敬愛するご主人様が悪役令息らしいです? 1
※BLゲームのお話ですがBL描写ありません!
「師匠。俺は悪役令息になりたくない!」
ソファーの向かいに座る美青年が悲壮感を漂わせながら突然叫びだした。
『師匠』と呼びかけられたミラ・オーキッドは首を捻りながら、訳のわからない叫びに問いかけた。
「いきなりどうしたんですか? 敬愛する我がご主人様であるノア様?」
「うっ。ミラはずるいよー! 俺がそう言われるの苦手なのしってるでしょ?」
ノアはサラリと美しいプラチナブロンドを揺らし、赤くなった頬を隠すようにカップを口元に宛てた。
「それでも、本当のことですから。私は、筆頭公爵家ラスティ家嫡男、ノア様専属メイドです」
いつもどおりの可愛らしい反応を見せる主人に、にこり、と笑い返すミラ。
「んん゛っ、お茶冷めるよ。どうぞ」
(ノア様を見ていると、つい前世の弟を思い出しちゃうんだよね。申し訳ない)
今はノアの午後のティータイムである。
午後の勉強を終え、ノアかやたら真剣な面持ちでお茶に誘われ、あの謎の叫びだったのだ。
『あくやくれいそく』という言葉をかろうじて聞き取れ、初めて聞く単語に疑問が残るが、主人からのお茶の勧めを断るわけにはいかない。
「ありがたくいただきます」
先程、自ら淹れた主人お気に入りの紅茶にミラが口をつけたその時。
「よしッ! 頑張れ俺っ!」
唐突に、ノアが両頬をパンっと叩き、自らを鼓舞しだした。
ミラはノアの様子を不思議に思い、顔を上げる。
真っ直ぐ自分を見つめるアメジストの瞳とぶつかる。
真剣な眼差しに、ミラはなんとなく嫌な予感を感じ、思わず口元が引き攣った。
「の、ノア様? ど、どうされました?」
嫌な予感をどうにか払拭したいミラは無作法を承知の上で、ノアに問いかける。
「うん。あのね、……俺はBLゲームの悪役令息なんだよ!」
瞬時にメイドとしての矜持を引っ張りだしたミラは、眼前のご主人様と向き合う覚悟を決めた。
一抹の不安を抱えながら。
「その、BLゲームのあくやくれいそくとはなんですか?」
「うん。まずはBLゲームってわかる?」
「……知りません」
ノアが居住まいをただし、ごくりと鳴らす。その真剣さにミラも同調し、背筋を伸ばした。
「BLゲームって、男性同士の恋愛を描いたゲームなんだ」
ノアが語るには、この世界はそのBLゲーム『君がくれた約束』の中らしい。
舞台は王立学院で、主人公はふわふわピンク髪の美少年リオン。
複数の攻略対象と甘酸っぱい恋愛を楽しむゲームだという。