寄付から始まる友情と孤独
ゲームの中に『現実の痛み』があるなら、そこには『生きる恐怖』もある。
痛覚は罰ではなく、現実への回線。
王が再び「恐怖を思い出す」物語。
――恐怖が現実を取り戻す。痛覚は再生のはじまり――
たしか医療アドオンで骨折や打撲がステイタスに追加されているはずだ。骨折だと赤く腫れるらしいから、今は骨折ではないはず。青あざになったら、ゲーム内時間で1日は消えない。その間、そこをぶつけるとダメージが多少増えるそうだ。つまりはリアルに青あざができたときのような「痛み」があるんだろう。
打撲だ。
打撲でも、こんなに痛い。
骨折は、一日はびっこをひいて、二日目で完治だそうだ。
俺はどうにか大学まで、学校ではいじめられることがギリなかったけど、ボッチで引きこもりだ。ゲーム以外では走ることすらないから、こけることもほとんどなかったしな。
子供の頃にコケて擦りむいた膝がめちゃくちゃ痛かったから、暴れないようにしたんだ。だからこそ、ゲーム内では暴れまわった。そのために空手もパルクールも習った。世界の覇王になった。シングルプレイだけでサル山のボスを気取ってた。マルチ(多人数プレイ)なんて冗談じゃない。ゲームでまで他人と折衝したくない。
アドオン制作者に寄付したときも、まさか返信されるとは思ってなかった。プレイヤー名は本名でやってたから、振込明細の名前から、何百人に声をかけて、俺を突き止めたらしい。うわ、こわっ! たかられるの俺? と最初は思ったけど、みんな、そんなこと一度も言わなかった。
ただ、ひたすら、そのアドオンを作った動機とか、苦労とかを延々と語ってくれて、俺も使って気づいたことを延々と話せて、うんうんって聞いてくれて、「こんなアドオン作りたいんだよ!」とか夢を語り合って、どんどんアドオンが改善されて、めっちゃ楽しかった。
会話って楽しいものなんだな。
命令されたことしか無かったから、知らなかったよ。
でもそれも、「俺が先に金を払ったから」なんだろうと思ってたら、まだ寄付してないアドオン作成者からもドンドン連絡が来て、アドオンの相談をされて、テストプレイで喜ばれて、めっちゃ親しくなった。
その頃、日本のブラック会社でもシスコに栄転! 一躍スローライフ!
お陰で、あちこちのパーティーでさらに人脈が広がって、毎日楽しい。けど、大体はゲームしてるからな。「テストプレイしたいから」っていったら、誰も引き止めない。いい関係だと思う。俺に金があるからだろうけど。嫌な人はパーティーに来ないだろうから、いいんだよな。英語だけは勉強しておいてよかった。
「はぁ…………」
一つため息……
二つ目のため息。
三つ目……は、飲み込んだ。
このゲーム世界でドラゴンやラスボスを倒したことは何度もある。
何度もあるが……死なないからできたことだ。
山より高い塔の上から、飛んでいる龍に飛び乗って脳天に剣をぶっ刺すとか、ゲームだからできたことだ。
今までの冒険が頭をよぎって、全身に震えが走った。
あんなこと、今、できない。
また、俺は、他人にビクビクする俺に戻ってしまった。コケるのが怖くて走るのをやめた俺に、戻ってしまった!
そんなことじゃ、この世界を生き抜けないのに!
ドアをちょっとだけ覗いたら、飾り透かしに満月! そしてドラゴン!
◆――AI副官ログ(AI LOG)――
[T+5120sec] 【AI副官デリミタ子】
──症状評価:打撲ステイタス確認。骨折ではなく局所炎症。痛覚強度=0.8。完治予測=ゲーム内1日(実時間約2h)。
──心理傾向:自己効力感の低下と過去の『対人恐怖』記憶再活性化を検出。
──行動記録:外界観察中に敵影確認。危険距離=視認範囲外。攻撃予兆なし。
──推奨行動:戦闘回避。防御・退避優先。精神負荷軽減のため、呼吸リズム調整プロトコルを起動。
◆――AI副官が用意したコメント欄(ECHO-WALL)――
1. 「『打撲でも、こんなに痛い』の一行が刺さる」
2. 「寄付から始まる人間関係の描写が温かい」
3. 「三つ目のため息を飲み込む描写、リアルで胸が詰まる」
4. 「現実の恐怖とファンタジーの境界が崩れる瞬間」
5. 「満月のドラゴンの登場で一気に再燃する緊張感!」
この回は、『恐怖の再帰』。
痛みで再び現実に引き戻される瞬間を描いた。
次回――満月のドラゴンが、沈黙を破る。




