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サバイバルゲームで一括破壊したら惑星がひれ伏しました。  作者: 設楽七央


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ログイン王、螺旋を駆ける



★ゼリーの眼球

「安全第一は、たいてい派手だ。」


 エル・クラウディアが、本当にトンボの複眼へめり込んでいく。

 手応えが、やわらかすぎた。表面は思ったより硬いのに、中がぐちゃりと崩れる。砂糖で薄く固めたゼリーに、槍を突っ込んだみたいな感触。

 しかも生ぬるい。部屋は冷房、相手は外気温。温度差が『現実』を押しつけてくる。

 次の瞬間、粘る液体が溢れて、ニオイが鼻を殴った。甘ったるい刺激臭。玉ねぎを腐らせて、スライムで伸ばした地獄のにおい。

 『マイピ』には無い。匂いも味も無い。なのに、ここにはある。

 これ、ゲームじゃ、ない。


 「ぶちゅっ」

 音まで生々しい。誰かが再生した効果音じゃないぞ! 俺の手が、俺の槍が、出してる音だ!


 ゴリ、と槍が進んで、ゴツッと止まった。

 床だ。大理石の硬さ。聖騎士搬入のとき、先端でつついて確かめて少し床に傷をつけた感触が戻ってくる。

 つまり、貫いた。


「そっか……目ん玉、ゼリーだったのか!」


 抜く。振り上げる。今度は『止める』ために、突き下ろす。

 ドロッ、ブシュッ。液体が跳ねる。引かない。押す。

 ぷよぷよの眼球の奥、急に硬い層がある。頭部の装甲だ。昆虫は固い。固いから、止まる。


 ガツッ。

 ゴゴッ。

 グキュッ。

 ゴリッ。


 手が滑りそうになる。全身が体液でぬるぬるだ。臭いが思考を削る。吐き気の手前で踏みとどまって、槍を強く握り直す!

 羽ばたくたび、俺の足が床から浮く。槍を離した瞬間に吹っ飛ばされる! 抜くタイミングも重要だ! 羽ばたきの風が過ぎた瞬間だけ、抜いて、刺す。


 ……やがて、ばたばたが弱くなり、動きが止まった。

 トンボの頭をえぐりきったらしい。

「ふぅうううううう………………ううう…………」

 手袋で額を拭った。インナーがびっしょりだが、シリーズで揃えた高機能シャツと靴下なので、さぁっと汗の不快感が散っていく。よし!


★討伐ログ:スカウト通知

「『規約』は命を守らないが、死に方は選ばせる。」


 目の端がチカチカした。疲労で視界が点滅する。

 そのチカチカに重なるように、さっき見たステイタスボードのホログラムが起動した。メール画面が勝手に立ち上がる。

 倒した瞬間に、通知。

 討伐ログがトリガ、ってことか。趣味の悪い仕様だな。


『この状況でモンスターを倒した勇者よ! 米国海軍に来たれ! サンフランシスコ南の海軍工廠から、明日お披露目の『USアレキサンダー』を、私が到着したら出港させる。間に合えば乗船を許可する。世界を救う旅に出よう! 今すぐ来い! 発信、アレキサンダー・シュトラウス海軍大佐』

 アレ? システム側の通知じゃないの? 手動メール?

「シュトラウス大佐……!」

 どこで見てた?! 周りに人間居ないぞ!

 大佐は文武両道の偉人。名前を見ただけで背筋が伸びる。

 でも、浮かれるな。これは『救助』じゃない。『合流命令』だ。

 場所は海軍工廠。普段なら散歩でルンルンできるが、距離がある。

 闇夜。

 巨大動物が部屋の中より多い。

 火事がそこかしこで発生。

 ビルのガラスが降ってくる。

 今は茨の道だ。

 しかも、締切がいつかもわからないのが1番の難点だ。到着したけど、軍人が全部出港したあとだと悲劇臭が強い。


 ホログラムがもう一通を重ねる。


『私は現在ザ・ブリッジを通過、海軍工廠へ向かう。赤い大型バスだ。間に合えば乗せていく。どの道で行くかはわからん。発信:アレキサンダー・シュトラウス海軍大佐』

 シスコ住人が『ザ・ブリッジ』と呼ぶのはゴールデンゲートブリッジ! あそこから海軍工廠なら、ここの前の道路を通る!

「行く! いきます!」

 バスに乗れば、走る距離が最短になる! ホテル玄関から道まで!

 それはひとえに、命の危険タイムが縮むということだ!

 空母の中まで巨大動物はいないだろ!

「空母ってホテルよりは汚いよな?」

 蚤虱鼠のシャットダウンは無理だろ。けど狭い廊下でPVPなら、野外よりマシか。


 目的ができたのはまだ良かった。

 赤いバス。海軍工廠。合流。

 橋からここまで道路がすいていれば30分、昼間の通常運転なら40分、渋滞中なら一時間から一時間半! さぁどれだ!

 無駄に路上にいたら周り中から狙われる。でも、路上で待ってないとバスを見過ごす。そもそも遅れたら乗れない!

