第9話 買い物
自分歴史上類を見ないくらい混沌で溢れかえった時間割が過ぎていき、放課後を迎えた。
真っ先に席を立つのは決まって帰宅部のやつらなのは何故なのかといつも真っ先に帰る僕が考える。
部活動に励んでいる眩しい仲間たちも忙しなく自分たちの活動場を目指して動き出す。
この時だけは僕もあの子達と同じ輝きを放っているんじゃないかと思えた。
「(いこ)」
「そ、そうだね」
すでに僕の横にいた淡路さんに気付けないくらいには浮ついていたことに恥ずかしくなり少し言葉に詰まる。
行き先である町1番のショッピングモールには学校前からバスに乗って向かう。
生憎にもバスは満席で20分そこらの目的地に着くまでの間、僕たちは立ちっぱなしだった。
田舎の僕たちは遊びに行くとなるとそのショッピングモールに行くことになる。
普段外に出ない僕でも何度も訪れている。
「淡路さんは行ったことある?」
「(ない、複合型商業施設もない。)」
春にこの町に引っ越してきたから、ここのショッピングモールは行ったことがないのではと思っていたが、まさかその上を超えてるなんて。
複合型商業施設という言い回しも淡路さんらしい。
バスに揺られる彼女の横顔は少しワクワクしているような気がする。
「この町に来るまではどんなところで住んでたの?」
「(なにもないふつうの町)」
ショッピングモールもないなんてどんな田舎の町なんだと思いながら想像する。
生い茂る草が風でなびき、波音のような音を奏でる。
青い空の下、緑の上に立つ白のワンピースを着た一人の少女。
透き通った目はどこを見るでもなく遠くをみている。
見たことがない風景のはずなのに鮮明に浮かび上がるのはそれがテレビで見たからか、絵で見たからだろうか。
吸い込まれるようなその描写に気を取られていると肩を叩かれバスに意識を戻される。
「(次)」
気がつくと降車駅をアナウンスがかかっていた。
手すりについている降車ボタンを押そうとしたが、後ろの方に母親と座っていた子供がはしゃぎながら押した。
スマホ決済で先に降り、220円をコインで支払う淡路さんを待ってから、入り口へ向かう。
平日とはいえ、町1番の人気スポットなだけあってかなりの賑わいを見せている。
淡路さんは初めてテーマパークに来た子供のように僕の後ろをついてくる。
まさか、人生で初めてのエスコートがショッピングモールになるとは思いもしなかった。
「フードコート行く?」
「(いく)」
学生のショッピングモールの目玉といえばやはりフードコートだ。
ここに何時間滞在しているかがある意味ステータスともなるだろう。
3階にあるフードコートへエスカレーターを使い向かう。
まずは熾烈な席取りだ。
ここは町一番の人気スポット、他校、小中学生とひしめき合っている。
どこか席はないかと、きょろきょろ見渡す。
ふと思い出す。
最近よく聞く「蛙化」、自分には関係ないものと鼻で笑っていた。
だが、人間というのはその状況下に置かれて初めて危機と感じる。
もしかして今の瞬間引かれたのではないか...
ぞっとしておそるおそる振り返る。
そこには少しの困惑と興奮から前にしたカバンを抱きしめながら僕よりも周りを懸命に見渡す彼女の姿があった。
「(人いっぱい)」
何が蛙化だ。
今までみてきた淡路さんのなかでも最も愛くるしい瞬間だと感じた。
「そうだね。」
と微笑みながら、偶然タイミングよくあいた窓際の2人用の席をみつけ腰掛ける。
近くのファストフード店のポテトとドリンク2つを二人で注文し、席に戻る。
淡路さんは飲み物だけでいいらしい。
僕だけ食べるのも気が引けたので、ポテトは二人で分けた。
どうやら淡路さんはファストフードも初めてだったらしく「(おいしい!)」といってパクパク食べていた。
おいしそうにポテトを頬張る淡路さんが西日のせいかいつもより明るく見えた。
ここで僕は肝心なことを思い出した。
「そういえばさ、今日何買いに来たの?」
ポテトを食べる手を止めた彼女はペンを持つ
「(ノートおよび文房具)」
残り少なったページをペラペラとしてみせた。
どうやら最近誰かのせいで消費が多いという。
うれいしいような申し訳ないような表情を浮かべながら照れていると、ノートで叩かれた。
ラスト一本のポテトを名残惜しそうに見ていた淡路さんにあげてまた来ようといってトレーを片付ける。
その足でフードコートをでて文房具ショップに向かう。
1Fにあるそのお店は普通の文房具ショップではなく、アニメキャラやかわいいキャラクターの描かれたものが多い。
意外にこういうものが好きなのかなと思ったが、そのお店の中のごく普通のノートをいくつとペン類を買っていた。
そのゾーンだけは山積みなところをみると、いかに異質な客かがわかる。
お会計を終えた満足げな淡路さんがこっちにきてノートを手渡される。
ジェスチャーでノートを立て向きでこうもって、と指示される。
僕が持っているノートにさっき買った油性ペンで何か書き始める。
表を見ると「数学」と書かれていた。
いくら何でもマイペースすぎないかと、混乱している僕を尻目に2冊目も渡される。
「社会」
「家に帰ってからでいいんじゃ...」
そういう僕に、あと一つと指を立ててお願いする淡路さんに渋々従う。
「佐藤くん」
最後のノートの科目は予想だにしないものだった。
そのノートを取り上げて開き
「(ありがと)」
記念すべき1ページ目が書き込まれた。




