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サバイバルゲームで一括破壊したら惑星がひれ伏しました。  作者: 設楽七央


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ノアの箱舟に乗る資格

 暇なので、バスが止まったあたりのことをちょっと振り返ってみよう。


 海軍工廠に到着。先に大佐が降りて…… 入り口近くの 俺が降りないと みんな降りれないから俺も続いて降りて大佐と一緒にうろうろした。だって、大佐のそばが1番安全! 大佐のじゃまにならないように後ろをついてまわる日々 行政 見つからないように 同僚の影に隠れながら 廊下を渡りすぎる瞑想 保護法 歩行法

「ジークフリート達! ポチ! 辺りの警戒である! 母上がた、あなた方もバスを降りてくだされ。一目散であの玄関へ走りますぞ!」 

 大佐、長文喋るとオールドイングリッシュなんだな。この事態に優雅な……ハハッ……ちょっと気が抜けた。この人のいる戦場って気が抜けないかな。日本語でいうと「おじゃります」とか「ありんす」とか「~でそうろう」とか「左様ですな」とかって言われてる感じ? 英語だからアイマイミーで「私」と日本人は翻訳するけど……そういえば、大佐の日本語の一人称って「拙者」だったな! たしか、剣術の先生がそういう一人称だったらしいってどこかで読んだ。英語の方は、王家つながりのお母さんだろうな。

 責任者の後ろをついて歩いて、うざい同僚から隠れるステップを無意識にこなしてしまっていた俺。

「足元が泥水です! 気をつけてくだされ!」

 ホント大佐って紳士。でも、服が濡れて風邪を引いて熱を出して医療室圧迫されることを考えたら、妥当なんだろうな……と思うのは、俺の優しさ指数が低いからか。

 確かに、雨は降ってないのにアスファルトがびしょびしょだ。ここも、二メートルサバが跳んできたのかな? あのサバ、大量の海水とともに宙を跳んでたもんな。海抜ゼロメートルのシスコ中心街は高波レベの浸水になっただろう。

 うぉ、あの女性、踝丈のロングドレスなのにスカートめくって水たまりポンと跳ねた。いい跳躍! というか、反動つけずにあのジャンプってどんな体幹?! ……あ、大佐のお母さんだ! 往年の鉄人レースの覇者! 俺が一度だけ参加してみたレースで神扱いされてた女性! 将軍の旦那とレースで知り合ったって言ってたな。まだまだ現役だろ、あの走りは。美人で細いのにフットワーク軽いなぁ!

「母上?」

 大佐が、バスを見て固まってる。建物を見て、彼女がすでに玄関にいた事に驚いたみたい。巨人がキョドってるのって面白いな。大佐が五秒、路上で静止って、放送事故レベルのエラーだろ。だいじょうぶかな? あんな身軽なお母様に介助は不要なのでは?

 バスが空っぽになってやっと大佐がエントランスに入った。

 うぉっ! バスの後ろにトレーラー引いてたんだ? ……うわっ! でっかいドーベルマンがいっぱい降りてきた! 五メートル級の猛犬!  まさしく夜中にお金持ちの庭に放たれてる犬だ!

「ジークフリート、お前は、小さくなれないのであるか?」

「バウッ!」

 普通サイズになった! えっ? 何? 巨大動物ってもとのサイズに戻れるの??

「なんであるか! 元のサイズにもなれるのであるか! 他のも、元のサイズになれ! ナニカあったときは大きくなって母上を守ってくれ!」

「バウッ!」

 全員が小さくなった! スキルってすげー!


★ 大佐の医療判断

「サトル! 君は医療室だ!」

 大佐の後ろにいたら、受付を漁っていた大佐にパンフレットを渡された。明日配る予定の『USアレキサンダー』のだ。

「空母に乗ってから医療室に走れ。背中を怪我している」

 えっ!

 全然気づかなかった!

