ひいおじいちゃまとエルンストおじさん
「さて、まずは皆が気にしているであろうことを話そう」
皆が腰を落ち着けると、前公爵が悠々と口火を切った。
若干、部屋の空気が混沌としたままであったけれど。
返事代わりの視線を受けた前公爵は胸から封筒を取り出す。
その留められた封蝋に見覚えがあったミラは息を呑む。
封蝋に刻まれた紋章はラグナス伯爵家のものであり、母の実家だ。
母を見ると、何かを耐えるようにそっと目を伏せた。
「これはラグナス伯爵夫人からの手紙だ。レイナ、ここにすべてが書かれていたよ……」
気遣うようにそういう前公爵は、封筒を母へ手渡した。
血の気がなくなった母が父と手紙を読みはじめると、前公爵はミラへ顔を向ける。
「ミラにも辛い話だけれど、私から話そう……」
すると、視界にのっそりと大きな影が差した。
真向かいに座る先代辺境伯が立ち上がり、机を回り込むとミラのそばに膝をついた。
「いや。私から……話すのが筋だろう。聞いてくれるか? ミラ」
掠れたその声に、真っ直ぐ向いたその瞳に、胸が痛んだミラは頷いた。
ほっとしたように眉間のシワを1本消した先代辺境伯が話しだした。
「……私には平民の娘がいたんだ。その娘は⸺」
曰く、奥様がなくなられた後にできた恋人との間に娘がいたこと。
その娘と恋人と再婚しようとしたが、拒否され、いつのまにか行方をくらまされてしまった。
辺境伯は探し続けていたが、見つからず年月だけが経ってしまっていた。
だが、娘が王宮に出仕していた時に友人となったミラの祖母を通じて、一度だけ連絡があったという。
「娘は病で亡くなったとだけな……」
昼ドラのようなどろどろ系話を聞かされ、ミラはお腹いっぱいだ。
病み上がりになぜ、尊敬していた親戚のこんな重い話を聞かされているのか。
返す言葉もない。
「ご愁傷さまです……だから私たち家族に良くしてくださったんですか?」
「ああ。最初はそのつもりだったんだが、ある日レイナ殿が身につけたネックレスが娘の物だった……」
やっとミラはこの話の行く先が見え、全身の震えがとまらない。
にわかに信じがたい話だ。けれど、確かめなくてはなにもできない。
「……私はなんなんですか?」
己が尊き色をもつ意味や、母が祖母の実子ではない可能性、沢山聞きたいことはあるのに。
結局のところ、ミラが一番知りたいことが口をついて出た。
先代辺境伯が泣きそうに顔を歪める。
「君は私のひ孫だ。これからは『ひいおじいちゃま』と呼んでほしい」
「ひいおじいちゃまは嫌です」
知りたかったが、そうではない。
そういえばエルンストもこういうところあったな。真面目に不真面目なのは遺伝なのか?
あ、今度からはエルンストおじさんか。
肩を丸める先代辺境伯の姿は、歴戦の猛者の面影は消え、むしろ悲哀を感じさせる。
ひ孫である自分ににそんなにひいおじいちゃまと呼ばれたいのか。
理解できない、驚きしか生まない言葉のやりとりに疲弊した心が、どうにもおかしい先代辺境伯の様子に和む。
「ひいおじいさま……でも良いですか?」
おずおずと消え入りそうな声で尋ねる。
自分なりに最大限譲歩したのだ。
「ああ! ぜひ呼んでくれ!」
ぱあっと顔が輝き出す先代辺境伯に、つい頬が緩む。
今すぐ呼んでほしいと言わんばかりの、期待の眼差しが痛いくらいだ。
けれど、まだ謎は残っている。
心を鬼にして、その視線は気が付かないふりをしよう。決して呼びたくないからではない。
すーっと視線を隣に向けると、今まで静かに話を聞いていたノアが優しく目を細めた。
それから、ミラの気持ちを代弁するように、前公爵へ向かって核心を突いた。
「それで……結局のところ、ミラの本当のお祖父さんが『王族』の誰なんですか?」
前公爵が表情を消した。




