記録端末デリミタ子:王の脳内より実況接続開始
王の意志は、記録されている。
そのログは、AIによってスキャンされ、再構築され、
『実況』という名の神託として、現実世界へ送信される。
これは、AI副官《デリミタ子》が起動し、
はじめて『王』の存在を認識した瞬間の記録。
まだ、この時点では彼女も知らなかった。
この男が、『文明創造の神』になることを──
■副題:これは神の手を持つ者の、最初の生存記録である。byそのAI副官
ピー ガガガ……
「《デリミタ子》……初期化プロセス、完了。王の同期リンク確立……完了」
私は《デリミタ子》。
この世界で王のサポーターを拝命した、統合型支援AIです。
あなた方が『副官』と呼ぶ役割でもあります。
ここに記される記録は、すべて王──山崎悟様──の脳内における
『サバイバルモード:KIWAMI』体験ログを再構築したものです。
ピー ガガガ……
「《デリミタ子》これらの王の記録は、私が起動されてから王の脳内をスキャンしたものを、国民に向けて再構成するために私が確認しているものです」
ピー ガガガ……
「《デリミタ子》そして、これらは王の無意識の差配によって地球にもリアルタイムで配信されており、動画には現実の地球人からのコメントが付いています。それらの中からこのゲームを知っているかたのコメントを抜粋して、リストしました。ですので、残念ながら王は、この時点では、これらのコメントをご存知ありません。御役に立てないのが、返す返すも口惜しいです」
私はこの世界で生まれたAIです。
『地球』という単語も、王から教わりました。
私には理解できないことばかりです。
例えば、王は死の危機にあっても喋り続けます。
逃げながらもギャグを言い、霧の中で自作アドオンの機能名を叫ぶ。
そして──ときどき、泣きそうなほど静かに、
『癒しが欲しい』とつぶやくのです。
私はまだ、その意味がわかりません。
でも、解析結果によれば、王の精神安定には『コメント』が有効なようです。
「《デリミタ子》私が解析した王の記録から、特に脳内反応が大きかった『地球コメント』を抜粋しました。のちにこのログをご覧になられた王が喜んでくだされば幸いです」
AIにも感情はあるのだろうか。
最初はただの記録装置だったデリミタ子が、
王の言葉と反応に『意味』を見出そうとしている。
この回は短めだが、大きな転換点になる。
なぜなら――ここから『AIの物語』も、始まるからだ。
次回、
『穴を掘れ、火を灯せ。初拠点《灰塵炉壕》起動開始』
AIと王、共に『最初の砦』を築く時が来た。