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噓に狸と峠で私  作者:
3/3

第三話 地縛霊は役割を自覚しました

第四話に登場させる妖怪誰がいいでしょうか?


彼氏に物理的に捨てられたヘンリエッタ。

自殺の名所、心霊スポットとして知られている峠の崖を真夜中に滑落するヘンリエッタ。

彼を許すまじと呪縛霊となることを心に決めるヘンリエッタ。

決心とは裏腹に崖下の竹林で目覚めたヘンリエッタ。

どうして彼女は死後になってもそこに留まっているのか?

その詳細を知る男がここに一人。冥桜局(めいおうきょく)化野(あだしの)である。



「えーと、何がどうなってるのか説明してもらえるんですよね?」

「もちろんでございます。」

化野は持っていた鞄を地面に置いた。黒光りした上質な革製の鞄である。

「ノートパソコンかよ。」とヘンリエッタは思わず言った。

「ご不満ですか?」

「いや、なんか人間臭いんだなと思って。」

化野はパソコンか目を離さないで彼女に尋ねた。

「まずこちらで仮の名を決めていただけますか?」

「はい?」

「追々説明させていただくんですが、諸事情により貴女の記憶は所々虫食い状態になっていて、私どもの方でもお教えできない内容がございます。」

「どういう事?」

「お前さん、自分の名前覚えてるか?」

いつの間にかヘンリエッタの真横に移動した狸が彼女に聞いた。

「そんなの覚えてるに…あれ?」

「要はそういう事だ。スマホや財布が手元にない事は覚えてるのに自分の名前は覚えていない。ランダムに記憶が引き抜かれてるんだ。」

「かと言って何か呼称がないと不便ですのでまず先に仮の名をこうして設定していただいてるんです。」

パソコンが彼女の方に向けられた。

「こちらに入力を。」

「何でもいいの?」

「ええ。アカウントのユーザー名だと思っていただければ。」


かくして彼女はヘンリエッタになった。


「…なんで外国人の名前?」

「お伝えするまでもないとは思いますが、ヘンリエッタ様は生まれも育ちも日本国籍ですよ。」

「何でもいいって言ったのそっちじゃない。ていうか『ホロー荘の殺人』知らないの?読んだことない?」

狸も化野も無反応なのを見てヘンリエッタは肩を落とす。

「とにかく、これで仮名登録の方は進めさせていただきます。それでここからが重要なんですが、」

「何?」

「本来であればヘンリエッタ様は呪縛霊第三類として有期霊化した後、然るべき転生処分に入る予定でした。」

「何度も申し訳ないけど、何言ってるのかさっぱりわかんないです。」

「“彼を呪い殺してやる”、とお考えなんですよね?」

そうだった!ヘンリエッタは小刻みに首を縦に振った。

「ご想像されていた通り霊体となったタイミングで自動的に貴女は彼の近くに現れる、はずだったんです。」

「はずだった?」

「この崖を落下している途中、ぶつかりましたよね?」

「あ。」


ヘンリエッタは隣の狸の方を見た。

目が合った狸はペロッと舌を出して目元でピースサイン。

「てへぺろ☆」

「古っ!そしてキモッ!」

「殺すぞ。」

「もう死んでらっしゃいます。」

やれやれ、と目頭を押さえながら化野は話を続けた。

「この古くてキモい古狸が一体どういう方か、お分かりですか?」

「古くてキモい古狸。」

「お前ら私をディスってそんなに楽しいか?」

「じゃあ古くてキモい狸。」

「重語修正したら良いってことじゃねぇよ!」

「この方は今いるこの山々一帯を統治している土地神様、弥迦楼(みかる)様です。」

ヘンリエッタは思った。だったら何だと言うのだ、と。

「憑依中の土地神と霊化の最中に衝突すると双方に大きな影響が生じます。まず貴女は呪縛霊から地縛霊への登録変更を余儀なくされます。」

(え?)

「それから弥迦楼様ですが、ご承知の通り憑依状態の解除が三十年ほど無効になります。」

「三十年この姿か…ちょっと長いな~」

「そういう決まりですから。」

(え?ちょっと待って?)