 背中を触ったら、コートがビリビリになってる! 猫にざりっとやられてたな……バスに乗る時に……

「……っ、あ。……いや、コートは貫通してないはずです」

 指が背中まで到達しない。けど、……背中がチクチクはしてるな。

 これも手袋と同じシリーズだ。「Aegis-W "Wraith-Skin" Mk.V(イージス-W "レイス・スキン" マーク5)」軽くて薄くて暖かくてお気に入り! 日本からするとカリフォルニアって暑いのでは? と思うだけろうけど、シスコは普通に冬、マイナスになるからね。

「ああ、Wraith-Skinは見事に仕事を全うした。だが、布より皮膚は弱い。女性のパンストが無事でも中の皮膚が怪我をしていることはよくある。それと同じだ。ヘルメットが無事でも脳挫傷は発生する。

 軍用のバイオパッチ(止血テープ)が必要だ。普通の絆創膏を貼って済むような可愛らしいものではなかろう。それに、あのバケモノがどんな毒性を持っているか分からん。軍用とは言え『今日この事態』に対応した素材ではない。医療室で洗浄して、抗生剤をぶち込まれて、ベッドでうつ伏せに寝て熟睡するまでが『生存』のパッケージだ。行け」

 睡眠までがパッケージですか!

 大佐は、ずっとそこで待ってた士官の人と建物の奥へ走って行った。さすがにそれを追いかけることはできないので、館内地図で桟橋に走る。

 大佐が来ないと出港しないから、俺が焦る必要は無いだろう。


◆ 選別システム/軍用ゲート


 桟橋までの廊下に進むに連れ、血なまぐさいニオイが……角を曲がったら重症者が老化の脇に寝ていた。ベッドも毛布もなく。

 怒鳴り声が響いている。

 列の先頭の上に『ゲート』があった。ベルストの玄関にも似たようなのがある。笑顔で無いと通れない、発熱や移る病気があれば排除されるアレだ。今は駅でも公共機関でもどこでもある。移る病気を持ってるなら街を歩くな、ということだ。

 俺の数人前で、一人の男がゲートに引っかかったらしい。耳に黒いタグが張ってある。トリアージテープだ。昔はリストバンドだったらしいが、今は一定時間剥がれないノリで耳たぶに貼られる。そのテープごと顔を撮影されてAIに管理されるのだ。

 空母に乗る前にトリアージ? 重症者がここに寝てるのに?

 つまりは、重症者優先のトリアージではない、ってことか?

 その喚いている男も、見た目は健康そのもの、どこにも怪我はない。だが、ゲートが冷酷に赤く明滅したのをここにいる全員が見ていた。

 軍人が男の症状が表示されたパネルを読み上げる。

「C型肝炎のキャリア、および慢性腎不全の兆候あり。バイオハザード発生源の乗船は許可できない。次!」

「ふざけるな!  俺は動ける!  どこも痛くない!」

「お前一人を乗せて、艦内の二万人がバイオハザードで死ぬリスクは取れない。後ろに並んでいる『健康な家族』を道連れにする気か?」

 男が桟橋のゲートを乗り越えようとした瞬間、空気が震えた。

 兵士が引き金を引いたわけじゃない。ゲートに設置された指向性スピーカーから、脳を直接かき混ぜるような低周波が放たれたんだ。アレは痛い。俺も会社のゲートのテストで食らったことがある。嘔吐しそうになって立てない。

「あ、がっ…………!」

 男は糸が切れた人形のように崩れ落ち、そのまま床のスリットから飛び出したアームによって、桟橋の「外」へと掃き出された。うっお。ベルストは警備員が走ってくるが、ここは機械で排除か。さすが軍用ゲート。容赦ない。

「出血が酷いものはその廊下の向こうへ。……次!」

 ゲートの手前でも選抜されてる。俺の前に居た、足を怪我して友人らしい人の肩を借りてる男が廊下においやられる。友人も一緒に廊下へ。

 廊下の向こう? ただ、廊下に寝てるだけで、あれ、処置されるのか? おい、友人。そこにいたら絶対空母に乗れないぞ!

