山田浅右衛門(やまだあさえもん)七
腹部を押さえ、倒れる夜一は紫陽花を見つめる。
紫陽花の手には剣が握られており、剣を振るった素振りは無く、その場からの一歩たりとも動いていない。
だが、この場に置いて、夜一の腹部を何かで突き刺す人物は紫陽花のみである。
「愚かな娘よ」
「はぁ?」
「愚かと言ったんだ」
負け惜しみでも無く、強がりでも無い夜一のその言葉は紫陽花には理解出来ないだろう。一撃で人の命を奪ってきた山田家の技なら、夜一はもう死んでいただろう。しかし、紫陽花はそれを否定し、一撃で人を殺そうとする事は無く、いたぶる戦い方で楽しもうとしている。
「何が愚かなの?」
「山田家の人間が飛び道具、何よりも、一撃で屠る攻撃が出来る立場でそれをしないとは」
「そう!それこそが山田家の過ち!」
「これ以上、山田家を語るな!」
夜一は剣を強く握り締め、立ち上がる。
夜一は剣を紫陽花へと向けるが、その攻撃は豪剣宝壊のみである。そして、その事実は紫陽花も理解していた。
「何度やっても、私は殺せない!」
その言葉と共に夜一の背中に何かが突き刺さる。
夜一はそこに手を伸ばすが、そこには、何も無い。
「⋯⋯魔力を凝縮させ、刃としたか」
「二度目も受ければ、魔法に疎くても理解されるか。でも何処から来るか分からない不可視の魔法の刃を気にしながら、私の相手をしなければならない」
「やる事は何も変わらない!」
夜一は強く握られた剣を振るう。
その斬撃は紫陽花へと向かっていく。
「一刀宝剣!」
夜一の豪剣宝壊を軽々と紫陽花の一刀宝剣でかき消された。
一刀宝剣は山田家の人間なら誰でも使用が出来るオーソドックスな技である。
生涯を捧げた自身の技があっさりとかき消された事に夜一は動揺を隠せずにいた。
そんな隙を紫陽花が見逃す事は無かった。
夜一の身体に不可視の魔法を凝縮した刃を放つ。
目に見えないその攻撃を夜一は身体中に浴びる。
「オーソドックスな一刀宝剣を強化させた豪剣宝壊が私に通用しない事は分かったでしょ?」
「良く分かった。だが、ここで山田家の誇りを捨て去る事は決して無い」
夜一の考えは何一つ変わる事は無い。己の信念に従って、剣を握る。身体中から出血し、意識が朦朧とする中、夜一を奮い立たせるのは常に山田家の誇り。それが夜一の全てである。
「豪剣宝壊!!」
夜一の渾身の一撃は紫陽花へと向かっていく。
何度も見てきたその斬撃に紫陽花はため息を溢す。
「だから、無駄だって。⋯⋯一刀宝剣!!」