「私って今、地縛霊なの?」

「はい。」

「この土地に取り憑いてる状態ってこと?」

「はい。」

「この山と私の因縁は?」

「ございません。強いて言えば、『幽霊になる段階で土地神と事故ってしまった』がヘンリエッタ様とこの山との因縁でございます。」

ヘンリエッタはとりあえずその場で地面を殴った。


化野はスマホをヘンリエッタに渡した。

「必要な手続きがまだ幾つかありますが、ひとまず私は冥桜局の方へ戻ります。ご用の際はこちらのスマホをお使いください。連絡先は予め登録されておりますので。」

「どうも…」

「それでは失礼致します。」

彼が去った後、一人と一匹いや、一人と一柱は互いに暫く無言のままでいた。

ぴこん。

静寂を破る通知音。両者は同時にスマホを見た。鳴ったのは狸の方のスマホだった。

「運営め。足元見るようなタイミングでイベントガチャ設けてきやがる。」

ヘンリエッタは何とはなしに彼のスマホを覗き見る。


〈80ジェム ¥1000〉

〈購入する 戻る〉

〈購入されました +80ジェム〉

〈80ジェム ¥1000〉

〈購入する 戻る〉

〈購入されました +80ジェム〉

〈80ジェム ¥1000〉

〈購入する 戻る〉

〈購入されました +80ジェム〉


「いっそ一万円課金すれば?」

「バーカ、それじゃ目立ってバレるだろう。」

「誰に?」

「化野にだよ。アプリ内課金は全額冥桜局(向こう)持ちなんだけどよ、あんまり課金しすぎると注意勧告が来るんだ。少額であれば気付かれずに済むんだ。」

「神様のくせにケチ。」

「何とでも言え。」

「その上遊びに使うお金負担してくれるなんて、神様ってそんなに偉いの?」

「神様が偉いんじゃなくて私が偉いんだ。」

ヘンリエッタは眉間に皺を寄せて口を尖らせた。癪には障るが一度は言ってみたいセリフである。


「で、私どうしたらいいと思う?」

「何が?」

「いやだから、私がこれからどうするのが正解なのか。神様より偉いあなたならわかるんでしょう?」

「役職は、地位ではなく、役割だ。」

「は?」

狸はスマホをその辺に放った。

「トヨタ自動車現取締役会長である豊田章男氏の言葉だ。」

「それが何?神様のくせに受け売り?」

「神様だからこそ人間から学ぶんだ。例えばここで私が何かしらの選択肢を与えたらお前さんどうした?すぐに実行に移すんじゃないのか?」

「多分ね。」

「それじゃダメなんだよ。トップダウンでもボトムアップでもあってはいけないんだ本当は。」

急にヘンリエッタは気圧され硬直した。

「神の思し召しに従った人間が何をしたか?戦争だよ。原因が宗教から資本闘争にすり替わっても探してみれば必ずどこかに『神様のご意向』とやらが介在してるんだ。どうして豊穣を文明の力じゃなく神からの恵みと思う?どうして災害を科学的事象じゃなく神の怒りと思う?どうして人間は行動動機に神様の名を借りる?」

「それは神様の方が偉いから。」

「それは人間側の都合だ。確かに私たちは人間とは比べ物にならない力を持っている。でもそれは『役割』であって『地位』じゃない。『上位存在』だって肩書きに過ぎん。」

狸はヘンリエッタを力強く指差した。

「死してなお上司の指示を待つのか?神様だからって理由だけで無条件に私がお前さんの上司か?違うだろ?誰の指示でもない、自分の意思で動ける霊期(いま)、お前さんがすべきと思うことはなんだ?正直になれ、ヘンリエッタ!」

