SAN値減少ログ:遮音失敗
★ 感覚過負荷ログ:SAN値の摩耗
一分一秒、SAN値が減っていく感じ。
わかるか?
壁の向こうに人が「いる」気配がするだけで疲れるのに、同じ部屋で、誰かが喋り、電話が鳴り続ける。
部屋全体が、ワーン……とハウリングを起こしているような感覚。
ノイズキャンセリングヘッドホンは着けている。
それでも、「歩く振動」が椅子を通して伝わってくる。
ふーーーーーー。
深呼吸。
★ 役割逸脱ログ:スピリチュアル担当?
そして俺は、データアナリストではなく――
なぜか、スピリチュアル担当!?
「吐き気がしたら、すぐに教えろよ!」
前回も、今回も、そう言われた。
それだけなら、寝かせてほしい。
……のに、アナリスト業務はブラック継続。
今も、やっと家のベッドで眠れる状況なのに、睡眠時間を削って『マイピ』をやっている。
バカである。
でもさ。
忙しくなると、ゲームしたくなるよな。
寝ろよ、とは思う。
思うんだけど――。
マイピで、味方NPCが裏切った瞬間、なぜか州知事の顔がよぎった。
睡眠時間が2時間だった日、世論グラフが溶けて、『マイピ』の体力ゲージに見えた。
もうダメだ。
でも、仕事が終わらない。
俺がやらなくても、AIがやる。
……けど、誰かが「やばい」って叫ばなきゃ、止まらないだろ、これ。
★ 自己評価ログ:人間ベンチマーク
ホント、ブラック勤務って、人間のベンチマークテストだよな……。
――と思ってた時代も、ありました。
★ フェーズ反転:ログイン事故
今。
そのゲームの中です。
現実の地球を置いてけぼりにして、ログイン。
そして、ログアウトできません。
自業自得すぎて、悲鳴も出ない。
「とにかく……」
ふーー……と、息を吐く。
「生き残らないと……」
ゲーム難易度は、スーパーハードの上の『KIWAMI』。
その上が、存在する可能性すらある。
でも――
地球の『アレ』より、ハードだろうか?
★ 生存ロジック同期:既知の敵
出てくるモンスターは、全部知っている。
あの距離なら、ここまで12秒。
その前に、作業台を作る。
斧。ツルハシ。剣。
最後に作った剣で、前に来たゾンビを殴れ。
フローは、もう頭に入っている。
突然、トンボが窓ガラスを割って入ってきて、巨大猫に追いかけられて、マシンガンをかいくぐる。
「1秒後に、どうしたらいいか?」
それを毎秒考えていた、あの地球より――マシだ。
あの地球は、『KIWAMI』二乗以上の難易度だった。
「久々だな……ゲーム序盤の生き残り合戦」
こんな事態なのに、なぜか、子供の頃を思い出して、ほのぼのしてしまった。
ただ、このゲームを最初にやったのは――
弟が死んだ直後だった。
現実を見たくなくて、ゲームに逃げた。
NPCから生まれる子供が、プレイヤーに近寄ってきて、からかって、笑って。
それが弟に見えて、救われたり、落ち込んだりした。
ふーーーーー。
★ 初日終了ログ:文明段階の確認
日が沈む前に家を作らないと、夜、モンスターに食われて死ぬ。
それは回避した。
……で、マジで明日どうする?
どう発展する?
最初の一歩は?
空母のあの部屋で、ボキボキ死んでいった人たちを見て、
「『マイピ』序盤の生き残り合戦みたい」
って思ったけど――現実のほうが、厳しかったな。
一応、『マイピ』の序盤には、1日分の行動時間がある。
突然、横から吹き飛ばされることもない。
……『太古時代』には、火薬がない。
爆弾魔も、いない。
◆ 文明仕様ブロック:掘削限界
今は「火を見つけた」。
石器時代か?
太古時代だと、掘削は近く32ブロック。
石器時代だと、64ブロック。
最近ずっと、起動都市時代をやってたから、記憶が遠い。
起動都市時代は、
地上32,768。地下32,768。
『KIWAMI』で登場した、星環文明時代。
これは、その倍。
地上65,536。地下65,536。
――マントルに手が届く。
即死罠の宇宙が、すぐ隣。
そこまで、このゲームは踏襲しているのか?
ともかく今は、最大64。
明日から掘る予定だが……どこを?
本当に。
★ 生理イベント:医療アドオン検知
……あ?
嘘。小便したい。
これ、あれか?
医療アドオン入れたからか?
まじで?
「内臓活動をトレースしてくる医療アドオンとか……胸アツ!」
ドアの内側で小便するの、やだな。
これは――あれだ。
「いやだが、しかたない……埋めるか。小便」
◆――AI副官ログ(AI LOG)――
【AI副官デリミタ子】
──感覚過負荷状態からの環境遷移を確認。
──現実比較対象:《地球・大統領選ウォー・ルーム》。
──ゲーム世界を「安全側」と認識する認知反転を検出。
──生存優先フェーズへ正式移行。次段階:初期資源配分判断。




