猫を撫でたいだけなのに殺害……
この世界に、『優しさ』というアクションは存在しない。
ノックすれば破壊、触れれば崩壊。
それが『マイピ』という名の、極限世界のルールだ。
だが、それでも王は『木を叩き、猫を撫でようとした』。
VRには、感触はない。だがそこに、『情』はある。
そして、拳の痛みは現実だった。
■副題:叩く動作に慈悲はない。この世界には、『撫でる』という概念がなかった。
うっかり大木を殴ったら、拳の痛みで悶絶中……
「……追加サブタスク、医療アドオンの「痛み測定」……完了。結果、めちゃくちゃ痛い! 備考。動きのタイミングがいつもよりオーバー目に効果が出る。あとで再確認しよう」
涙目になりながら、一括破壊アドオン『オールデストロイヤーEX』のステイタスを出す。
「樹木伐採」モードで範囲を「最大」にして、手前の樹木の葉っぱを6回ノック。なぜ葉っぱかというと、木の幹を伐採するよりノック回数が少ないから。
「『マイピ』での『ノック』」というのは、リアルのドアを叩くようなノックではなく、「ツールを使って叩く」ということだ。
イベントアイテムでない限り『叩く強度』は判定されない」
これは初心者が結構長い間勘違いしている部分でもある。
斧やツルハシだからって力いっぱい振り下ろす必要はないのだ。ノックのような軽い『接触」で大体はツールを使える。ドラゴンを倒すのも、ノックで可!
逆に言うと地球でやるような「トイレのドアをノック」みたいなことは、してはいけない。なぜなら「ドアを破壊」してしまうからだ。そういうときは声をかけるしかない。
「プレイヤーの接触」は「破壊」しか無いのが『マイピ』のルールだ。「撫でる」という「行動」自体がゲーム内に無い。
かわいいにゃんこを撫でたくても、遠くから撫でるふりをするしか無いのだ! だがこれも、後で説明するが、最近のバージョンアップでかわったのだ! 「手のひらを当てる」ことで「撫でる」ことが出るようになった! 「パー」が搭載されたのだ!
ノックや攻撃はグー。タッチはパー。拳で猫に触ると殴ったことになるので注意。
ただ…………VRなので、「感触」は、無い。
地球で「写真の猫」を撫でているより空虚だ。
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■AI副官ログ(AI LOG)
[T+2,364sec] 【AI副官デリミタ子】
──サブタスク発生:医療アドオンによる痛み測定ログ記録。結果:「めちゃくちゃ痛い」Δ+86%
──《デストロイヤーEX》起動。樹木伐採モード:最大範囲、ノック入力 x6。
──注意:接触動作=破壊処理。撫で動作:Ver.1.81以降で一部実装確認。
──接触感応:未実装。VR感触レイヤー:反応なし。
──王の発話:「猫は、撫でられない」←情緒反応高レベル記録済み。
■AI副官が用意したコメント欄(ECHO-WALL)
「ノック回数少なくて済むから葉っぱ叩くとか、職人すぎて笑った」
「『かわいいにゃんこを撫でたら破壊』って設定が悲しすぎて逆に神」
「撫でるの実装されたけど感触がないのエモい、てか泣く」
「『破壊しかない世界』って表現がじわじわと重い…」
「あの痛みログ、『めちゃくちゃ痛い』が公式評価なのジワるw」
叩くだけで壊れる世界って、よく考えるとめちゃくちゃ殺伐。
でも、力加減を要しないからこそ、行動に『迷い』が出るんだ。
触れる=壊す。ならば俺は、「壊さないで済む手段」を探す。
それが建国の第一歩でもある。
次回、
『火の確保:原始の灯火とクラフト反応式火打石』
拠点に必要なのは塀、そして火。それは『生存を照らす灯』だ。