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サバイバルゲームで一括破壊したら惑星がひれ伏しました。  作者: 設楽七央


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甲板で成立する一秒の仮説

★ 行動中断/即席判断フェーズ


 ブリッジへ走ろうと思ったんだけど、ふと思い付いてしまった。

 なのでしゃがみ込む。体力回復でもあった。ゲームじゃないけど、立ってるよりよっぽど楽でフーーー……と、体が軽くなる感覚がある。

 さて、問題です。

 さっき、かもめが二人を連れ去った、あの空に、鷹も舞っていました。

「何をしている! 立ち上がらないと襲われるぞ!」

 桟橋から大佐の声が聞こえた。

 これでいいんです。

 ザシュシュシュシュッ、と風切り音。

 山で何回か見たことのある鷹の羽ばたき。あの数十倍の風の圧力で、吹っ飛びそう!

 俺の心臓を鷲掴むかのように両足を開いて滑空してきている……


 次の瞬間、鷹は空母の甲板に激突してもがいていた。

「ひゅーっ!」

 息を吐いて立ち上がったのは俺だ。

 同時に、大佐が駆けつけてきた。右手にマシンガン。さっき持ってなかったのに?


 フェンスに引っかかったカラビナ。

 甲板で暴れる鷹。

 そして、俺。

 その鷹を大佐がマシンガンで静かにした。

 フェンスにかかったカラビナを見て、鷹を見て、俺を見る。

 カラビナがフェンスにかかってなかったら、鷹を射殺してくれるつもりだったんだ。ホント、いい人。いい軍人。

「しなくてよい無茶をするな!」

「すいません。思い付いたので試してみたくなって」

「成果は素晴らしいが、ここはお前の研究室ではない! 前線真っ只中である! 早くブリッジへ走れ!」

 大佐の後ろから係官が三人、桟橋を渡ってきた。先頭が大佐にビビって入口で詰まり、後ろから小突かれた。桟橋から大佐まで一メートルあるんだから脇を抜ければいいのに。その後ろの奴が、俺から取った手袋を背中に隠して立っていた。この距離で、大佐からその手袋の型番がわかるわけないのに……わかるのか?

「早く行け。甲板はこのように危険である」

 大佐が係官を促し、俺の肩を叩いた。その手がサムズアップにかわり、走っていくきわに、ナニカ投げて来た。大佐の背に背負われていたダーク巻き毛の眼鏡の人も左手のサムズアップを掲げてくれていた。なんで背負っているのに大佐の両手が空いてるのかと思ったら、紐で固定されてる! 俺も一回ばーちゃんにやったことがある背負い結びだ! 「火事とかの時、これで運ぶことがある。ちょっと痛いけど我慢してよ!」ってリハーサルしたんだ。

 とにかく、大佐にもらったものを掴んだまま、俺もその後を追いかけて艦内に走る。

 ドアを潜る前に振り返ったら、他の鳥があの鷹をどこかへ持っていったところだった。

 手に持っていたカラビナをベルトにかける。

 ドアを入って、閉めて、大きく深呼吸。

 また、「最後の一人枠」だ。

 もう大佐はいなかった。

 俺に投げてくれたのは、手袋……まさかの、Mk.Ⅷ!

 慌てて手袋を着替えて鼻歌を歌ってしまった。汗臭い手袋は一応ポケットに収納。予備だ予備。予備大事!

 でも、大佐は、なんであんなにたくさん手袋を持ってたんだ?


◆ 即席迎撃手順/自己解説


 悩みながら廊下を歩いていたが、自分の心に説明しておこう。

 さっき、何をしたのか。

 ベルトからカラビナを外す。

 二本を組み合わせて一本にする。

 端をフェンスに掛ける。

 俺を狙って降りてきた鷹の脚へ、先端を投げつける。

 絡まり、バランスを崩したまま、慣性で甲板に激突。

 負傷して飛び上がれず、他の鳥の餌。


 チャンチャン。


 実は、脚を手で掴む案も考えた。

 でも、俺の体重じゃ無理だと即却下。

 紐の中に鉄線が入ったカラビナなら、軽量級は許容範囲。


 ありがとう、カラビナ。二回も救ってくれた。


 パンッ、と腰に手を合わせる。

「ふーーーーーー……」

 ため息一つ。

「医療室へ行かないとな」


★ 医療フェーズ/生存優先判定


 予想よりは広い空母の廊下を、パンフレットの地図を頼りに歩こうとして「医療室→ 」という艦内の矢印があったのでパンフを閉じた。

 満タンの医療室でも廊下の手前から血の匂いが凄い。

「服を脱いで、そこでシャワーを浴びて、その列に並べ!」

 屠殺待ちの豚の気分。でも、バスタオルはきれいだし、係官はハンドガンすら持ってない。平和だ。怒鳴られているのに平和だ。

 柔らかで清潔なバスタオルの威力よ! そう言えば、バスでも大佐が俺に綺麗なタオルをくれたんだ。なんでこの事態に綺麗なタオルなんてものが存在するんだろう?

