湧き潰し完全対策済! ……のはずだった
今回のテーマは「登る・見る・虚無る」。
マイピの探索型設計を最大限に活かした“高所索敵”と、その裏に隠された村生成システムの地獄。
プレイヤーが1日目でここまで昇り詰めて、ここまで落ち込むとは……誰が想像しただろうか。
――松明の消えた夜、矢は不意に飛んでくる――
さっき掘った腐葉土を6スタックと、今作った『石のスコップ』を2つ抱えてドアの外の気配を伺う。
モンスターは出始めたかもしれないが、まだドアの前にはいないようだ。湧き潰しした松明がキラキラしてるから、モンスターは一晩中出ないかもしれない。
ドアの外に出て、ドアを閉め、ドアを閉める(大事なことなので二度言いました。ドアを開けて出かけると、中にモンスターが入っていることがあるので閉めるの本当に注意!)
ドアの両側の岸壁に松明を設置。
「さぁ! ドアの前に土を積み上げろ悟!」
土ブロックを岸壁の上に置く。その上に乗って、ジャンプしながら足の下に積み上げ、どんどん登っていくのだ!
もちろん、落ちれば、死ぬ。3ブロック落下でダメージ、30ブロック落下で滑落死!
今64個土持ってるから192メートル上空へ参りまーす!(エレベーターガールのように)
いつも何気なくヤッてたけど、命がかかってると思うと緊張感が違うな!
『マイピ』は掘るゲームではあるけれど、もう一つ、上空もやたら使う。高所作業の足場の上で踊り狂うようなゲームだ。落ちたら死ぬけどやる。それしかない。
なぜなら、周囲の探検を「歩いてする」よりは「高所から眺める」ほうが簡単だし確実だからだ。
「そう、俺は今、塔を作っている!」
ブロック一個を積み上げ続けているだけだが、塔である!
6スタック分(192ブロック。およそ192メートル。約60階の高さ!)積み上げたころには辺りは真っ暗だ。
東から月が上がってくる。『マイピ』は平面世界だ。全天が東から西に回転している。
北天と南天は地平線上……だから「四季がある」とか言うけど、日本ほど厳密ではない。
ただ、夏の砂漠ではすぐに乾き死にするし、氷雪バイオームでは冬のほうが死にやすい。
季節は……いつもなら座標の下に表示されてるんだが、今は座標すら表示されていないから、季節表示もないな。
ただ、どのモードも、指定しない限りは春始まりのはずだ。
だから、今は春の筈。
そもそもが、近くにジャングルがあるので、季節は「常に夏」に近い温帯だ。
ブロックを積み上げていると、ブロックしか見えない。
積み上げるのをやめてようやく周囲…が見える。
下には、俺が設置した松明が120ブロック先まで輝いていた。
高く登れば、山で遮られる立地であっても、「松明は見える」のが『マイピ』霧の七不思議……と、言われているが………………
見えないな…………92チャンク見えているとして、数千ブロック以内に村とかないということか…………
村ってあるときは、そこら中にあるんだけど……
例えば、村があると必ず『松明』が見えるんだ。
マイピのワールド全体は「構造物配置グリッド」に区切られている。そこに高確率で村が出現する。
512×512ブロックに1つの村があるのが平均。
「でも、平均ってあくまでも統計なんだよね」
さっきも言ったけど、公式竹藪マップもスポーン地点から半径1500ブロックぐらい最寄りに村が無いからな。
俺のプレイだと、7400ブロックほど村が無いこともあった。
そうなると、この高さまで上がっても、何も明かりは見えない。
夜だと溶岩もオレンジに光って見えるが、『松明』とは様子が違うのでベテランなら見分けがつく。
このマップも、かなり遠くまで村が無いんだな。
つまり、ある場所にいけば村が過密しているということだ。
以前、今回みたいに高台を作って眺めたら、11個の村を確認できたことがあった。
あるとこにはたくさんあるけど、無いところにはまったくない。それが村、というか『マイピ』のランダムなんだよな。
「……灯り……ないなぁ…………しかも、寒い! 体感温度があるとか、医療アドオンのせいか?」
『この展望台』に登って寒いとか初めて感じたわ!
