悪役令嬢エリカとお茶会
「光栄ですわ。ミラ様とこうして同じ時間をすごせるなんて……」
テーブル向こうに座るエリカが片頬に手をあてうっとりと息を吐く。
「こちらこそ、友人のリオンくんとともにご招待ありがとうございます」
「ありがとうございます」
ミラもリオンも顔に笑顔を貼り付け返す。
先程教室に現れたエリカ直々にお茶会に誘われ、今に至る。
公爵令嬢を自ら普通教室にわざわざ足を運ばせたのに、断ることなどできない。
しかも開催場所は、シャンデリアが眩しい、あの王族専用サロンだ。
「ふふっ、ミラ様もおひとりだけだと緊張されるでしょうし……もっとミラ様のお話をその方からお聞きしたかったのです」
リオンをちらりと見ると、照れたようにエリカが笑う。ミラに向かって。
(私のことなんて気にしてくださるなんてなんて思慮深い! )
緊張と警戒から口数が少ないリオンだが、3段重ねのティースタンドに視線が固定されている。
「どうぞ。召し上がってください」とすぐにエリカが気づき声をかける。
恐る恐る菓子と紅茶に手を伸ばしたリオンの表情が緩んだのを見て、ミラもカップを持った。
さすが公爵令嬢主催のお茶会のもてなしは素晴らしい。
先程からエリカの友人の女生徒が給仕をしてくれているが、手際の良さから察するに、エリカの家から連れてきたメイドだろう。
(やっぱり上位貴族なら専属従者を隠れて連れてきているよね……)
そのメイドの采配であろう菓子や紅茶のセンスが悔しいほど良い。
「ミラ様。ショートケーキには、こちらの茶葉が合うかと……いかがですか?」
客が今食べている菓子と茶葉の相性が合うよう、その都度紅茶を淹れ直す気配りも忘れない。
(その紅茶の香りも渋みも計算し尽くされて……美味しい)
自分もノアにこんな風にふるまいたい。
やっかむ気持ちと己の至らなさに、華奢なカップを持つ手につい力が入る。
ミラが対抗心混じりの観察に勤しんでいると、エリカがカップを置いた。
「その……ミラ様にお願いがあるのですが……」
「はい。いいですよ!」
「ちょ、ミラちゃん?!」
ミラは即答した。
理想のお嬢様であるエリカの頼みだったら、何でも聞ける。
リオンが袖が伸びるくらい思い切り引くが、無視だ。
「え? その……良いのですか?」
「はい。エリカ様がよろこんでいただけるのなら、なんでもしますよ」
「ありがとうございます!」
エリカが感激したように、胸の前で両手を組み、瞳をうるませる。
それから、側に控える女生徒を呼んだ。なにやら2人で囁きあい出した。
「僕、知らないよ。悪役令嬢のお願いを聞いちゃうヒロインなんてサポートできないから!」
「ごめん……だって、エリカ様のお願い聞きたいよ」
「ふん! 悪役令嬢エリカ様のいじめが始まって、階段から落とされるかもよ?」
「いくらなんでも飛躍しすぎだよ……」
リオンとその二人を見やりながら、声を潜めていると。
女生徒がサロンに並ぶ扉のひとつに向かって駆け出した。
スカートの裾をたくし上げ、全力で。
「え? 足はや……」
ぽつんと漏れたリオンの呟きに同意しながら、唖然と彼女の背中を見送るしかない。
「では……ミラ様は私とお着替えいたしましょう!!」
「え?」
「なるほど。『悪役令嬢は可愛いヒロインちゃんで着せ替えがしたい!』系ね」
いつの間にか横に立つエリカに手を引かれ、その扉に向かって歩かされた。
しかもエリカの力が強いために、振り払えない。
「着替えはたぶん大丈夫なんじゃない? いってらっしゃーい」
助けを求めたリオンには、訳知り顔でマカロンをもぐもぐされながら送り出された。
全く大丈夫に思えない。
「着替え? なんでです?」
「私、ミラ様の御髪はツインテールが似合うと思いますの!」
「それ答えになってないですよ?」
「ふふ! なんでもしてくださるなんて……私楽しみです!」
はしゃいだエリカがぎゅうと腕に抱きつく。
柔らかい感触とバラの甘い匂いに、ついキュンとしてしまった。
「エリカ様の笑顔のためにツインテールとお着替えがんばります!」
そう宣言したミラは扉に入った数分後、頑張れなくなった。




