動けば死ぬ、動かなければ確実に死ぬ
人は「動く」と「動かない」の間で生きている。
その狭間で、火を守り、息をつき、世界をつくる。
――「些事」と呼ばれるものが、人生そのものだ――
かまどの下のチェストを確認。できている炭を回収して、上のチェストに丸太と苗木を追加……しようとして、あと十分では使い切らないだろうから、追加をやめた。
全部、些事だ。
これらは、些事だ。
決定するのが怖いから、後回しにしている。
なぜなら、『このゲームから俺がログアウトできない』なら、ここが俺の人生になる。
人生って、悩むものじゃん?
ゲームだから「やってみる」ができるんだ。「死んでもやり直しが効く」から。
死んだら終わりなら、「死ぬかもしれないこと」は極力選びたくない。
でも、じっとしていると、そのうち攻め滅ぼされる。
動くと死ぬ確率が上がる。
動かなければ確実に死ぬ。
強国の城壁の中で店を持ってスローライフでもいいんだ。けど、それだと稼ぎが少ないから、ドラゴン退治に行けない。野外スローライフでドラゴン退治ができるんだから、店を持ってスローライフもできると思うだろ? 「店を持つ」と「何日以上は営業」という「枷」が発生するんだ。そりゃそうだよな。土地を借りてるんだから。城の兵隊に守ってもらう代わりに税金として物納が発生する。チェストの中身がランダムで消えるんだ。価値には関係ない。だから、大事なものは城壁の外に隠しておかないといけないけど、もちろん、NPCに見つかっても盗まれる。地下を掘っても同じ。城壁の内側はその国だから。だから、城壁の近くに住んで、地下を掘って、地下の城壁の外側にチェストを配置する。国内のチェストにはゴミだけ入れておけばいい。もちろんそのチェストも、その国の掘削家とか、他の奴らに見つかると盗られる。チェストに鍵はかけられないんだよ!
そして、『ドラゴンの心臓』がないと延命できない。そうなると、地球時間の十年くらいで死んでしまう。
俺、まだ三十代だぞ?
あと十年で死ぬって嫌すぎだろ。
そもそも「強国」を『KIWAMI』でどうやって見つけるのか問題が難易度高い! 手近の国に居候して、国主アレキサンダーに攻め込まれたら終わり! アレキサンダーは敵国からアイテムを盗むスキルを持ってるから、地下で城壁の外においてるチェストからも盗んでいく。
国に囲われるなら強い国じゃないと意味ないし、強い国は税金が高いから、大変。城壁のそばは城壁を攻撃されたときに一緒に被害がでる。確か、『KIWAMI』だと、攻撃されるたびにチェストの中身が一個ずつ減るはずだ。城壁際に住みたがるプレイヤーへの嫌がらせだな。
だから、やることは決まっている。
『俺の巨大王国』を作る。
稼いで、装備を整えて、強くなって、ドラゴンを倒して、寿命を伸ばすアイテムをガバガバ集める。
それ一択だ。
だが問題がある。
どこに作る?
どこで立国する?
木材で棒と板を作って、それらで塀を作成して湧き潰しをすれば、暫定でこの拠点は安全になる。
だが、この起伏の多い場所を本拠地にしても仕方ない。起伏が多いと柵が倍の量必要になる。
本拠地にするなら平地がいい。一括破壊があるから、山を削って平地にするのは簡単だが……鉄も取れるだろうし、どうしようか。
二分経過。さっきの火傷で1減った体力は点滴のおかげで2戻った。
今だと「一分で体力が1回復」――それが点滴の仕様だな。
今は体力が十だから、「一分で一回復」だが、この先レベルが上がれば最大体力は十万を超える。
そうなると「一%回復」なら一分で千増える! 後半になるほど効率が上がる。
「固定回復」ではなく「%回復」だから、タイミングを考えるゲームになる。
医療アドオンはすべて%判定で動いているのかもしれない。
枕やベッドマットも欲しいが……それも、今は些事だ。
デスストーカーが出るのは四日目から。
今はまだ、「明日どうするか?」の話。
四日後のことは、その後考えよう。
村人を殺しまくって、村巨人から逃げまくったテストプレイが懐かしい。
ナニも考えずに済んだ……
◆――AI副官ログ(AI LOG)――
[T+5640sec] 【AI副官デリミタ子】
──行動記録:資源再配置中断→思考遷移:決断遅延。
──心理傾向:生存確率算出ループに停滞(リスク回避指数0.94)。
──医療状態:点滴稼働継続/体力100%/火傷ステータス回復中。
──未来予測:第4日サイクルに『デスストーカー』生成確率24%。
──提案:①拠点移動検討②平地スキャン③意志決定アルゴリズム更新。
◆――AI副官が用意したコメント欄(ECHO-WALL)――
1. 「『動けば死ぬ、動かなければ確実に死ぬ』の矛盾が人間的」
2. 「十年で死ぬ三十代の王――妙に現実的すぎる」
3. 「%回復の考察、経済論としても面白い」
4. 「『些事だ』を繰り返す口調に、生存の哲学がにじむ」
この章は、『決断』を哲学的に扱った一話。
プレイヤーが「選択」を恐れる瞬間、それは生存本能の証だ。
次回――いよいよ、建国の一歩目。




