ステップよりも気になちゃうんだよう!
放課後、ミラとリオン、ノアは初めてのダンス練習に励むため、王族専用サロンに併設された小ホールに来ていた。
ゆうに数人が広々と踊れるホールまで王族専用があるのかと、足を踏み入れた瞬間、リオンとミラは揃って絶句した。
けれど、ノアがいる間しか使用できず、そのご主人様は最近特に多忙で、練習できる日程は限られている。
「リオンくん!はじめますよ!」
「シャンデリアがキラキラしてるとこで初めての練習なんてハードル高いよ!!」
「あれは掃除が大変なただの飾りです。気にしない!」
ミラは貸し切り状態のホールの中央で、すぐさまリオンと向き合った。
「リオンくん、そこは絶対に足を引かない。次のステップに遅れるからね」
「うう……だって……」
「それと足元ばっかみない! いいから私を見て!」
「……スパダリミラたん。見続けた僕はある人物に殺されそうなの……」
「は? あ、もうほらっ」
ミラはリオンが足を踏み間違えそうになり、強く手を引き制す。
基本のステップは元々リオンの体が覚えていたらしく、問題ない。
だが、音楽に合わせた途端、足の動きが怪しくなった。
「いい? リオンくんは顔がきれいだから、笑って踊ればなんとか様になります!」
「暴論すぎない?」
「戦略といいます! ワルツなんて基本のステップを3拍子に合わせてだせば良いだけです! あとは」
ミラはそう言うと、流れるようにリオンの腰に手を添え、くるりと体を右回転させた。
男性パートはリードもしなければならない。
けれど踊るパートナーが上手ければ、こうやってなんとかごまかせる。
「パートナーの腰に手を添え、ステップの合間にターンを繰り返します」
「ミラちゃんが男前すぎる……」
「アイコンタクトとつま先で方向指示すれば、令嬢側が合わせてくれるので、ターンは意外と簡単にできますよ」
「ヤダ……惚れちゃう」
リオンが頬を染め零した。
そのおかげか体の力が抜け、足運びが滑らかになる。
「上手ですよ!」
ミラは弟子の上達を褒めると、満更でもないのかリオンが歯を見せて笑った。
その間ノアは両腕を組んで壁に寄りかかり、あからさまに不機嫌そうに二人を眺めていた。
「もう疲れた……休ませてよお……」
数回踊ったリオンがふらふらとソファーに倒れ込んだ。
「ミラの足を23回も踏んだくせに自分だけさっさと椅子に座るとはいいご身分だな!」
ちっと舌打ちしたノアはリオンをキッと睨みつけていた。
ミラはホールに立ったまま痛みが増す両足を休ませながら、ふう、と一息つく。
リオンのダンスの基礎はもう固まったから、あとは慣れだろう。
(私とだと身長差があるから無意識にかがんで踊りづらいだろうし、誰かいい人いないかな……)
痺れるように痛む足を見つめていると、ふと輝く金糸が視界に入り込む。
ノアが跪き、ミラの両足を見つめていた。
「え?」
ノアにそっと右足を持ち上げられ、ミラは走った痛みに顔をしかめる。
「はぁ、やっぱりな」
「ノ、ノア様離して……」
「……冷やして。もう今日は練習おしまいね」
「わっ」
ノアは慎重な手つきで足を下ろすと、ミラの膝の裏に手を差し入れ、背中に手を回し持ち上げた。
大股で歩き出す主人の横顔は、紛れもなく『氷の貴公子』だ。
静かに怒るノアの剣幕に、ミラはなすすべなく頷く。
抱っこされた羞恥なんて吹き飛ぶくらい背筋が寒い。
「す、すみません……」
「いいよ。俺のときもだけど……無理させてごめん」
思い出したようにぎゅっと眉を寄せたノアは苦しそうだ。
「あの……やりたくてやってます!」
今日だって、ノアの時だって。いつだって自分はやりたくてしたのだ。
これだけはわかってほしい。
ノアの胸元を掴み、ミラは顔をまっすぐ見上げた。
「うん。知ってるから……ありがとう」
ミラのつむじにノアが頬を載せる。
「ミラを抱っこできたのは嬉しいけど、俺も一緒に踊りたかったな」
ノアはすり、と甘えるように頬を擦り付け、ため息を吐いた。
拗ねたようなノアの声に、なぜかミラは胸が甘く締め付けられる。
(嬉しい……けどノア様は舞踏会では違う人と踊るんだよね……)
ノアが他の令嬢と踊る姿を想像した瞬間、息が苦しくなる。
締め付けられた胸が重く苦しくなっていく。
「私も……です」
ミラはなんとか声を絞り出したが、顔を上げられない。
「ふふっ、じゃあ足が治ったら、絶対に一緒に踊ろう!」
そろりと目だけ上げると、ノアはとろりと蕩けたような笑みを浮かべている。
(ノア様は本当に……ダンスを楽しみにしてくれているんだ……)
ノアの笑みに、喉が詰まったように声を出せないミラはそっと頷いた。