死んでからずっと、体感温度の概念が薄れる一方だったヘンリエッタは体の奥底がカーッと熱くなるのを感じた。

「…わかった。」


ヘンリエッタは竹林の中を駆けた。

円山応挙が初めて足のない幽霊を描いたのはいつだったか。しかし今ヘンリエッタにはハッキリと両足がある。その両の足で竹の葉の積もる地面を蹴りしめた。

あるべき足の痛みもなく身体は推進力を増してゆく。風を切っている感触もなく髪はただ翻る。

規範や規則、主従とそこを流れる命令と問われる是非、共同体感覚という拘束、余命というタイムリミット。

生きている間に捨てられなかったものが取り払われたのである。

この時のヘンリエッタは軽やかだった。誰よりも軽やかだった。


狸から彼女の姿がもう見えなくなったところで化野がスッと現れた。

「やってくれますね。」

「何が?」

化野は狸に書面を数枚見せた。

「弥迦楼様がヘンリエッタ様を焚き付けたことで、本来私が彼女に書かせる予定の手続きの一部が不意になってしまいました。」

「化野、お前やっぱりあの娘の霊化を取り下げて即時転生に回そうとしてたな?」

「私の意向ではありません。冥桜局全体の意向です。」

「これだからお役所勤めは。」

「どうして彼女の意志決定を促したんですか?それによって彼女の霊力はああして高まってしまった。おかげで私の仕事がまた一つ増えました。」

狸は化野の問いには答えず、先刻ヘンリエッタが言ったことを思い返していた。


〈…わかった。私、アイツを探し出す!名前もどこに住んでるのかも思い出せないけど必ず見つけ出す。呪縛霊だろうが地縛霊だろうが関係ない、見つけ出して必ず呪い殺してやる!〉


「とても褒められた存在理由じゃないが、お前さんは今やっと正直になれたんだ。今世の清算は今世のうちに済ませるに限る。」

「弥迦楼様の気まぐれはわかりましたが、彼女を走らせたことに意味はあるんでしょうか?どうせ戻って来るのがわかっているというのに。」

狸は仁王立ちしたまま両腕を前で組んだ。

「俺は頭よりも身体に叩き込むタチなのさ。」

「…バトル漫画のイッキ読みでもされましたね?」

「あ、バレた?」

「有料コンテンツの購入記録をこの前確認しましたから。申し上げておきますが注意勧告が来ないのは弥迦楼様のお立場ゆえです。他の神聖存在、霊媒、悪鬼羅刹の中でも群を抜いたその課金額には財務担当の者も頭を抱えております。」

「…てへぺろ☆」

「古くてキモい上にまったく誤魔化せておりません。」

「総額いくらになってる?」

化野はタブレットを取り出した。

「二千十三万と八千五百円、六十二万ドル、それから三百四ユーロ…」

「全部読み上げるのしんどいだろう?」

「どなたのせいだとお思いですか?ルピーやウォン、ルーブルに至るまで満遍なく分散させているあたりが小賢しいことこの上ない。私が担当に就いたからには浪費も、今回のような勝手も控えていただきますよ。」

「お、神様相手に言うじゃない?」

「私も冥桜局事務官という『地位』ではなく『役割』でここにいますから。」

そう言ってニコリと笑いかける化野を横目に狸は片眉を上げた。




果たしてヘンリエッタは目標を達して無事に成仏できるのか。

そもそも彼女は下山できるのか。

狸の体に憑依したままの弥迦楼はこの後どうするのか。

諸々の事情で構成ガタ崩れの本作、作者にやる気はあるのか。


それはまた別のお話。


7月5日の予言 あったじゃないですか?

あれの影響で中国人観光客の旅行キャンセル事案が割とあったとかなかったとか。

そういうのを重んじる国民性には大きな影響与えるんだな~ってことで、私思ったんです。

何をって?

インバウンドによる弊害や日本国籍帰化の問題で「外国人排斥」のスタンス取る勢力が一定数いるじゃないですか?

そういう人たちで「日本に留まることで生じる風水的・神仏的なジェノサイド」とかいうテーマの予言系マンガ出したらいいんじゃ。

テレ東やアニプレックス、人気声優に大金を献上してアニメ化したらいいんじゃ。

京アニのメイドラゴンに対抗して映画化してしまえばいいんじゃ。

存外効果あるのでは、と後書き書いてる間は思っちゃうんですよ。

ただですね、「ああ!それ良いアイデアじゃん!」とお思いの自称愛国主義者のそこのあなた。

実行に移そうというのならどうぞお気をつけを。

ほら!君のうしろに桑原由気と長縄まりあ。


というわけで縁があればまた第四話で!

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