王になる前の、シスコ生活実験録
今回はちょっと毛色が変わるぞ。地球での話だ。
たかが数時間前のことなのに、もう一年以上前な気分がしている。
★プロローグ:地球の断片
地球時代の説明回。飛ばしてもOK。でも読むと「俺」という人間がわかる。
前フリとして自分語りをする。長いぞ。今回の一話、一万文字。まるごと地球編だ。スクロール、よーいドン。
俺の自慢も入ってるから、全部飛ばしてもいい。
「シスコでいいホテルに住んでたのねー」で次の連載へ行ってくれて構わない。
さあ、始めよう。自分語り。
地球での俺は、シスコに栄転したあと、レジデンス(長期滞在用)ホテルに住んでいた。
憧れのホテル住まい、と思うだろ? 違うんだよ。
◆ベルスト・セブン・レジデンス──壁のようなホテル都市
シュトラウス大佐の建てたホテル。俺が大佐ファンになったきっかけだ。
自分語りというより、大佐語りになりそうな予感しかしない。
シスコは香港やニューヨークみたいに土地が狭く、地価が上がりすぎて家賃が高い。年収三千万円あってもアパートを借りられない。ひどいだろ。
そこにシュトラウス大佐が巨大ホテル群を建てた。
先進国のメガシティは、ガラス張りの高層ビルが乱立している。日本のペンシルビルとは違い、巨大な直方体がそのまま鉛筆みたいに立っている感じだ。
シスコ中心部の平地は俺が渡米する前に刷新され、六車線道路と広い歩道が整備されていた。
小学生の図画工作で描いた「未来都市」が、そのまま現実になったような街だ。空中道路と空飛ぶタクシーは、まだ無い。残念。
俺が住んでいたのは、シスコ南東ハンティングポイント区画に七棟並んだホテル「ベルスト・セブン・レジデンス」。最大容量を取るための完全直方体。まさに壁。
観光名所にもなっている。このホテル、内側と外側で料金が違う。
外周の「窓あり部屋」は富裕層向けで超高級。
内側の「窓なし部屋」は廉価で低所得者向け。
一泊二〇ドルのカプセルもあれば、俺の部屋はワンルームで一泊五〇〇ドル。日本では窓なし部屋は許可されないが、シスコでは大佐が無理やり通した。
一棟一万室。七棟で六万室。
俺は第六棟三二階、シティビュー角部屋をギリで確保した。
申請書は名前と推薦者だけ。過去五年分の年収証明と貯金残高の提出あり。五年って、ちょうど日本でブラックだった時期が入るが、通った。助かった。
更新のたびに年収証明。しかも日本みたいな統一書式は無い。
無理だと悟って、ファイナンシャルマネージャーを雇った。
部屋は完全キーレス。顔認証AI。
しかも、笑顔じゃないと通れない。
ゲート前には「SMILE!」の看板。遊園地かよ。
「センサーは毎秒、顔を読んでる。機嫌が悪いとホテルAIに身元再確認される」
ブラックで死にかけてた時に、ここで止められたら笑えたかな、と思う。
「感情エラー」と記録されると、精神疾患扱いで入館不可。
不機嫌な人間は排除。先進国のゲートAIはだいたいそうだ。
それじゃ俺が一番ダメじゃん、と思って笑った。
このビルは居心地がいい代わりに、居続ける理由を常に問われる。
郊外に住まなかった理由は渋滞回避が第一。
だが決定打は、ホテル内のサーバーレンタルだった。
シュトラウス大佐管理下の、軍用クラスのサーバー。
南の海軍工廠と同時管理。接続はしていないが、同系統。
その余剰を長期レンタルして『マイピ』をインストールした。
前のマンションのワークステーションとは桁が違う。
地球最高速度。燃える? 燃えるだろ。でも使う。
治安も完璧だ。
空母建造で軍が増え、犯罪率ゼロ。
特殊地区だった土地を、大佐が特権フル活用で買い上げ、巨大居住区に変えた。
七棟は空中回廊で接続され、冷房の中を徒歩通勤できる。
スーパーも教会も全部揃っている。地上に降りる必要すらない。
まさしく雲の上の生活。
第一棟は別格。世界中の資産家のシェルター。
俺はそこには入れない。それでいい。
幸運だとは思っていた。
ただ、この生活がいつまで続くかは、常に計算していた。
★ヴィミール・ガラスの夜
住居とオフィス区画は一方通行ミラーガラス。
外からは見えず、内からは夜景が透ける。
しかも発電する。
「このガラス一枚が、日本勤務時代の月給より高い」
そう思って、少しだけ現実に引き戻された。
◆アメリカ式ホームパーティーの呪い
人間嫌いの俺が、パーティーをやる理由。
アメリカでは家に呼ばないと距離が縮まらない。
外周部屋はホムパ前提設計。キッチンとリビングが一体。
掃除洗濯はホテル任せ。
シェフの出張も月四回まで家賃内。結局、毎週やった。
料理は興味がない。
俺にとって家は拠点で、生活の舞台じゃなかった。
それでも、人を呼ぶという行為が関係性を変えることは、否定できなかった。
家を見せることは、暮らしを差し出すことだ。
その緩みが、心を開かせる。
ベルストへの転居は、合理的な選択だった。
そして同時に、人と繋がるための配置換えでもあった。
★生活の小さな実験
人生一生是実験。
玄関に置いたのは、等身大の聖騎士。
『マイピ』由来の、純銀製。世界に一体。
槍術の演舞はウケた。
ナタリーは毎日抱きつきに来た。文化の違いだと思っている。
◆マイピ布教の宴
全員にVRゴーグルを着けさせて『マイピ』。
これが俺のホムパだ。
トレッドミルで歩きながらプレイ。
三時間ログアウトごとに、二キロの野菜ボウル。
効率が良すぎて、商品化された。
アイデア料も振り込まれた。
最適化は、生活を侵食する。
だが、この時はまだ、制御できていると思っていた。
★そして、世界が切り替わる
今日もトレッドミルで歩きながら『マイピ』。
魂石トレードの最中、世界が一瞬で暗転した。
停電みたいに、バチッと。
強制ログアウト。
なぜだ。
――この違和感が、すべての始まりだった。