「なんてラッキーな君! 抗生物質最後の一本! 味わってね!」

 ヴィジュアル系の男性医師がおちゃらけた声で笑って、俺の腕に注射器ぶっ刺した! イッタイ! 笑ってるのに目がマジだ。

「抗生物質を打つようなのはもう通すなって言ったのに。医療物質は棚に並べる分しかないんだから。……君、誰かの身内?」

 そんな内情吐かれても……まだこの事態になって1時間半なのにメンタル悪すぎ! SAN値削れすぎ! 死んだ魚の目をしてるのに元気! 気持ち悪! 一回回ってハイになってる!

 医者からしたら、あの血まみれ廊下が「あると知ってる」だけでSAN値削れるだろうな。全員救いたいだろうし……

「……大佐に助けられた民間人です」

「シュトラウス大佐?」

「はい」

 シュトラウス大佐のネームバリューすげーな。この基地作ったのあの人だから当然なんだけど。「アノ上司めんどくせぇ」って感じがみんな無いんだ。「尊敬しているあの大佐に助けられた人か」って感じがひしひしと伝わる。でも賄賂盗られたけど。そしてまたもらったけど……俺がMk.Ⅷ

「……ふーん………………本当にラッキーだね。死んでも生き残れよ?」

 そんな難しいことを民間人に言わないで!

 でも、マジ、ラッキーだった! 咄嗟に大佐の名前を出した俺ナイス!

 「艦内で死ぬ可能性があるヤツを排除」してたんだ。もう、重症者優先のためのトリアージじゃなかった。生き残るやつを優先するトリアージだ。


「違う。働けるやつを優先するトリアージだ」


 最初のメールを思い出す。

『虫や動物が巨大化している。この事態は地球規模で起きています。

 世界は変わりました。

 まず、戦う準備をしましょう』

 最初のメールで書いてあった。

 『戦えるもの』と、母と子だけがこの空母に搭乗を許されるんだ。

 おそらく50代以上の男も排除されたんだろうな。俺があと20年早く生まれてたらやばかった。


 助けられて安堵している場合じゃない! まだ、この先死闘が待ってるんだ!

「もう、次は、かすり傷でもみんな破傷風で死ぬんだからな。今ね、明日の大統領に見てもらうための分しか無いの! 基地の医療室から洗いざらい持ってきたけど、それももうカラッポ! シュトラウス大佐の分に残しておこうと思ってたのをお前に使ったんだからな! 死ぬなら大佐の盾になれよ!」

 二センチの距離で睨まれた。

 たしかに、それは、はい……だが約束はできないので頷かないし、イエスとは言わない。そんな重たいことを言われても民間人には無理です。

 日本人ならここでハイと言ってしまうがアメリカでは駄目だ。「空気読んであそこではそう言うしか有りませんでした」は通用しない。

 男性医師が舌打ちした。この短時間で二人に舌打ちされた……

「付和雷同にイエスと言わないのは褒めてやる。最後の抗生物質の分、生き延びろ!」

「サンキューサー! 32階の螺旋階段を飛び降りてきたので、その気概でがんばります!」

 どうせなので印象付けしておこう。

「32階? は? いやいいわ。あとで縁があったら聞く。AI! 彼を俺の特定人物に登録しろ。はい、行った行った!」

 あなたが俺を引き止めたんですよ! でも、確かに後ろに軽症者が列になってる。看護婦が消毒薬で済むレベルしかもう医療室には来ていないのか。


 俺の心臓の鼓笛隊がトコトコトコトコトコ……と、少し嬉しそう。

「あ、そうだ!」

 派手な医者の声がこっち向いたので振り返った。

「大人しそうな顔して派手なチャイニーズ! お前、絶対、船室で絡まれるからな! 過剰防衛、やれよ! こんなところで、馬鹿につけ狙われたら死ぬぞ! 先に相手を潰していいからな! 文句言われたらカイン・ベルモンド軍医中佐の指示だ、って言っていい! 生き残れ!」

「イエッサー! サンキュー ドクター・カイン!」

 ビジュアル系医者はツンデレだった!

 ……だよな……生き残ったら次は その心配か。

「失礼ですが俺は日本人です!」

 向こうで「……ホワイッ?!」って叫んでた。

 ナゼだ? って、ああ、イエスマンじゃないから中国人に見られたのか。よくあるよくある。


 絶対入隊勧められるんだろうけど、俺に軍隊は無理です。

 こんな、大量の団体行動の塊みたいなのは無理です。

 他人と息を合わせて、とか、絶対無理です。


 他に、ナニカ……助けてくれた大佐に恩返しできることは?


 船室の散弾ベッドの真ん中で、うつ伏せになって考える。


 おそらく、もう大佐に会うことはないだろう。

 この空母の最大搭乗数は数万人。そのうちの一人な俺が艦長に会うことはないはず。

 

 ならば、俺が大佐を助けられることってなんだろう?



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