「何があるかわからないから今すぐおりる! 下では、道路が見える位置で、動物から隠れて待機出来る場所を探す」

 登山用に玄関においていた、カラビナを二本、俺のベルトに装着。コートの腹から出して、ウエストを回して、ベルトのように止めておく。


 家はもう壊滅してる。レモンも潰れきった。


 上は危険が見えてる。落下物と火。ヘリだって落ちた。

 下は危険が見えない。群衆、圧死、未知生物。

 それでも、バスに乗るなら『地面』へ降りないと始まらない。


「つまり俺は、上じゃなく下だ」


 下なら簡単。ここの非常階段は螺旋階段だ。

 だが、「降りる」のは「登る」より簡単なだけであって32階から階段を降りるのも、玄関周りの圧殺案件もクリアされたわけではない。そもそも、その非常階段にまだ到達していない。

 そっとドアを出て、廊下を走る。後ろを何度も振り返る。車の運転をしていると、高校生の自転車が一秒前に確認した視界外から突然眼の前に出てくる。あの恐怖! トンボが一メートルサイズなら、10メートルの廊下を一秒未満で来るだろう。蜘蛛も案外足が早い。天井から落ちてこられたら逃げ場がない。

 青信号の横断歩道を渡っても弟は死んだ。

 安全圏なんてどこにもない!

  

 途中でカニを倒した。後ろから刺しただけなので英雄譚にならんけど、ジョニーの仇になったかな! いや、勝手に殺すな! ……と、思ったけど、半分になったクビを見つけたので手を合わせて走り抜けた。

 弟のマサルに笑い方が似てたんだよな……


★螺旋階段は戦場

「人間は、災害時にいちばん重い障害物になる。」


 やっと到達した非常階段。芋洗いどころか、すし詰めだ。

「おお……やっぱり、階段は朝ラッシュ並に混んでるな……」

 そもそもが、動いてない。やっぱり玄関が詰まってるんだろうな。

 残念だが、クラウディアを床に置いて合掌。

「ここまでありがとうな! クラウディア!」


 そして、非常階段の鴨居にジャンプしてぶら下がり、振り子の要領でジャンプ!


「失礼しますよ!」


 俺は螺旋階段の内側の手すりに飛び乗った。

 一メートル下の手すりへ、トン、と移る。さらにもう一段。

 重力に従うだけ。速い。だが、雑にやれば人を巻き込む。だから手すりの内側に足を掛け、体を外へ出さない。ぶつからない角度を守る。


 上から悲鳴が聞こえた。


「うぉっ!」


 反射で手すりのフェンスにしがみつく。

 視界に、落ちてくる人影。


 1名様ご落下。


 金髪白人の青い目がずっと俺を見てた。

 ……無理だ。速度と距離が違う。掴めない。掴んだ瞬間に、二人とも落ちる。


 潰れる前に、俺は階上を見た。

 手すりに足を乗せようとしてたやつが、引っ込む。

 よし。それでいい。真似するな。俺はマイピの他には、山歩きが趣味でパルクールの上級者だからな。


 しかも今の俺の真似は、技術じゃない。条件が揃った時だけ成立する『事故』だ。

 命がかかってるからこそできる曲芸だ。昨日の平和なここで出来るとは思えん綱渡り。

 俺の着地地点に誰かが手を出しただけでお陀仏。俺がいきてるのはラッキーではない。悪運のたぐいだ。


 3階到達。

「一番下は混んでるだろうから行きたくないんだけど……」

 しかもやはり全然動いてなくて螺旋全部が非難轟々。無意味に喧嘩してるし、みんな手すりにすがりついてるので飛べないし、どうしようもない。


 三階の入口。

 もう全員階段に入ったのか、無人だ。向こうからだと鴨居にぶら下がらなきゃ行けなかったけど、こっちにはシャッターの出っ張りがあった。そこに手すりから飛び移って廊下に降りる。吹き抜けだから助かった。天井があったら、とてもじゃないけど飛び移れない。


 まだ警報はピーピーなってるし、怒鳴り声はあるしうるさいんだが、……誰も居ない廊下は静寂だった。

 

 ため息1つ。


「ふー………………」


★装備点検:軍需フェチは生き残る

「好きは、平時の趣味で終わらせない。」


 トンボの体液でドロドロだった手袋が、手すりとの超高速摩擦で外装を焼き切られていた。

 Aegis-X "Ghost-Touch" Mk.VII。米軍の軌道降下兵向けに開発された、25万円の「魔法の皮膚」だ。摩擦熱で溶けた手すりの塗料がナノ繊維にこびりついているが、中の指先には熱ひとつ伝わっていない。


 損壊は外皮だけだ。軍用規格ミルスペックの頂点は伊達じゃない。

 傷ついたのは俺の身体ではない。

 痛みがない。

 それだけで判断が遅れずに済む。


 いい手袋はいいな、ホント。

 ……うっとりしてる場合じゃない。非常ベルは鳴り続けている。


縦穴エレベーター降下

「止まっている箱は、安全とは限らない。」


 エレベーターの前で、深呼吸を一つ。

 動くな。降ってくるな。

 耳を澄ます。チェーンは回っていない。箱の気配も無い。


 俺はエレベーターのドアを力技でこじ開けた。

 悲鳴が反響しているが、機械は動いていない。非常時は停止。規約どおり。

 なら、縦穴は通路になる。


 内側の鉄骨を伝って降りる。

 一階。ドアをまたゴリ押しで開く。


 エレベーターフロアは玄関の真正面の奥。非常階段とは位置が違う。だからここだけ、妙に閑散としていた。

 窓なしの玄関はこっちじゃない。富裕層と普通層は出入り口が違う。

 完全ガード。カプセルホテルの客が富裕層側に紛れ込めないように。


 ……だったはずだ。


 富裕層は人数が少ないから降りてもでられただろうし、30階以上なら上に行っただろうから、閑散。


★白が赤い

「豪華な床は、血を吸わない。」


 でも、血しぶきが凄い。

 真っ白な大理石の廊下が──半分、赤い。

 人間の部品も転がってる。


 通行は可能だが、足を滑らせそうだ。

 そして富裕層向け玄関はホテルのうちがわにあるので、道路まで遠い。


 そして……


「鎌?」

すいません、一話、抜けたので、割り込みしました。

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