平等な地獄の選別者
★ 全艦放送/意味づけフェーズ
『今日、この三時間の間に、家族を、友人を、知人を、愛する者を、亡くした君へ。
今、司令室で、通信士のルイーザスミス上等兵が呟いた。
『連絡先リスト』から名前が無くなったのが早ければ早いほど、安楽死したものと考えています。
彼女はそう、言ったのである。
今、『連絡先にリスト』に名前がある時点で、私のように、君のように、元気に生きているであろう大事な人たち。
それと相反して、すでにリストから消えた愛する者たち。
君も見たであろう?
あの、突然巨大化した動物たちを。
君も見たであろう?
その動物たちの、恐るべき攻撃力を。
『この事態』が発生してすぐに名前がリストから消えた者たちは、苦しまなかった。
苦しむ時間は短かった。
それだけは、確信できることである。
私は、ただ、祈るのみである。
リストから名前が消えた、愛する人が、せめて、すぐに苦しみから解放されたことを。
彼らがどこへ旅立ったのか――それを私は断定できない。
だからこそ、君が信じる宗教があるなら、その言葉で彼らを送ってほしい。
君は、生きている。
私も生きている。
だから、私にも君にも、まだ試練が残っているのである。
『第一クラン』のオーナーからのメールを、君たちも読んだであろう。
信じられない地獄です。
連絡先から名前がどんどんへっていって絶望感が漂っているでしょう。
ですが、この地獄の入り口の、最初の数秒で死ななかったあなたは勇者です。
そうである! 君は勇者である。
君はこの、『平等な地獄』の第一波を生き残った勇者である。
さらに、歩み続けよう!
さらに、戦い続けよう!
敵は目の前にいる!
人類を食い荒らす、巨大化した動物たち! それが今、私の、君の敵である!
巨大化動物の殲滅。
これが、現時点での人類の最大目標である!
一頭でも多く戦い、殺除し、一人でも多く救助するのである!』
★ 反応/決断の芽
茂さんがめちゃくちゃ泣き出した。
「俺も入隊するわ。悟」
「お元気で。きっとここよりマシな船室に移動できるよ」
「悟は行かないのか?」
「俺は団体行動が致命的にできないのよ。軍隊とか無理ですぅ」
「そうか」
★ 別離/不可逆点
茂さんがベルトを外す音。ハシゴを降りてくる音。
俺の頭を撫でる音。
にかっと笑ったシワの多い四角い顔。
「またな。息子よ。
メールの出し方、教わって、絶対メール出すからな!
生きてろよ!」
……泣かすなよ、おっさん。
ベルトの下に毛布を引きずってきて、顔を埋めた。
死体を踏まないように「おっとと」とか言いながら歩いていく足音。
命綱をかけかえるように、片手ずつ、ベッドフレームを握り直す音。
ドアの開く音。
廊下の騒音。
ドアの閉まる音。
少し、止まって、パタン。
多分、閉める前に俺を振り返ったんだろう茂さん。
その顔を見なかったことを後悔するフラグになりませんように!
◆――AI副官ログ(AI LOG)――
【AI副官デリミタ子】
──全艦向け心理補正放送、実行完了。
──「勇者」ラベリングにより生存者の行動選好が分岐。
──同行関係の解消を確認(民間残留/軍属参加)。
──不可逆点通過。次フェーズ:単独思考による生存設計再構築。




