感動の再会のはずが?
「お、お母さんとお父さん?!」
辺境でやんちゃ盛りの双子の育児に忙殺されているはずの両親がそこにいた。
記憶より年を重ねていて欲しかったが、2人の端正な美貌は相変わらずだった。
にっこりと微笑む母は女神のようであり、その隣の貴公子も美の化身ぶりだ。
驚きで足を止めると、目の前の美青年の瞳からぶわっと涙が溢れていく。
しかも、両手を広げながら猛スピードで迫ってきた。
「み、みら〜!!」
そう言うが早いか、ミラ父はミラの腰を両手で抱え上げ、くるくると回りだした。
「学院の制服も似合って、ほぼ天使じゃないか!大きくなったなー」
回りだした視界の高さに、やっと事態を理解した。
「お父さん! 危ないよ!!」
父の両肩を容赦なく叩くと、回るのだけはやめてくれた。
やれやれとほぼ反射で父の首に腕を回すと、強い視線を感じる。
我に返って、顔を上げると、ノアがじとりと何故か父を睨んでいる。無表情なのが怖い。
「……ノア様? えっとこれは、その……」
なにかを言わなければならない気がして、口を開いたが、謎にノアがニッコリと笑みを返してきた。
「初めてお目にかかりますお義父様。娘さんの婚約者であるノア・ラスフィと申します」
穏やかな笑みを浮かべ、ノアは恭しく頭を垂れた。
けれど、父はじっとノアを見つめたまま、お貴族様らしい笑みを浮かべた。
「私の名前はカイル・オーキッドであり、まだ君のお義父様ではないけどね」
微笑む貴公子の間に一瞬、火花が散ったような。
見間違いだろうな。輝くような微笑みの応酬は、絵画のように美しいのだから。
それにしても我が主人に失礼が過ぎないだろうか父よ。ついでに早く降ろしてほしい。
無言で父の肩を思い切りつねると、唸った父の腕から開放された。
「ノア様、うちの父がすみません」
とことこノアに近づき袖をひくと、ノアの笑顔がとびきり甘くなる。
「気にしていないよ。ただ俺もミラを抱っこさせてね」
「はい?」
「寂しいなと思ったんだよ」
拗ねたようにそういうノアに、不覚にも動揺してしまう。
(な、あざといノア様はずるいんじゃ?! )
もう怒りさえ感じてきてしまい、完全に感情が迷走している。
とにかくノアに触れたくなり、目に入った人差し指をそっと握る。
「これで……寂しくないですか?」
「っえ?」
あの告白以来、ミラからノアへ触れたのは初めてなので、驚いたらしい。
自らの所業に急にいたたたまれなくなり、手を離そうとすれば、ノアにしっかりとその手を握り返されてしまった。
手のひらに伝わる温もりを振り払えず、握りかえしてしまう。
「ふふっ……嬉しい」
つい漏れたというようなノアの呟きに、顔が上げられない。
羞恥で埋まりたいとさえ思い始めたが。
はあ、と前公爵の深いため息が部屋に響く。
「君たち早く腰掛けなさい。陛下たちがやってくる前に話がある」
前公爵の真剣な声にミラは羞恥を散らし、背筋を伸ばす。
ぐっと顔を上げ、部屋を見渡すと、父は母に肩を抱かれ泣いていた。
しかも、部屋の奥のソファーには軍人然とした壮年男性が真っ黒いオーラを発しながら、腕を組んで待ち受けていた。
その男性が纏う黒と赤を配した軍服は、辺境伯騎士団のものであり、多くの徽章と真っ赤なマントはアルドワ辺境伯家当主だけにしか着用が許されない。
白髪混じりの髪に、眉を顰めたその横顔は、先代辺境伯。
エルンストの祖父だけあって、眉間のシワがそっくりだ。
両親が同席するのは理解できるが、なぜいるのか。
困惑し立ち尽くすミラに、ノアが安心させるように微笑む。
その笑顔に、覚悟を新たにする。
誰が相手でも逃げない。




