山田浅右衛門(やまだあさえもん)六
今まで、殺された死体達が無数の擦り傷と身体の至る場所の切断から事から犯人は殺しを楽しんでいると推測されていた。山田家、門下生達も殺人を犯してきたが、皆が山田の誇る一撃で殺しきり、浅右衛門の名を襲名するため、その技を披露していた。
しかし、今は紫陽花は山田家の誇る剣技を捨て、相手をいたぶる事しか頭に無い。
そこまで落ちた娘を見て、夜一は涙する。
己の全てを捧げた山田家の崩壊の原因が娘で、その娘が山田家の全てを否定するこの状況で夜一が出した答えは単純明快だった。
「親として、殺す事だけが、最後にお前にしてやれる事だ!」
夜一は紫陽花の魔力に当てられながらも、剣を構える。そして、直ぐ様その剣を振るう。
「豪剣宝壊!!」
それは夜一が半世紀をかけ、作りあげた技であり、一撃で振るわれたその一撃は紫陽花が放つ魔力を切断し、その斬撃は紫陽花へと向かう。
「旧世代の人間ね」
紫陽花は魔法陣を出現させ、その魔法陣の中へと入っていく。
「転移魔法か」
夜一は自身の攻撃が不発に終わり、姿を消した紫陽花が何処から姿を現すか警戒していた。
豪剣宝壊は夜一が全て捧げ山田家の未来を憂いて造られている。夜一自身も分かっていた。このままでは山田家は時代のうねりに当てられ、崩壊の一途を辿る結末が待っている事は誰よりも肌で感じていた。それでも夜一は最後まで山田家の人間して生きると決めた以上、山田家の者として娘を止めると決めていた。
避けられる知りながらも、夜一は豪剣宝壊で紫陽花を斬ることこそ、山田家を崩壊させた娘を屠る一撃でなければならない。
豪剣宝壊は魔力を剣に込め、その斬撃を飛ばす単純もので真っ直ぐ進行方向にあるものを切断する技であることから、簡単に避けられるデメリットがあるが、当たれば人間の身体を切断する事ぐらい造作も無い一撃である。
「そこか!」
魔法陣の出現に合わせ、夜一は駆け出す。
魔法陣から紫陽花が出現すると夜一は剣を振るう。
「豪剣宝壊!!」
夜一は再びそれを放つ。紫陽花はそれを軽々と避けてみせる。
「だから、古臭い!山田家が培ってきたものは動けない罪人の首を斬る姑息な技だけ⋯⋯それを捨てない限り勝ち目なんて無いって事にまだ気付けないの?」
「⋯⋯捨て去る事など出来る訳も無い。生涯の全てを山田家に捧げてきた。己を捨てる事も山田家を捨てる事もあり得ない。それらを抱えたまま、切り捨てよう」
「残念⋯⋯とても残念」
紫陽花のその言葉と共に夜一の身体を何かが貫く。




