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【完結】傷ものメイドはBLゲー攻め達に囲まれる〜悪役令息の執着が止まりません〜  作者: 日月ゆの
第三章

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見つけた



「それでよ。うちの孫に小遣いやるために船に乗ろうってのに。この雨だろ?」


「……波も出て、出航の準備が遅れているみたいですね」


「いつになるのか……」



 日の昇らぬうちにラスフィ公爵家を抜け出し、現在ミラは、王都の東の端にある港に来ていた。

 朝一番出航予定の、かなり稀少な東国行きの船に乗るために。


 だが、昨夜から続く雨によって海が荒れ、雨足の強さで荷物の運び込みも遅れ、かれこれ1時間ほど足止めされている。


 未だ出航のしらせはなく、港を見渡せる食堂で同じ便の乗客とその時を待っていた。

 早朝の店内は、出立を待つ乗客と休憩する船員たちでごった返している。

 奥の席で1人腰掛けていたら、セルゲイと年が同じくらいの男性に相席を頼まれ、彼の身の上話に耳を傾けていた。


 ただ待つだけの時間がもどかしく、途切れた会話の合間に、雨粒が滴り落ちる窓から港をつい眺めてしまう。

 外套をずぶ濡れにしながら、ガタイの良い船員たちが木箱を船へ運び入れている。



(……この船に乗りさえすれば、婚約破棄できる)



 雨で濁った波を受けても、全く揺らぐことなく浮かぶ3本マストの大きな帆船。

 初めての船旅、初めての外国に連れ立つ相棒として頼もしいことこの上ない。


 だが裏腹にミラの手足は冷え切り、乗船すらしていないのに、足元がどこか揺れているような心地だ。

 すり、と指先を無意識にこすり合わせる。



「なあ! 坊主は何歳になったんだ?」



 正面の男性があっけらかんと聞いてきた。

 今のミラの格好は乗馬服の上に外套を羽織り、帽子の中に長い髪をかくしている。


 少女が大きなボストンバックを持ってうろついていたら、警邏隊へ通報されるかもと考えて変装したのが。

 目論見通りに少年と言われたが、どうにも釈然とせず、返事が遅れた。



「……今年で13歳になりました」


「そんな小さいのに1人で故郷の母に会いに行こうなんてえらい! うちの孫は25だが、未だに部屋から出てこなんでなー」


「お部屋が好きなんですね……」


「はは! そうとも言うな!」



 ひとり旅の目的を感動的にしてしまったために、やけに男性からいたわられている。

 ご主人様との婚約から逃げ出したと言えない。

 そんなことを言ったところで、理解されないだろうとも。



 曖昧に笑いながら、ミラは頼んだままになっていた紅茶をすすった。




 己の心の根っこには、すべてを捨ててでも、ノアにはただ幸せであってほしい、という願いがある。

 いつの間にか、ご主人様への思いは、恩と願いがこじれて膨らんでいる。

 正直、この想いは自分でもよくわからない。


 崇めたいわけじゃない。けれど、ただ、失いたくなかった。


 だから、将来は乳母になり、一生そばにいたかった。



(一生、彼のそばにいれば、私はミラ・オーキッドでいられたから)



 ノアに出会うまでは、自分がミラじゃないように思っていた。

 空虚で、1枚膜を隔てた世界を、見ていた感覚だった。


 だからこそ、3年前のあの日、ノアが日本語で呟いた日を忘れられない。


 目があった瞬間、『銀髪ロリメイドたん滾るんだが?』と早口なのも内容と相まって衝撃だった。



 (ノア様のおかげで、私は本当の『ミラ・オーキッド』になれた)



 彼が必要としてくれるから、ここにいていいのだと思えた。

 ご主人様が名前を呼んでくれるたびに、自分の輪郭は鮮明になった。


 寝れない彼のために作ったホットミルク。

 夜に怯える彼の手を握り、夜通し交わした他愛のない会話。

 屋根裏部屋を抜け出して、二人でこっそり見上げた満月や流星群。


 あれは全部、ノアのためだけじゃなかった。



 (私が、してほしかった……)



 温かいミルクを誰かと飲みたかったのも。

 不安な夜に誰かと話したかったのも。

 綺麗なものを誰かと共有したかったのも。

 突然知らない世界に放り込まれた自分が確かめたかったのだ。



 ⸺変わらないものが存在する、と。



 彼を慰めているつもりで、救われていたのはミラの方。

 それなのに、救おうとしてくれたノアからも逃げようとしている。



 無意識にポケットに忍ばせた懐中時計を服の上から握りしめる。



『前向きに逃げたっていいんじゃないかな?』



 満月の夜に受け取ったノアからの優しさを秘めた力強い言葉⸺



 (前向きだから、逃げていいんですよね、ノア様? )



 心の中で問いかけた、その時。



「東国行きの乗船を開始する! 乗客はタラップへ急げッ」



 船員の大声が店内に響き渡る。

 どうやら出航の準備が整ったらしい。もう雨は弱まり、遠い空の雲間には朝日の柱がさしている。



「おっ、やっとか! 行くぞ坊主」


「……はい」



 老人がいそいそと席を立つ。ミラもボストンバッグを握りしめ、立ち上がった。


 これで逃げられる。


 我先にと乗船しようとする乗客達の間を縫いながら、ミラが船着き場へ一歩踏み出した瞬間。



 周囲中の人間がざわめき出す。

 轟音ともいえる乱暴な馬の蹄の音が、一直線にこちらに向かっている。



 「おいおいなんだぁ?」



 老人がのんきに振り返る脇で、ミラは凍りついた。

 人々の隙間から、視界に飛び込んできた、雄々しい黒馬に見覚えがあった。



「は? おいっ! こっちに……来てる?!」



 石畳を叩く荒々しい音が目前に迫り、黒馬がミラの目の前で高く嘶いて急停止する。

 飛び散る泥水と、圧倒的な威圧感。



 「の、あ様……?」



 逆光の中、馬上で肩で息をする人影が美しい顔を歪めている。

 泥だらけの服。雨で濡れそぼった銀髪がはり付いている。


 感傷など、一瞬で吹き飛んでしまった。



 「…………みつけた」



 変装なんて、何の意味もなかったのか。なぜだか、ゾクリと背筋が寒い。


 昏く揺れるアメジストの瞳が、迷うことなくミラだけを射抜いていた。



 

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同じ異世界恋愛短編ですお時間あればぜひ 追放された幼女聖女ですが、今はエルフ王子に溺愛されています
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