最悪な一日
三題噺もどき―さんびゃくきゅうじゅうろく。
「っさいあく」
こぼれたそんな言葉は、何に対してだったか。
まだ一日は始まったばかりなはずなのに、すでに一日損した気分だ。
「もー……」
少々子供じみた怒りの声が続く。
今日はもう、本当についていない。いい事なんてひとつもない。
何が楽しくてこんなことになったのか、全く分からないほどに最悪だ。
ホコリを叩きながら思い返す。
「……ったく」
朝起きて。
着替えるのも面倒で、パジャマ代わりのジャージのまんま外に出た。
どうせコンビニに行くだけだしいいだろうと思って。ジャージというのはとてもいいモノがよなぁ。運動着にもなれば、パジャマにもできる。それなりに長い間使えるものだし。
「……」
そのまま、ジャージで外に出てコンビニに向かっていたところ。
よく分からない輩に絡まれた。夜はまぁ、それなりに居るのだが。
朝だと言うのにめんどくさい輩に絡まれた。
何を朝っぱらからと思い、適当にあしらいながら進んでいた。
とにかく空腹で、朝食を買うためにコンビニに向かっていたものだから、それどころではなかったのだ。
「……」
少々距離があるコンビニまでを、気持ち速足で歩いていたのだが。
何ともまぁ……。
どこまでも面倒で厄介なタイプの輩だったらしく。
どれだけあしらっても気かない上に、更にからもうとしてくるもので。
ただでさえ、空腹でイラついているのに、更にイライラしてしまって。
「……」
適当にまこうと思い、裏道に入ったのだが。
……普段ならこんなことはしない。でも今日は空腹とイラつきで判断が鈍っていた。入ればどうなるかはなんとなく予想できたくせに。
「……」
ここぞとばかりに、輩に手を出された。声をさらに荒げ、腕かどこかを掴まれた。
ちなみに今更だが、1人ではない。
んーと……1、2、3、……5人か?途中1人か2人のがした気がするがはて。
それならさっさと動くべきだったりもする。
「……ったいなぁ」
まぁ、それで。
これは不可抗力だと言いたいし、正当防衛だと主張したいものだが。
手を出されたので、手を上げたのだが。
まぁ、なんだか。あんまりいい結果にはならなかった。
この惨状を見たら、正当防衛なんて言ってられそうにない。
「……」
つい、空腹のイライラと朝から絡んできたことへの怒りで。
色々と限界を迎えてしまったらしく。
こう、な。
思わず動いてしまったんだが。
それが案外いいところに入ってしまったらしく、真っ先に手を出してきたやつが倒れてしまって。
「……」
も―そこからてんやわんやだ。
次々に来るものだから、反撃するしかあるまい。
おかげでジャージは汚れたし、手のひらは痛むし。
更に空腹襲われて、もう動くことも面倒なくらいに疲れているし。
この後ここに何かが来るかもしれないなら、それも面倒で仕方ないし。
もう。帰ることも果てしなく面倒なんだが。
「……はぁ」
というかほんとに。
何なのだコイツら。
朝から絡んでくるとか暇人なのか。
何か色々言っていたが、聞いていなかった。
「……?」
ぼうっと、これからどうしたものかと考えていると。
路地の入口、大通りに面した方から何かが入り込んできた。
「……」
赤い…風船…だろうか。
浮いている感じもないし、紐もついてないが。
ヘリウムではなく、空気入れか何かで膨らんだ風船だろう。
近くで誰かが、その赤い風船をボール代わりにして遊んでいたんだろう。
「んしょ……」
こんなところに、そんな子が入ってはまずいと。
重いからだを動かし、落ちた風船を拾いに向かう。
おう…まだ息があるようで何よりだ。ほっといたら勝手に起きるだろうこれなら。
「……っと」
風船を手に取り、どうやって返したものかと視線を上げると。
小さな影があった。
この赤い風船の持ち主だろう。
大きな目をさらに見開き、茫然と立ち尽くしている。
「これ、ぼくの?」
「――!!」
うわ、地味に傷つく。
思いきり怯えているのが目に見えてわかる。
まぁ、それはそうなんだが。どうしたものか……
「あ…」
子供の逃げ足は速いなあ。
まぁ、いいか。
この風船はありがたくもらっていこう。きっともういらないだろう。
全く……。
こいつらのせいで何もかも最悪な日になった。
お題:不可抗力・赤い風船・ジャージ