 ……はっ! 軍用ゲートがベルストみたいに判断が緩いわけがない。俺のアレルギーとか、バイオハザードになるものではないけど「ノアの箱舟に乗せるか?」と言われたらノーではないか?

 さっきから、ゲートがよく点滅してる。

「俺は肝炎とか、ない! 風邪も引いてない!」

「だがゲートがノーと言ってる。どけ」

 さっきから、眼鏡のやつも弾かれているのでは?

『おそらく今日、人類の大半が死滅する』

 大佐が、言ってた。あれが事実なら? これがノアの方舟なら?

 近眼なんていう「メガネがなくなれば役立たず」が乗船を許可されるわけがない。老人も弾かれてる!

 俺のアレルギーにゲートが反応したら?

 俺も、排除される側になる!

 心臓が鼓笛隊みたいに連打し始めた。痛い痛い痛い、胸が痛い。ゴークルをあげ、スカーフを下げて笑顔を作る頬を、汗がだらだら流れていく。体温は高いぞ。さっき死闘したんだから。これで風邪とか判断されたら冗談じゃないが……

 ゲートをくぐるのを一瞬躊躇したら、前の軍人の銃がこっち向いたので慌ててくぐった。


 ゲートは、鳴らなかった!

 

 俺は無事ゲートをくぐれた! 良かった! アレルギーとか、運動後の発熱ぐらいじゃ反応しないんだ。マジ、心臓止まるかと思った!


★ 桟橋/不可逆段階


 桟橋の根本で、軍人が二人、上空にマシンガンを撃ってる。ベルストにも鳥が居たもんな。

 うっわ! 小柄の女性が横ざまに飛んできたかもめに連れ去られた!

「喚くな! 止まるな! 生き延びたければ早く進め! だが走るな! 急げ!」

 難しいことを言う。

「日露戦争の二〇三高地かよ……」

 一人目で気づかれ、二人目で敵が照準を合わせ、三人目が狙撃される。 この桟橋では、かもめがその「狙撃兵」の役だ。『死の三人目の法則デス・サード・マン・ルール』だな。三人と言わず、10人ほど桟橋の上にはいるけど……1番小さいのを狙うよな。それで言うと、この列では背が高い俺は狙われにくいか。

 姑息なことで安堵を積み上げて鼓笛隊を黙らせる。

 怖い、怖いよ、怖いさ!

 ここで排除されるなんて、怖いに決まってる! なんのために32階から飛び降りた!

「待って!  主人を助けて!」

 さっきの肝炎の男性のワイフらしい。そういえばまだいたんだ? 彼女にゲートのこっち側。早く進まないと、おいていかれるぞ?


「おいお前! ロングコートの背の高いアジアン!」

 俺?

 心臓がはね上がる。

 銃口で列から出ろとサインされて壁際に出た。

 脳みそのてっぺんからつまさきまで、一秒で汗が滑り落ちていく。

「お前、重症だろ! なんだそのコート!」

「血は出てませんよ! このコート、Aegis-W "Wraith-Skin" Mk.Vです! 俺に爪は届いてません!」

「嘘をつくな! コートがそれで中身が無事なわけがないだろ!」

 バレてる。

 係官の唇が「ブラック」のカタチに動きかけた! ブラックって救命不可能カテゴリだぞ? 俺で? コートは引き裂かれてるけど裂けてはいないから、血は見えていないのに? でも、大佐でもこの服の損傷から背中の傷を推定していた。軍人ってそういうのが得意なのだろう。俺もあの廊下に並ばされるのか? 冗談じゃない!

「シュトラウス大佐に、軍用のバイオパッチ(止血テープ)と抗生物質を食らって寝てろと言われました! この手袋も大佐からもらったものです!」

 最大のコネを使う! 使い倒す!

 だって本当だし!

