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7話 部活対抗


「ただいまより午後の部を開始します。

生徒、保護者の皆様は熱中症に気をつけて午後からも頑張りましょう。」


ハキハキとした再会宣言と共に僕たちの午後は始まった。


午後からはリレーや騎馬戦など人気競技が勢揃いで体育祭の熱もこの気温に負けないほど上昇していく。

自分としては暑苦しいのは苦手だがこの熱に充てられるのは悪い気がしない。

しかし胃が痛い。その原因はあれしかない。


昼休みの終わり。

窓際にいる僕らに教室の外から大きな声で呼びかけてくる人がいた。


「おーい。お二人さんちょっと来てー!」


明るい口調で呼ぶのは部長の花先輩だ。

嫌な予感がする。


「ごめんだけど前に言ってた部活対抗リレーあるじゃん?

部から4人出すやつ。

3年性だけで出る予定にしてたけど、あれ、出てくれない?」


予感的中である。


「なんで、そんな急に」


「いやー、前からわかってたんだけど、、

ほら!サプラーイズ的な?」


伝え忘れてたんだなと理解する。


「なんか他の競技の兼ね合いとかで無理っぽくて、他の三年生も部に顔出してないから断られちゃった」


てへぺろとおどける先輩を見て何を言っても無駄と感じ


「僕はいいですけど、、、」


と隣を見る。


「(勝ちましょう)」


やる気満々だ。

僕は心の中でため息を殺して分かりました。と無理に納得する。


「もう1人はさきが走ってくれるから。

君たち2番と3番ね!

もちろん私がアンカーなのでしっかり届けてよ〜!」


咲というのは3年生で花先輩の親友にあたる。

去年までよく文芸部にいたが受験勉強で塾に行ってるらしく最近は顔を出していない。

僕のイメージで言えば花先輩の無茶振りに振り回される優しい先輩というイメージだ。


「そういうことだからよろしく!

あ、あとバトンの本任せた!」


そう言って鍵を手渡された。


「また見つけた時に返してくれたらいいから。

じゃ!」


そう言って去っていく。

まるで嵐だなと思う

部活動対抗リレーでは普通のバトンの代わりにその部活ならではのアイテムがバトンになる。


サッカーボールやグローブなど、危なくないものから選ばれるがそのスポーツを代表するものが選ばれる。

文芸部はそれがやはり本なのだ。


手渡された鍵を見つめながらめんどくささを押し殺す。

隣の気配が前に動き出す。


「(行かないの?)」


ついていくのは当たり前と言わんばかりの顔で聞いてくるのでそのお人よしさに笑ってしまう。


「うん。いこっか」


図書室にはいって適当な本を選ぼうとして僕の考えと裏腹に淡路さんが真剣に何か探していた。


「何かその辺の適当なものを」


「(まって)」


漢字を書くのすら億劫だというような返答が食い気味に来た。


こういう時にしっかり整理しておくんだったなと図書委員としての後悔が押し寄せてくる。


「淡路さんでも、もう時間が」


その時それを見つけたらしく走って戻ってくる。


手に持っていたのは太宰治の「人間失格」だった。

体育祭というイベントに不釣り合いなタイトルのバトンを持った彼女はこれしかないでしょといったような顔だ。


「それしかないね」


そう言って2人で笑う。

まさか太宰もバトンになると思わなかっただろうと思いながら彼女を見る。

不思議な縁だなと思う。僕が勧めた本が淡路さんとの繋がりを作り今それがバトンになって廻る。

太宰さんいい小説をありがとう。



そんなわけで絶賛緊張中というわけだ。

胃くらい痛くなりますよそりゃ。次の次の種目なんですもん。とぐちぐち言いたくなる。


次の種目に移り変わり準備に呼ばれる。


「ごめんね。無理言って。」


咲先輩がいつもの優しい口調で話しかけてくる。


「いつものことですから」


「それフォローになってないんだけど」


咲先輩の肩越しから顔を覗かせた花先輩につっこまれる。


「淡路さん!花から噂はかねがね聴いてます。

よろしくね。」


ぺこりとお辞儀を返す淡路さんとふふふと笑う咲先輩がふわっとした空気感を作り出す中、そばの野球部やサッカー部たちは負けられない戦いの幕開けに向けて緊張した面持ちでいる。

彼らの目の中に文芸部の姿は描写されていないんだろうと思う。

思い出作りや、部のプライドなどみんながみんな何か思いを背負ってこの場にいる。

僕にはそんなもの何一つない。

まだ2年で最後の体育祭でもなければ、文芸部になんのプライドも持っていない。やめろと言われれば、はいそうですか。と言って退部届けを提出する。

そんな気持ちが湧き、水を差してしまうんじゃないかとやってもない罪に申し訳なくなる。


「どうしたの、そんな暗い顔して。悩んだら何も考えずに走りなさい!走るって気持ちいいから!」


どんな時でも懐につっこんでくる花先輩に怖いものはないのだろうか。


「(勝つよ)」


僕は無言で頷く。

そうだ。繋ごう。このバトンを。それが僕にできることで僕にしかできないことだ。





「はぁぁぁ、疲れたー」


「もう、走れないよ」


走り終わった僕らは退場した門のそばで大の字だった。


「全然勝てなかったね。」


「そりゃそうだ。普段から鍛えてるんだもんあいつら。ずるだ。」


「(くやしい)」


「悔しいと思えるのすごいよ。私なんて華凛ちゃんが勝ちたいって言うまで勝つこと忘れてたもん。」


「そうですね。でも気持ちよかったです。走るの」


「そうでしょ。頭空っぽの方がスッキリするんだから。何でもかんでも考えて正解を探すの大変なんだから。」


「花はもう少し考えてから動いてね」


「恥の多い生涯で悪かったわね」


先ほどまでバトンだったそれを中心僕たちは笑いあいながら少しの休憩を過ごした。





遅れたこと、申し訳なく思います。


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