の蔦模様とアメトリンの装飾が施された神秘的な扉だった。
「着いたよ」
ノアはそう言うと、手を離した。
「あ、ありがとうございました」
何故かずっとノアに手首を掴まれていたのだ。
彼の手の温もりが、まだしっかりと手首に残っているよう。
ミラは、ふいと顔を背けてしまう。
どぎまぎしつつ、目についたことを口にした。
「あ、その、この扉……他の扉と豪華さが段違いですね」
「ここは王族とその縁戚だけが使う特別なサロンなの。落ち着けるし、 人にも会わないから、たまに利用するんだ」
「なるほど……ノア様は王家の縁戚でしたね。だから、使えるんですね」
宝石が埋め込まれた、触るのさえ恐い、神秘と高貴さが漂う扉。
両隣には騎士と従者の姿。
内装を想像しただけで足が震えそうだ。
「えっと、私みたいな部外者が入っても良いんですか?」
「いいよ。よくコイツも勝手に付いて来るし、気にしないで」
ノアが背後に立つロイドを親指で指差した。
「そ、ここのお茶とお菓子美味しーよ? サボり場所にオススメだよー」
じゃれつくようにノアの肩に腕を回したロイドが、こちらが笑顔になるような笑顔で言う。
ちらちらと視線を向けられていた従者と騎士にも、丁寧に礼を取られた。
歓迎されたようで、ほんの少しだけ不安が和らぐ。
「……わかりました」
粗相だけはしないように気をつけよう。ミラはそう心に決めた。
ロイドの腕を鬱陶しそうに振り払ったノアは、従者になにやら指示し始める。
ロイドもノアと従者の会話に加わったため、背の高い2人の会話に加われず、ミラは静かに視線を扉へ移す。
白銀が絡む繊細な蔦模様、その中にきらめく紫の宝石。まるで星のように輝いていた。
(どこかで見たような色合い……高貴な紫に、しとやかな白色……まるで)
扉に埋め込まれたアメトリンの輝きに既視感だ。
隣に立つ、ノアの深いアメジストの瞳。光を受けて淡く輝く彼の髪。
「……ノア様の髪と瞳の色合いだ」
小さく頷くと、エルンストが 鋭い視線を向けてきた。何か言いたげな眼差しだ。
頭というのか顔をじっと見つめられた。
「ん? エル兄どうしたの?」
「あ? その色って」
エルンストが何かを言いかけたその時。
「じゃあっ! 字の汚いアルドワ令息からお話をたっぷり聞こうか!」
ノアが振り向き、大げさなくらい明るい声を上げて、重厚な扉を開いた。




