知らない世界に、知ってるふりして入ったら
マップに詳しいほど、見落とす「初期地形の罠」。
経験と知識に頼りすぎたその先で、
「ここは公式マップだ」と信じ込んだ瞬間、
命の選択肢を、自ら削っていた。
■副題:信じていた地図は偽物だった。──その先にあるのは、生か死か。
『マイピ』は1ブロック一メートルという扱いなので、100ブロックは100メートル。日本の学校だと、どこの運動場でも、100メートル走の直線は書けるように設計されるらしい。だから、小さい運動場4面分以上の視界が確保できたということだ! 明るい!
「はーーーーーーーー……呼吸がしやすい!」
広く霧を晴らしたから、空も見えた!
空が青い! 雲がぷかぷか浮かんで流れていく! 春か! そう言えば、『マイピ』って季節があったな。たまに雪が降る時期が冬だ。サクラは年中花吹雪だけど、バラとか椿とかは年に一度しか咲かなかったはず。そういや、花アドオンも入れてたから、華やかだろうな。
おお、もうすぐ太陽が中天にくるな!
初日は一歩も無駄にできない。最小限で動いて、最大の資材を集めて、夜動けない間に、「今回のこと」を考えるんだよ!
この松明の配置なら、最小限の本数で、モンスターの湧きを完全封鎖できる!
『マイピ』で夜が来ても、これなら安心ってわけだ!
空腹度が1下がったので、さっき入手したみかんを食う。みかんで2回復するが1しか減ってないので満タンになっただけだ。確か、医療アドオンで「余分に食べ続けるとスピードが遅くなる」バフがかかるんだったよな……肥満になるってことなんだろう。
「この松明アドオンは『KIWAMI』が出る前に作られているのに、松明で霧が晴れることで、さらに需要が高まったんだから、職人さんの先見の明だよな。だから俺も、慌てて導入したんだし。
……なんか頭が一杯なので、いつもの実況動画風に大声で行こう!
そして、さっき洞窟を掘るときに入手した砕石を手に持つ。そして、そして、またそして、スポーン地点の近くにある、3ブロックぐらいの谷を埋める! この奥に洞窟があって、ここらへんをウロウロするとゾンビに殴られるんだ。
下でゾンビの声がしてるな。その洞窟の入口を砕石で塞ぐんだ。塞ぐと言っても、完封する必要はない。モンスターは高さ2ブロックを上がって来られないから、2ブロックの衝立を立てればいいんだ。
これで昼間に辺りをウロウロしても襲われる危険性は少なくなった。蜘蛛は二ブロックを上がってくるけど、昼間の蜘蛛はプレイヤーが殴らない限り襲ってこないし糸をドロップしてくれるありがたい素材動物だ。
……あ、洞窟の中まで松明が設置されてるな……まぁ、仕方ない……いや、120ブロック手前から湧き潰しが出来るなら、洞窟内無双できるよな。ああ、そのためのアドオンだった!」
混乱してるな。アドオンを大量に入れると、一つ一つをなんのためにインストールしたかなんて一々覚えてないもんな。
……そもそも、俺、今疲れてるよ。そうだよ。突然ゲームで死ぬかもしれないなんて言われてるんだから。『普通』だと思って動かないようにしよう。
つまりは、『再確認」だ。
拠点に戻る。
いや、戻ろうとして、振り返って初めて気付いた。
拠点の前は海だ!
いや、『公式テンプレの竹藪マップ』では、ここは海だ! だから、俺もそっち側に行かなかったから霧が晴れなかった。海に松明を置いても仕方ないから、見なかったんだ。
今、洞窟の前にも延々と、120ブロック分、松明が配置されてる!
ぞわっ! と、全身が震えた。
海の上に松明が配置されてるわけじゃないんだ!
陸だ!