「医療アドオンがネックだよな……あれを入れてなければ『地面に寝る』で解決したのに……今寝たら恐らく凍死するんじゃないかな。山で土の地面に直接寝たら、体温を土に吸い取られて……ほんと、生きてないぞ。岩なら余計に冷たいし、痛い!」
いつもなら拠点の目印のためにこの塔を残して飛び降りる。
死んでもスポーン地点が近くだから、問題ないんだ。
村とかでも水辺で塔を積み上げて、先端に松明をつけて、水場に飛び降りる。
俺が行った村は全部、この塔を建てるので間違いが無い。
でも、今は飛び降りたら死ぬので、積み上げた土をスコップで破壊しながら降りていく。どうせ明日ら、ココらへん一括掘削するしな。
下を見ながら掘っていくので、土ブロックしか見えない状態。『マイピ』は「目線の先にナニかをする」ので、顔を上げると、土が掘れない。土を掘りながら辺りを警戒するということができないのが難点だ。戦闘でいうと、フェイントで視線をそらしたまま攻撃することはできない。「視線の先にしか攻撃や設置ができない」のだから。
今も、真下を向いてどんどん掘ってる。
その脇に、玄関につけてきた松明が見えた。ようやく洞窟の玄関が近くなってきたようだ。
このあとどうしよう、とか考えてたから、ドアのサイドの松明しか見えてなかったらしい。
近くにゾンビの声がする。
なんで?
128ブロック『湧き潰し』のために『松明』を設置してたんだから、俺が上に登ってもこの地面には湧かないはずだろ?
あれ? そう言えばさっきもゾンビ、いたな。石のツルハシで殴り殺したゾンビ。なんで?
最期の土ブロックを掘ったときに、シュッ! と、音がした。
咄嗟にしゃがむ。
頭上を矢が飛んで、岩の壁に刺さってビーンと揺れる振動音!
骸骨戦士の攻撃だ。
そんなこと、あるはずないのに!
『KIWAMI』なら「太古時代開始」のはずだ。
まだ弓矢は作られていない!
だからモンスターも虫や動物だけで、骸骨戦士も弓矢を持っていないはずなのに!
というか、「太古時代」に骸骨戦士は居ない!
だからゾンビもいないはずなんだ!
まだ人間が少ないから、モンスターになるほど居ない、という理由だったはず。
「でも、とにかく、洞窟にまず戻れ! ドアがあるから大丈夫!」
慌ててドアの中に入ったら真っ暗だった!
しまった、竈が消えてる!
天井から水が滴ってたから?
あれってリアリティ系のエフェクトじゃなく、実態の水だったのか?!
天井が腐葉土だからか!?
湧き潰しした松明は?
そう言えばさっきも、ドアのそばに設置した松明以外、消えてた?
「松明に時間制限があるのか! 『KIWAMI』の新機能? 聞いてないぞ!」
慌てて足元に手持ちの松明を置いたら、その手元にゾンビの足が見えた。
◆――AI副官ログ(AI LOG)――
[T+2769sec] 【AI副官デリミタ子】
──高所作業完了:192m上昇、環境展望達成。
──観測結果:周囲512×512ブロック内に人工光源未検出。村出現率、最低域。
──不明モンスター発生:時代制限違反の弓兵種検出。時代タグ整合性崩壊中。
──松明:消滅ログ確認。新仕様『燃焼時間制限』の可能性。検証対象に追加。
──拠点内部:暗闇判定・ゾンビ侵入確認。生存優先度Sに移行。
◆――AI副官が用意したコメント欄(ECHO-WALL)――
1. 「『今は飛び降りたら死ぬ』がリアルすぎて震える」
2. 「松明に寿命あったの!? 知らなかった!」
3. 「骸骨弓兵、時代設定どこいったw」
4. 「村ガチャ失敗で5400ブロックの絶望」
5. 「『ゾンビの足が見えた』←ホラーの落ちだこれ」
今話は、冷静に積み上げて、熱く降りて、ゾンビで冷や汗。
太古時代にスケルトンが出るバグなのか仕様変更なのか、そろそろ誰か運営に問い合わせてくれ。
次回、「松明の寿命」と「見えたゾンビの真相」を追って、さらに深い闇へ──!




