凝視三秒、ホログラムの扉が開く
火の痛みが、ステイタスになる。
情報は生きるための言語であり、苦痛はその翻訳だ。
この章は『見ること』が知ることに変わる瞬間を描く。
――痛みと情報がつながった時、世界は現実になる――
ため息をついた時、かまどが火花をちらしたので、はっ! と顔を上げたら、体が動いて、松明にぶつかって服に火が! やっばっ! 悪魔召喚技師すんな!
そうだ、工業アドオンの一つに「熱」を使うものがあるから、松明が熱いんだった!
何言ってんだ、さっきかまどで暖を取っただろ! 火はリアルと同じで危ないんだよ! いい加減「今回」に早くなれろ!
王国では全部NPCの部下がカマドとかやってくれてたから、すっかり忘れてた。あっつい!
ステイタスに「軽度やけど」がついた。
体力も1減った。満腹も1減ってたのでみかんを食べておく。
ゲーム内ではみかんの「皮を剥く」が不要だから簡単だ。りんごみたいに丸かじりでOK!
ツルハシを左手で使いながら右手で食べられる。
なぜツルハシが左手かと言うと、右手でしか「道具の選択」ができないから。画面下に並んでいる『ハンドツール』は右手用。
左手は普通、盾を持つだけ。振ることはできるから、ツルハシも使えるし食べられるけど、「一個しか設置できない」。だって盾用だから。『マイニングラフ』ではパソコンゲームだったから、仕方ないけど、なんでVRになってまでこのシステムが継続しているのか。効き手を入れ替える設定はあるから、左利きでも問題ないけど……違うだろ!
左に剣を持って両刀使いもできるんだが……そうじゃなくて……左手も、右手みたいに道具スロットを出してほしいんだよな……弓を持つときも、増備スロットを出さないといけないから大変なんだよ。「でも、弓と槍を持ち変えるってそれぐらいの大変さはありますよ」ってメーカーは言いやがった。そーですねっ(ケッ)!
左手スロットは装備一覧を開かないと交換できない。つまり左手でみかんを食べたら、再装備が必要になる。無理!
だから、持ち替えのないツルハシを左手に装備して、右手でみかんを食べたり道具を設置したりする。
右手はハンドツールを使えるので、スタックされたみかんを選択するだけで、次々と食べられるからな。
一括破壊アドオンを使っている限り、延々と満腹度が減るので、延々とみかんを食べていないと空腹で死ぬ!
これは「マイルール」に設定しておけば、「暇なら食べる」を義務付けられるので手間ではない。
走る時も食べ物を持っていれば、走りながら延々と食べ続けられる。残念ながら、泳いでいるときは動きが止まるので沈むがな。
医療アドオンでは、出血し続けると一分で体力が0.8減る。
寝て全快はするけど、出血が続いてるから、起きた瞬間から体力が減る。
そもそも、出血したまま寝たら「夜をスキップ」した時点で、夜の十分快を過ごしたことになっているから、完全回復しても体力は2になる。
直ぐに対処しないとそのまま死ぬ。枕で寝たら「起床時に体力が全回復」するので大丈夫だけどね。
あ、そういえば、さっきの右拳も「打撲」のステイタスが付いてるな。そうか、こうやってステイタス見るのか……。
うん? どうやってこの画面出した? やけどしたところをじっと見ていたら、「やけど」と表示されてた。
さっきも拳を見ていたと思うが、外だったから警戒していて『凝視』はしてなかったな。
凝視したら個別ステイタスが見えるらしい。
『マイピ』は、木とかアイテムを見ても説明が浮かぶような優しい設計ではないから、気づかなかった。
凝視を三秒続けると、ホログラムでステイタス画面が出るんだな。案外長いな。
長いな!
野外で三秒凝視って! デスストーカーに10回攻撃されるぞ!
バニラだと体力と満腹しかステイタスがない。
それらはハンドツールの上に常時表示だ。
けど、アドオンで他のステイタスがついたから、それは別の方法で出るんだった。
王国でやってたときはほとんどステイタス追加アドオンは入れてなかったから、こういうのちょっと疎いな。気をつけないと死ぬぞ。
基本、バニラに近いほうが面白いんだよ。
だって、チートでなんでもできたらゲームしてる意味がないだろ?
ゲームなんて、しなくて良い苦労をわざわざしてるんだから。楽しく苦労しないとな!
「だからって、NPC一億人はやりすぎ!」
そう言っていた友人も、今日、地球の異変で全員死んだ。
ふう……また、ため息。
◆――AI副官ログ(AI LOG)――
[T+5580sec] 【AI副官デリミタ子】
──生理データ:体温上昇+2.1℃、右腕軽度火傷・右拳打撲確認。
──スキル発動:〈凝視による情報抽出〉開放。
──行動ログ:出血・飢餓・満腹・休息サイクル認識。
──心理傾向:現実想起反応Lv2。自己防衛行動に連動した記憶回帰。
──提案:一時作業停止。体力回復と精神安定を優先。
◆――AI副官が用意したコメント欄(ECHO-WALL)――
1. 「『火はリアルと同じで危ない』――メタ台詞の破壊力」
2. 「ツルハシを左に、みかんを右に。生活感が強すぎる」
3. 「凝視でホログラムを出す仕様、地味に天才」
4. 「NPC一億人のくだりで急に広がるスケール感」
5. 「『楽しく苦労しないとな』が、ゲーム哲学そのもの」
「凝視三秒で世界が開く」。
『マイピ』は視線そのものを操作体系に変えた。
次章は――情報の過多がプレイヤーを蝕み始める。




