2度目の人生応援隊です!
「あのさ……ミラちゃんってダンス踊れるの?」
特別棟へ向かう廊下をリオンと並んで歩く。
「はい。それなりにですけど……踊れるかと」
「え? マジ? ミラちゃんってたまにヒロインなら得意なことこそ出来なかったりするじゃん! 刺繍とか!」
単純にひどい。
刺繍が上手くないだけでものすごい言われようだ。
ヒロインの自覚無き時代でもここまで言われなかった。
辺境の貧乏男爵家だけれど、淑女教育は受けている。
それにセルゲイや侍女長からも、教養のうちであるダンスなど、今も習っている。
ただならぬ様子のリオンにもしかしてと心当たりを問い返す。
「まさか……リオンくんは踊れない?」
「……う。僕はここに慣れること優先で……」
「つまり?」
「踊れません! だってなにあれ! マイムマイムよりもステップ複雑だし……」
もにょもにょと言いながらリオンがこちらを向く。
ちらちらとミラを上目遣いでミラを見つめてくる。
黒目がちの大きな瞳が、なんだか雨に濡れた子猫のような姿に思えてきた。
ダンスは貴族令息として最低限の教養だ。
小さい頃から家庭教師に習い、修得済みでこの学院に入学したという前提で例の舞踏会は開催される。
ダンスの練習は、教養の授業で舞踏会直前に数回するだけの形ばかりのものだ。
それに、ワルツくらいはリードして踊れないと、セレス伯爵家の評判にも関わるのでは?
(最低限の教育を施さない家門としてレッテル貼られるよね……)
「……わたしが教えましょうか?」
「いいの? でも……ノアくん怒らない?」
「ノア様はそんなことで怒らないですよ。そのノア様にダンス教えたのも私ですしね!」
「うーん。僕が知るノアくんとは世界線違うのかな?」
なぜかリオンが首を傾げている。もしやあんまり乗り気ではないのか。
彼の2度目の人生応援隊としては、ダンスをぜひこの機会に習得してほしい。
将来、社交をする上で必要だからだ。
ならば、明確な目標があったほうがやる気が起きるかも。
今はちょうど舞踏会前だ。
(衣装はシエラさんやアナさんの子供の頃のものを借りて自分で直せば……)
「……じゃあ、目標を決めませんか」
「もくひょう?」
「来月末の舞踏会にわた⸺」
「ダメっ! これ以上言わないで! 嫌な予感しかない! 絶対に練習するから!」
リオンが両手でミラの口元を押さえた。
動きが見えないくらい、素早く。それは必死な表情で。
リオンの手を外そうと手を掴むと。
「さっきの言わない? 言わないなら、外すよ! ノアくんたちに国外追放されたくない!」
ものすごい力で押さえられた。さらに低めた声と鋭く睨まれる。
(逆らわないほうがよさそう)
うんうんと何回も頷くミラに、やっとリオンは口元から手を離した。
「絶対にダンス練習するから、二度と言わないでね!」
念を押すように、リオンは言う。
「了解です! ……ダンス練習がんばりましょう!」
苦く笑いながら、ミラも了承した。
◇◇◇◇
「え? ここにノアくんたちいるの?」
「そのはずですけど……」
リオンが声を潜めて尋ねてきた。ミラも同じように声を潜めてしまう。
二人して特別棟の広い廊下の端により、身をよせあった。
どこを見ても豪華絢爛、煌びやかな内装に、根が庶民な2人は雰囲気に呑まれていた。
「なんか……早くここから帰りたい……茶色の校舎が懐かしい」
リオンが入って来た回廊の扉へ目をやりながら呟いた。
重厚な扉の両端に騎士が立っているのも、大理石の廊下も、場違いな自分たちを意識させてくる。
(ノア様たちと以前通ったときは授業中だったから……)
先程から白亜の壁の前でこそこそ話す2人へ、教室から出てきたばかりの生徒たちの視線を感じる。
特別棟の生徒だけあってあからさまに見てくることはないが。
リオンはミラの腕にぶら下がり、不安げに眉を下げている。
超絶美少年がうるうるした瞳をしていたら、その可愛さについ見てしまうのは人の性なのでは。
ミラの考えを肯定するように、寄せられる視線に侮蔑や悪意はない。
むしろ慈愛めいたものさえ感じる。
「ノア様にお会いできたら即刻退却しましょう。このクラスです」
にこり、と笑いかけると、リオンはパッと顔を輝かせる。
美少年の笑顔を浴びた生徒が頬を染めたのを目端に捉え、ミラはくすっと笑いを漏らす。
ノアにこの話を聞かせたらどんな反応をするだろうかと考えながら、教室の扉から中をのぞき込んだ時。
「ミラさま?! まままさか! 私を訪ねて?!」
ドMの悦びの声が耳を打った。




