山田浅右衛門(やまだあさえもん)三
紫陽花が浅右衛門に選ばれない最大の理由は剣の技術が他の者と比べて低い事にある。
魔法を含めれば、紫陽花の独壇場だろうが、処刑人として、剣にて、人を殺める技術を持つ者が浅右衛門の名を襲名する事が決定している以上、紫陽花が浅右衛門に選ばれる事は無いだろう。しかし、紫陽花が浅右衛門になれる可能性もある。それは、紫陽花よりも剣の技術のある人間が居なく無れば、紫陽花が選ばれる事は必然である。
そう語った先代浅右衛門は紫陽花の不意打ちに対応出来ず、串刺しにされ殺害されている。
その言葉を絶対とし、己の行動の全てを正当化した紫陽花はこれからも見境無く、山田家の人間、門下生達を殺害していく。
そんな事が続き、門下生達は皆逃げ、山田家の者も去る決断した。
残されたのは山田夜一、山田明日香、山田朝香、山田朝陽、山田紫陽花の五名のみとなった。
「一週間を待たず、この場で浅右衛門を決めるべきだ」
五人が集まるその場でそう告げたのは夜一だった。
浅右衛門の襲名が終われば、無意味な殺害も終了となる可能性から出た言葉である。
「何を弱気な事を⋯⋯殺害方法からして、先代浅右衛門を殺した者と同一の存在であると分かった以上、そいつの首を私の前に晒しなさい!」
明日香のその言葉に誰も反論出来ない。先代浅右衛門の妻であり、現在山田家の実権を握っている女である。
「分かりました。この件は私が請け負います」
夜一はこれ以上の被害を恐れてか、一人での解決を提案する。
「分かりました。任せます」
明日香はそれを承諾する。夜一の剣は山田家の中でも、最速と言われ、防衛局にも顔の効く男である。
あらゆる任務を単独でこなす猛者である夜一は転移魔法でその場から離脱する。夜一が向かったのは、防衛局静岡支部だった。
「夜一さんどうしたんですか?」
静岡支部で毎回会い、顔馴染みとなった受付の青年はいつもの様に尋ねる。
「急用で、必要な物がある。魔法の鎖はあるか?」
魔法の鎖は日本で、静岡でしか造られない魔道具である。魔法の鎖は魔力で練られた鎖であり、その鎖で縛った対象の魔法を禁じる魔道具である。この時点ではそれだけだった魔法の鎖だが、この魔道具はそれ以外にも能力、異能、超能力の全てを封じる事が出来る事実が発覚するのは、世界がそれらの力の目覚めから数ヶ月後だった。
「ありますよ」
受付の青年は魔法の鎖を夜一へと差し出す。
「いつも済まないな」
夜一はそれを受け取ると、直ぐに懐にしまった




