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サバイバルゲームで一括破壊したら惑星がひれ伏しました。  作者: 設楽七央


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《無断出港》アレキサンダー

★ 回想フェーズ/桟橋前夜


 俺が桟橋を渡る前にも騒動があった。

 一つは、大佐。一つは民間。




◆ 大佐の演説/全館放送


 まずは大佐の方。

 俺がゲートを潜る前に大演説が全館放送された。

『アテンション! 海軍工廠の全員に告げる。

 私はアレキサンダーシュトラウス大佐である。

 この事態に、この基地を守るためによく頑張ってくれた! 君たちの底無しの勇気と技術と体力に感謝する! 現時点で生き残っている君たちを、全員もれなく一階級特進とする!

 現時点で死亡を確認している者を殉職、怪我をしたものは傷痍軍人として恩給、年給などを確約する! 国が払わぬというのなら、シュトラウス財団が全額、君たちの家族に一生涯支払うと私が直々に署名しよう!  金の心配はするな。私が死んでも、AIが自動的に送金し続けるよう手配済みだ!

 そのうえで、動ける君たちに頼みたい。これは命令ではなく、私、一個人からの要請である。

 なぜならば、上からの命令が何一つ届かぬからである。私は、この事態において、ただ座して死を待つ気はない!

 私は、この事態においてこの基地で黙って籠城する気はない!

 明日お披露目予定だったイージス艦『アレキサンダー』をすでにドッグから出した。準備ができしだい航行する。

 我々には『USアレキサンダー』という動く領土がある。世界最大の空母である! 子供にも割れるガラス窓の家にいるよりはよほど防御力がある! 安心しろ!

 ただ、この艦は軍艦である! 安寧なアパートにはならぬ! 周囲の巨大動物を駆逐し、沿岸の住民を救助しに外海へでる!

 目的地はロサンジェルス。今日未明に空港に到着される大統領の警護が第一目的である。

 第二目的は、沿岸を『アレキサンダー』の火力で制圧しながら民間人などを救助していく!

 準備の間に、『アレキサンダー』を動かして周辺を爆撃する。『アレキサンダー』の乗組員でなくても、乗艦可能! 今すぐ準備せよ!

 もう一つ。

 『ステイタスボード』を確認して、私の『第五クラン』と『部隊』の『入隊要請』『招待』を受諾してくれ。

 私の『部隊』に入隊せずに乗艦するのは可能だが、あらゆる特典がなくなるし、部隊外の者は把握できぬので、安全の確保が難しくなることを考慮しろ。

 これから沿岸を航行して要救助者を救助していく。彼らは二等兵として君たちの部下に組み込む。

 突然の部隊編成のため混乱しているであろうが、命令系統を再確認せよ。二等兵だった者も、全員に部下がつく準備をせよ。助けた者たちを全部君たちの部下にするのである。

 この事態において、要救助者をお客さんとして長い間扱うのは不可能だからである。要救助者には私から話をするので、それまではお客さんとして一つの部屋に集めて置いてくれ。

 『ステイタスボード』のスキルや職業について、このたびのあらゆる困難の、小さな手助けでも良いから、なにか思いついたものは、私にメール送信しろ。

 もう一度、重大な事実を君たちに告げる。注意して聞いてくれ。

 重大な事実である。

 『アレキサンダー』の出港に関して、上層部からの命令は降りておらぬ。拙者の命令違反である。その上で、この港に帰って来られるかどうかもわからぬ!

 全責任は拙者が取るし、全力で君たちを守るが、そなたらもどういう処罰が発生するかはわからぬ。

 『アレキサンダー』は、この艦のために新設された『ビッグサイト級』という、世界最大のイージス艦の一隻目である。これを無断出港させたとあれば、国家転覆罪を疑われても仕方のない命令違反である!

 それでも、拙者は行く!

 この艦は量子コンピューターを搭載しているので、一人でも運行できる。だから、君たち全員が乗らなくても、私一人で出港させる。

 理由は二つ。

 沿岸の住人を助けたい! そして、ロスで立ち往生するであろう幼なじみの大統領、スライを助けたい!

 現時点で、この『アレキサンダー』は世界最大の戦闘能力を持っている! この事態に、これだけの火力があるのに、ただ、倉庫に寝かせて、機関銃だけで戦うことが正義とは思わぬ!

 私憤である! 感情だけで動いておる!

 私の作ったイージス艦で沿岸の人々を救いたいのである!

 この基地に残るのであれば、この基地の確保と、近隣住民の救助を頼みたい。どの船を、どの機材を、どの武器を使ってもかまわぬ! 一人でも多くの民間人を助け、君たちも生き抜くのである!

 再度宣言する。『アレキサンダー』を動かす目的は、大統領を迎えに行き、その警護に入る。あとは、私の視界に入るすべての命を救い上げる!  国籍も人種も関係ない。この『アレキサンダー』の甲板を踏んだ者は、等しく私の保護下にあると心得よ!