 初めて係官が、俺の背中から手を突っ込んだ。こいつ、傷を確認もせず、服の様子で重症と判断しようとしたんだ。後ろが列になってるから当然と言えば当然だけど。

 イッテェ! 傷口えぐるなよ! つか、まじで傷口あるのか! うわっ、なんかざりっざりっってなってるな! 一箇所の擦り傷とかじゃないっぽい。

 俺の耳たぶに黄色のテープが巻かれた。

「お前、シュトラウス大佐に感謝しろよ。今は黄色だと乗船できないからな。ついでにMk.Ⅷ脱げ」

 係官に耳打ちと舌打ちされた。

 手袋を脱いで渡したら、係官がいそいそと自分の手にはめて彼の手袋を俺にくれる。賄賂だ賄賂。でも、行け、ってマシンガンの銃口でサインされた。

「……はぁ…………」

 助かった!

 もらった手袋を装着しながら桟橋へ歩く。カタイ、くさい。硝煙の匂いがする。というよりあいつの手汗でベトベトしてる気持ち悪い。脱ぎ捨てたいけど 素手の方がどれだけ危険か考えると とりあえず 装着はしておこう。……あいつも、緊張してるんだな。空母の最終登場人数前に飛び乗らないと行けないもんな。裁かれる俺達は不条理だと思ってるけど、あいつだってそうだ。東西ドイツに別れていた時に、逃亡者を射殺した罪で、統合後に裁かれた理不尽。あの係官も、今は機械的に俺たちを「黒」や「黄」に振り分けているが、いつか世界が戻った時に「見殺しにした罪」を問われる恐怖と戦っているのかもしれない。


 この世界が、元に戻った時?


 ため息が何度も出る。何度も出る。鼻から汗が滴って、俺のブーツのつま先に落ちた。

 もう一度ため息をついて天井を見上げる。また誰かがストップされたのだろう、グレーの天井に赤いライトが反射していた。


 もう、何も、聞こえない。


 揺れる桟橋を慎重に歩く。後ろのやつが転倒しただけでもひっくり返りそうな布の桟橋。まさか大統領がこれ歩かないよな? 飛行機のゲートみたいな頑丈な桟橋があるはずだろ?


 でも、今はこれを進むしか無い。


 大佐ありがとうございます! 大佐ありがとうございます! 大佐ありがとうございます! 大佐ありがとうございます! 大佐ありがとうございます! 

 ただ、それだけを繰り返した。

 

 この建物の中は、食い殺されることは避けられても、出血多量で死ぬための棺桶。搭乗人数には規定がある。それが終了する前に彼らも桟橋を駆け抜けるだろう。そのあとの列は、ゲートが止めてもそのまま突進してくる。

 検査のないまま。

 血まみれの基地を残して。


 ああそうか、だから「布の桟橋」なんだ。

 最後の軍人が渡ったら、切り落とすために。

 『カルネアデスの板』だ。それ以上乗ったら空母が沈むなら、乗ってこようとする人を落としても犯罪にはならない。


 布の桟橋を渡りきった。

 少し列から避けて基地を振り返る。


 何の偶然なのだろう向こうの建物の三階に大佐が走っているのが見えた。後ろにさっきの士官もついている。大佐は誰かを背負っていたようだった。


 歩けない人でも、大佐の知り合いだから乗れるんだ? メガネや老人は乗れないのに。


「大佐のコネで乗った俺が何言ってる」

 世界はそんなもんだ。

 コネが最強に強い。


 廊下に横たわっていた血まみれの人たち。痛み止めももちろん処方されていない。

 おそらく軍人全員が空母に乗るだろう。看取る人はお互いだけ。

 このあと押し寄せる避難民が死体を片付け、窓のない部屋に閉じこもる。この周りで死体を埋められるような場所は無い。建物の外に投げ出すだけだろう。餌があるから巨大動物が集まってきて、中の餌を手ぐすね引いて待つ動物の巣になる。窓を割って入らなくても、食べ物を求めて健常者が出てくるのを待てばいい。この基地は自動給餌機だ。

 その餌の一つに、ならずに済んだ。ラッキー!


 ラッキーを、一つずつ掬って生きていく。


 それしかできない。

 それだけはできる。


 やるしか、ないんだ。


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