山田浅右衛門(やまだあさえもん)五
作業的に処刑してきた紫陽花は己の意思で行うその殺人に今まで無いものを感じていた。
ひたすら、何も考えず、首を切断してきた紫陽花にとって、殺す相手の事など考える事も無く剣を振るってきた。しかし、山田家の人間、門下生達は処刑人とは違う反応を見せた。大人しく首を晒し、剣が振るわれるまで大人しくしている罪人とは違う。死を恐れ、逃げ惑うその行動は紫陽花の中にある何かを変えてしまった。
紫陽花は浅右衛門の名を襲名の為に、処刑の様に殺すと言う考えで動いていた。それは今までの裁いてきた罪人と同じ、ただ剣を振るうだけ。しかし、相手は縛られている訳も無く、死ぬ覚悟も無い。だからこそ、逃げる。簡単にこなしてきた首をはねる単純な作業が、単純ではなくなった瞬間でもある。
「⋯⋯殺しを楽しんでいるのか?」
夜一のその言葉に紫陽花は笑みを溢す。
紫陽花の中にあったそれは紫陽花自身もなんなのか分からずに居た。しかし、夜一のその言葉でようやく理解した。言葉なき、それは紫陽花の中で渦巻くその感情こそ、喜びなのだと
「そう!私は今、楽しんでいる。今までの山田家は間違っていた。抵抗も許されない死など、死では無い。死は尊いものだ!死に意味を与えるのがこれから私が目指す浅右衛門の姿」
「それは浅右衛門ではない!」
夜一は断言する。それは発した瞬間、夜一の迷いは全て消えていた。
先代浅右衛門を誰よりも近くで見てきたからこそ、言える一言だった。
夜一の見てきた浅右衛門こそが浅右衛門の全てであり、あれ以上は存在などあり得ないそう思うだけのものを見てきたからこそ、夜一は断言する。
「だから、古い!もう昔みたいに馬鹿みたいに首を斬れば言い訳じゃないっての」
「首を一刀で斬り伏せるからこその浅右衛門だ」
「違う!首を斬るだけで終わらせる?それは強さではない。弱さ!弱者!意気地無し!」
「なんとでも言え!」
夜一は魔法陣を出現させると、自身が所有する空間内から剣を取り出す。
「お前に見せよう⋯⋯先祖代々受け継がれし、山田家の技を」
夜一は手にした剣を紫陽花へと向ける。
「剣を振るうだけが取り柄の貴方とは戦いにならない。魔法と組み合わされた新時代の力こそ⋯⋯これからの時代を切り開く」
紫陽花は魔力を放出させる。その魔力は突風となり、
夜一が立っていられない程の魔力だった。
そんな魔力に当てられた夜一の身体は擦り傷が身体に刻まれていく。