 もう一度言う、上層部からの命令は出ておらぬ。それでもかまわぬ者だけ、『アレキサンダー』に搭乗してくれ!』

 相変わらず熱いよな、大佐。基地のあちこちで「フー・アー!(合衆国陸海軍の咆哮)」が響き渡ってる。

 建物全体での騒音が一気に上がった。

「聞いたな!  30分で出港準備だ!  遅れた奴は置いていくぞ!」という怒鳴り超えがあちこちで聞こえる。

 つまりは、大佐が車で、空母を動かすという判断を誰もしてなかったってことか。そりゃそうだけど、そんなもんか……

 基地の空気が変わった。

 パニックから、ミッション遂行へ。

「……言語レベルでの世界の書き換えか。さすが、ノーベル賞候補にもなるシュトラウス大佐だ」

 事態は何も変わっていないのに、全員の心が変わった。セマンティック再定義やリフレーミングの極めて強力なパターンだ。まぁ、アメリカ人は昔から演説が上手い、というか演説が上手くないと上に行けない。完了の作った演説を読み上げるだけの日本とは大違い。

 大佐が行ったのは、言葉によって「絶望的な状況パニック」を「解決すべき課題ミッション」へ置換する高度なハッキングだ。基地にいる全軍人の精神的OSオペレーティング・システムを強制アップデートするパッチ。

 思わず俺も腕を振り上げて叫びそうになった。叫んでも良かったけど、うっかり「分析」のほうに気が取られて機を逸した。こういう雰囲気にすさっと乗れてモチベ上がるやつが羨ましい。



◆ 民間の騒動/桟橋直前


 2つ目は、普通に民間の話。大佐のあとではしょぼいけど事実。

「お前は合格だが、乗らないのは自由だ。その分一人多く乗れる。3、2、……」

 肝炎の旦那のワイフに兵士の声には、怒りも哀れみもない。 「三秒待つ」とかもなく突然カウントダウン。

 女は、泣きながら、それでも子供の手を引いて桟橋へ駆け出した。

「走るな! 桟橋が落ちたらどうする!」

「ソーリーサー!」

 本人が危険とかじゃなく桟橋の心配かよ! ……と思ったら、急停止して振り返った女の人が落ちた! めまいでもおこしたのだろう。だから走っちゃ行けなかったんだけど、……一人の軍人がため息をついただけだ。手前の軍人は相変わらず、ゲートの人間を確認している。

 少年一人が桟橋に残されて泣いていた。

 どんどん人が桟橋を歩いていく。

 少年、動かないと! かもめに食われるぞ! もう父親も母親も戻らない! 生き残れ少年! 桟橋をあっちへ歩け! 君には、この船に乗る資格があるんだ!


 俺の指が、震えた。

 もし俺が、スキャンに引っかかるような持病を持っていたら。もし、動物アレルギーが『重篤な疾患』とみなされていたら。今ごろ、あの男と一緒に冷たい潮風の中で震えて、巨大猫との死闘再び! だ。今度は、絶対に勝てない。だって「大佐のバスに乗る」という救いが無いんだから。

 漫画の主人公って凄いよな。救いがなくてもただ一人で立ちあがって生き残って戦って、戦い抜いて……マジ漫画だよ。あんなの、リアルでは無理。

 トンボが突っ込んできたあの時、大佐からメールが来なければ俺は一体どっちに進んだだろう?


「ボーイ。ゴーオアバック?(少年よ、行くか戻るか決めなさい)」

 俺の前を歩いていた紳士が少年に声をかけた。

 少年は老人を見上げたけど、また海面に向いて泣くだけ。

 

 このコは、生き残らないな。

 

 今まで恵まれた人生だったな。泣いていれば周りがナニカしてくれたんだろう。俺は違う。泣いてたら母親に殴り倒されたよ。六歳で理解した。泣くなんて無駄だ。

 泣く前に動け、立ち上がれ。立ち向かえないなら逃げろ!


 案の定、その少年が、紳士の前で、横ざまに飛んできたかもめに連れ去られた!


 小さいのが動かないとそうなるよな。この空じゃ。

 誰も下を見ず、上も見ず、ただ前だけを見て揺れる桟橋を歩いていく。まるで亡者の群れのよう。

 俺も亡者の一人か。

 でも俺は空を振り仰いだ。敵は定めておかないと死ぬ。

 あ、鷹もいるな。でかい!

 鳶がくるりと輪を書いた、とか歌であるけど、鳶がくるりと輪を書いているのは、上昇気流に乗って索敵する効率運転で、狩りや周囲確認という実務そのものだから、殺伐寄りの行動だ。全然のんびりはしてない。「今、狙撃兵に狙われていますけどお茶にしましょう」ってならないだろ?

 今、かもめがこの桟橋のうえでくると輪を描いて飛んでいる。

 獲物を狙っている。

 人間を、狙っている。

 俺達、餌を、狙っている。


 この空母は、弱者を救う船じゃない。「純粋な生命力」という名のチケットを手に入れた奴らのための特等席なんだ。

 桟橋の下や脇には、空母に乗り込むことを許されなかった「黒」認定重傷者たちが、魚河岸の魚のように密着して並んでいた。呻き声、血の匂い、そして絶望。彼らは海風にさらされながら、ただ「廃棄」されるのを待っている。 その間を、俺たち「動ける者」が黙々と通り抜けた。目を合わせないように。自分たちが選ばれた理由を考えないように。

 立っている誰も、血まみれの足元を見ない。

 

 先程、重症の友人を抱えて廊下にそれたあの健常者は、どうしただろう?


★ フェーズ遷移/行動開始

 

 そこをくぐり抜け、大佐が桟橋を渡ってくるのを見て、俺もブリッジ(艦橋)へ走った。広大な甲板を吹き抜ける潮風を切り裂き、そびえ立つアイランド(艦橋構造物)を目指して、俺は全速力で駆けた。

 空母の甲板は広い……パルクールしてバスの曲乗りのあとの脚力に……きつい……300メートルは無いと思うんだけど……


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