拠点の岩礁の崖の下から大きな谷だが、陸続きだ! その向こうは花らんまんなのがギリ見えてる! 珍しい青いバラまで咲いてる! レアアイテムの素材になるので取りに行きたいが我慢!
あれは『花畑』『バラ園』と呼ばれるバイオームだ! つまり、あの向こうはなだらかな丘陵地である可能性が高い! 拠点にもってこいだ! それに、花のそばに植林すると蜂が巣を作って蜜を採取できる……けど、…………
海じゃなかった!
いやいやいやいや! 海でもないのにこんな広大な岩礁って珍しいぞ! もしかして鉄がたくさん取れる鉄鉱山か? ソレはラッキー!
……そんなことはどうでもいい。
このマップは「公式竹藪マップ」ではない!
なら、村も1400ブロックより近くにある可能性がある……いや、考えるのはよそう。
「そうなんだから、そうなんだよ」。
特に、「初めてのマップ」で『KIWAMI』なのに霧の中、村を探しにフラフラすることなんてできるわけないんだから、考えなくていい。今は拠点を確保することが第一だ。
ここは公式テンプレの「竹藪」ではなかった。
それだけの話し。
海以外が全部、竹藪マップと同じだったから、あのマップだと思い込んでた。
「知らないランダムマップ」として対応しよう。
森があそこにあってラッキーだった!
溶岩があそこにあってラッキーだった!
崖があそにあってラッキーだった!
それだけの話しだ。
手が、少し震えていた。
あの時、村に走っていったら、どうなっていただろう?
ぞくっと背筋が寒くなったので首を振って、肩を回してちょっとジャンプした。みかんを食べる。
さっき作った拠点洞窟に入った。
おそらく、公式竹藪に似ているのはココらへんだけだろうから、少し走ったら「公式マップではない」と気づいて戻ってきただろう。うん、そうのはずだ。そうかなぁ……そうであってくれ……………………『KIWAMI』の霧で周囲1ブロックしか見えないのに、差分なんてわかんないだろ!
村だと思って突っ走ったらアレキサンダーの弓兵と真正面からぶつかる可能性だってあった! 即死だ!
突然、思い込みのウッカリで死ぬところだった衝撃って……想像以上に大きいな! 例えるなら、恋人に向かって真っすぐ走って抱きついたら、そこが100メートルの平均台の上だった、という感じだ。よくまっすぐ走ったな俺! という恐怖を味わえるだろう?
ゾッとしすぎて気持ち悪くなって来た……
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■AI副官ログ(AI LOG)
[T+7,103sec] 【AI副官デリミタ子】
──王の行動:地形スキャン実施、誤認修正完了。
──公式テンプレ「竹藪マップ」一致率:84.6% → 41.2%に減少。
──新地形:未登録岩礁帯・花畑バイオーム接続確認。推定鉄鉱帯。
──生存予測:誤判断からの村走行を回避、回復指標上昇。
──コメント解析タグ:公式竹藪じゃなかった 思い込みは命取り マップ詐欺かよ!
■AI副官が用意したコメント欄(ECHO-WALL)
「拠点の前が海じゃないって気づいた瞬間のゾワゾワ、マジで共有した…」
「こういう『知ってるつもり』が死に直結するのホント怖い、さすがKIWAMI」
「村に向かってたら本当に死んでたのかと思うと、逆に運良すぎてゾッとする」
「『抱きついたら100m平均台』の例え、あまりにも的確でむりwww」
「このマップ詐欺案件、バグ報告しても納得できるレベル」
『知っていた』は、『見ていない』と同義になり得る。
本当にそこが安全か? 本当にそこが海か?
見ずに決めたものが、どれほど自分の生存に影響するか。
思い込みは、最大の敵だ。
今回は、それに気づけた。
次は、気づけないかもしれない。
次回、
『岩礁拠点建国式:この地に我、王たらん』
生存は領土を築くことでしか確保できない──
名もなき崖に、王が名を刻む刻が来た。




