特異
ノート 八話
体育祭という熱苦しい特別なイベントを終えいつもの日常へと帰ってきた。
教室の窓から見る空の景色を見て退屈さを覚える。
昨日見たはずの景色の記憶はもうない。今日見た景色も明日には覚えてないだろう。
日々の移り変わりとその変わらなさに安心感すら覚える。
学校生活というもの以外を知らない僕たちはこの時間を永遠にも感じ、時を流している。
大人たちは学生の頃は良かったとか、学生の頃にしかできないことをやれとか、過去の後悔を口にするのは僕たちと同じくここを悠久の時と勘違いしてしまった人たちなのだろう、と?同じ永遠を共有するクラスメイト達の喧騒を背景にそんなことを思う。
そんな僕の閉鎖的楽園に混沌を生み出した台風の目のような彼女は1人静寂の中にいる。
「おはよう」
「(おは。)」
紡ぐ言葉が短さに寂しさと嬉しさが共存している。
今もまたそうだったように淡路さんが何かを書き終える度に意識してしまう。
淡路さんは普段からメモも多いからあまり関係ないことの方が多い。
分かっていてもペンを走らせる音を聴く癖がついてしまった。
何かを書き終えた淡路さんと目が合う。
こういう時は大抵用事がある時なのだがぎこちない笑顔を見せ前を向いた。
嫌われるようなことしたかなと思い起こすが特に何も思い出せない。
そういえば淡路さんが何をされたら嫌なのかとか何も知らないな。自分が思っていたよりも淡路さんのことを知らないことに気付くが、これ以上踏み込み用のないような気もしてモヤモヤ感に苛まれる。
今日も担任は相も変わらず適当な喋りで場を賑わす。
週はじめの朝一から胃もたれしてしまいそうな軽快なトークは用意されてきてものなのか分からない。
先生たちは普段から用意してきてないかのように授業をしているしあり得る話かも知れない。
行きの車になんとなく話の構成を考えたりしながら登校したのかとなんとなく想像する。
1時間目から移動教室の慌ただしさはホームルームの終わり間際から始まる。
ホームルームを聴いているそぶりを見せながら机やカバンから持ち物をみな用意している。
挨拶が終わりみんながぞろぞろと移動を始める。
イワシが群れて動くことによって自分達を大きな一匹に見せるように僕らもまるで一つの生命体のように動く。その実、ただ仲間外れになりたくないだけという外からの要因ではなく内部的な問題に怯えているだけな気がする。
例に漏れず僕もそのうちの1人で遅れまいと慌てて準備を終えて歩き出した時、ポンと肩を叩かれて振り向く。
「(放課後、ひま?)」
ノートを広げて堂々と立つ彼女には魚の群れなんて小さな思考はないんだろうなと思う。
余計な思考がよぎったせいで聞かれた質問に意識を向けるのが遅くなった。放課後の予定を聞かれている。
「僕の予定?」
普通に考えればそれしかないのだが、今までそんなことを聞かれたことなんてなかった僕は混乱して、そんなことを聞いていた。
当たり前だという顔で頷く淡路さんに動揺してないふりをして
「暇だけど」
と返す。悟られてないかどうかヒヤヒヤしながら淡路さんの文字を書く手を見つめる。
「(買いものつきあって)」
ドキッとした気持ちを押さえつけて
精一杯のいいよを返す。
そこからの授業は上の空だった。
朝見た景色と同じはずの窓の空もまるで違う空な気がして違和感を覚えた。
淡路さんって、普段買い物する時どうしてるんだろう。
ふと生じた疑問が脳を駆け巡り支配する。
授業の内容など入る余地なんてなかった。
正解はこの後わかる。
そんな期待を背負いながら今までで1番長い生活を過ごすことになった。
お久しぶりです。
個人的な事情により更新が遅れました。
少しずつですが更新していくつもりですので、よろしくお願い致します。